赤髪の女子学生⑤
クリスティーナとその侍女マチルダはこの国の定番料理、豚肉を衣をつけて挙げたカツレツとサラダ、飲み物としてトロックナー特性の赤ワインを頼んだ。
「お待たせいたしましたー!」
かずさは注文された品をクリスティーナたちの前に並べる。
「美味しそうね。さっそくいただきましょ」
クリスティーナはそう言って、まずは出されたワインを一口飲む。
「すごい...これここで作られたワイン?香りもすごく良いし、酸味と甘みのバランスも絶妙だわ...」
その言葉にレッカーは嬉しそうに反応する。
「それはオレの昔馴染みが作ってるワインだ。気に入ってくれたか」
クリスティーナは大きく頷いた。
「とても気に入りました。素晴らしいワインだと、その方にお伝えください」
「ハハハ、あいつが喜ぶな。伝えておくよ。ほら、料理も食べな」
促されるままに赤髪の令嬢は目の前に出されたカツレツにナイフを通し、口に運ぶ。侍女のマチルダも同じタイミングでカツレツを食べた。
一口食べて二人は互いに顔を合わせた後、レッカーに顔を向け興奮気味に感想を述べる。
「すごく美味しい!宮廷料理より断然美味しいわっ」
「はい、誠に美味です、シェフ」
興奮したからか、クリスティーナはレッカーに対して使っていた敬語が自然と抜けてしまった。
自分の料理を褒められたのが久々だったレッカーは鼻高々に言う。
「そうだろう、そうだろう!宮廷料理より美味いなんて、お世辞でも嬉しいこと行ってくれるじゃねぇか!ほら、これはおまけだ。最近隣国のブロンツから伝わってきたもので、今試作中のものなんだ。感想を聞かせてくれ」
出されたのは細長く切って揚げたジャガイモの上に塩がかかった一品、いわゆるフライドポテトだ。
レッカーから出された揚げたてのポテトをフォークで刺したクリスティーナはハフハフとおよそ貴族令嬢とは思えない食べ方で口に頬張った。
食べたクリスティーナはナプキンで口を上品に拭う。
「これも美味しいわ。今のままでも十分なのだけれど、上から削ったチーズをかけたらまた違った味わいになるんじゃないかしら」
クリスティーナが提案している間、マチルダは栗色のくせっ毛を揺らしながらポテトを次々と口に運んでいる。無言だが相当気に入ったようだ。
「それはいい案だ!今度試してみるかな」
レッカーは満足そうにして笑った。
その後もクリスティーナたちは黙々と食べ進め、二人とも綺麗に完食した。ハンスは当初、本物のお姫様の口に合うか心配だったが何ら問題なかったらしい。むしろ二人ともひどく気に入ってくれたようだ。
「ご馳走様。手軽な値段でここまでの物が食べられるなんて…人気なのもよくわかるわ」
食べ終わったクリスティーナはほぼ満席の店内を見渡して言った。
「ご満足いただけてよかったです」
ハンスは包丁で野菜を切りながら答える。
作業中のハンスを見てクリスティーナは質問する。
「ハンスさんとかずささん、今日の仕事はいつ終わるのかしら。お礼の品を渡したいのだけれど、ここだとちょっと目立ちそうなの」
何を渡されるんだ、と一瞬緊張が走るハンスだったが表情には出さずに答える。
「二時に営業は一旦終わりますけど...オレは今日親方と練習しないといけないので時間がないですね。夜営業の終わりはさすがに夜遅いので今日はちょっと難しいです。かずさの方は問題ないと思います。買い出しもないので。あと、お礼は今日店に来てくださっただけで十分ーー」
「ダメよ。むしろサービスしてもらったんだからさらに借りができたもの」
ハンスの言葉を笑顔で遮ったクリスティーナ。
昨日の件といい、このお嬢様は自分の意思を頑として譲らない。かなりの頑固者だろうな、とハンスは思った。
「かずささんちょっと」
クリスティーナは通りかかったかずさを呼び止めた。はい?と呼ばれた本人は不思議そうに首を傾げる。
「昨日のお礼をお渡ししたいの。今日お昼の仕事が終わったら、川沿いのベンチに来てくれるかしら。そこで待ってるわ」
「わ、わかりました」
かずさの返事を聞いたクリスティーナは席から立ち上がる。
「お代はここに置いていくわ。シェフ、とても美味しい料理をありがとう。また来るわ」
「おう、いつでもおいで」
久々に自分の料理を褒めてくれた上客にレッカーは上機嫌だ。
マントと長い赤髪を翻し、クリスティーナは扉を開けて出ていく。マチルダも一礼して後に続いて行った。
「ハハハ、シェフだってよ。どこぞのお嬢様なんだろうな。面白い子だ」
「お嬢様、どころじゃないですけどね...」
ハンスはクリスティーナとほんの数回会話しただけだったが、ロビンと話す時とはまた違った疲労を感じた。
ーーなんだか、コイツが来てからいろんなことが起こってる気がする。
とハンスはかずさを半目で見る。
視線に気づいたかずさは怪訝そうな顔でハンスを見返す。
「な、なに?ハンス」
「何も」
またもハンスはすぐに視線を逸らし、自分の作業に集中する。
「かずさちゃんこっちー」
「はーい!」
ハンスのここ最近続く自分への冷たい態度に、かずさは気持ちのモヤモヤを抱えたまま呼ばれた席へと向かって行った。
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