赤髪の女子学生①
本日のゾンダーベルクはかずさが来て以来、初めての曇り空だ。
そして、店の中から曇天の空を見るかずさの心もまたこの空のように暗くなっていた。
店の開店準備をしながらかずさは考え込んでいる。
表情は心ここにあらずといった感じだが、手を止めずテキパキと働いているかずさをエレナは心配そうに見ている。
かずさの考えていること、それは昨日からハンスの態度がおかしくなった事だ。昨日から――もっと言うと昨日の帰りからハンスが急に自分と目を合わせてくれなくなった。
朝起きた時も、食事中も、出勤中も悉く目を逸らされている気がする。かずさは何か嫌われる事をしてしまったのでは、と内心不安で仕方ない。
一方のハンスは昨日の帰り道に橋の上でかずさを見つめてからというもの、かずさの目を見ることが出来なくなっていた。目を合わせると原因不明の動悸に襲われ、かといって離れることもできないため、ハンスはハンスで悩んでいた。
二人は各々の作業場所でため息をつく。その様子にレッカーもエレナも首を傾げた。
いつもの時間に開店した店内は今日も賑わっていた。
今日はかずさはエレナからもらった薄い桃色のスカートの伝統服を着て出勤したため、そのままの恰好で働けることになった。
かずさは露出も少なく落ち着いた色合いの服で仕事できることを喜んだ。今度から普段はこの服を着て行こうと心に決めたかずさの頭にはハンスが祭りで送った、桜を象った簪が光る。
かずさの黒髪に映えるらしく、客から誉められることも少なくない。
「お嬢さんのその髪飾り、良く似合ってるね」
「はい、故郷の花を象ってあるんです。私のお気に入りです」
笑顔で客に答えるかずさの声が、キッチンで作業するハンスにも聞こえる。
ハンスは自然と自身の口角が上がるのを感じた。
レッカーはそんなハンスに気づいて言う。
「お前、なーにニヤニヤしてんだ。手を動かせ、手を」
見られていたことに動揺しつつハンスは答える。
「べ、別にニヤけてなんかないですよ」
再び自身の作業に集中する。しかし何故だろうか。満席の客が店にいて、どれだけ賑やかになろうとかずはさの声だけは妙に耳に入ってくる。
「お待たせいたしました!ビールと本日の日替わり定食、お持ちしました」
一体どうしてしまったんだ自分は!と半ばやけくそになりながらハンスは営業中、調理に没頭し続けたのだった。
客もはけ、店は午後の休憩に入る。今回、二人はヘルケ商店への買い出しを頼まれた。
最初にかずさが店から出ると、外の扉の前でハンスを待つ。後から籠を持って出てきたハンスはかずさに言う。
「今日は別の道から行くか。いろんな道、知っといた方がいいだろ」
もちろん目は逸らしたままだ。その態度にかずさはますます不安になる。
「うん...」
二人は広場とは逆方向に進んでいく。
これから通る道は商店街の道よりも狭く、街に点在する大学の講堂と講堂を結ぶ道で、教室を変える学生たちが多く行き来する場所だ。
ハンスがこの道を提案したのは、人通りが多い道だと目を合わせて話す余裕も無いため、かずさを避けていると思われにくいと考えたからだ。しかし、今は授業の移動中なのか予想以上に学生が多い。
二人はつかず離れずの距離で人ごみを避けながら歩く。
すると道の真ん中で何やら学生たちがたむろしているのが見えた。
「あなた、さっき言った事を取り消しなさい!」
人だかりの中から女性の大きな声が聞こえる。その声に答える男性の声もまた大きく響き渡った。
「いいや取り消さない。俺様はただ事実を言ってんだよ。大した実力もないのに教授たちから贔屓されて。さすが、権力者様の妹君だ」
道にたむろしているのは学生たちである。多くの者が学生らしく白いシャツに紺色のスラックス姿で、黒いローブや学生帽を被っている。
その中心にいるのは学生らしき男女二人だった。
中途半端なところで終わってすみません!続きは月曜→火曜日の深夜0時ごろ投稿予定です。よろしくお願いします。




