街の誕生祭③
もうほんと、誤字マイスターになりそう。。
まもなく祭りのメインイベント、ランタン流しが行われる。人々は街を造った先人たちや、先祖に思いを馳せ、紙で作ったランタンを川に流す。
二人はランタンを買わず、橋の上から見学することにした。
川の両岸には各々が持ってきた紙製のランタンを持った人々が準備をしている。
橋の上にも観光客らしき人々はいるが、川岸よりはるかに人は少ない。
二人は欄干に手をかけ、ランタンが流れていく川下の方を見る。
夜9時を知らせる教会の鐘が鳴り響くと、人々は一斉にろうそくに火を灯しランタンを川に流し始めた。
ゆっくりと流れる無数の淡く、温かな光が次第に川の中央部まで流れていき、川の上で一つの道となっていく。その美しい景色にかずさは息をのむ。
今まで見たことのないおとぎ話のような光景だ、と心の底から感動していた。
ハンスはその美しい景色を見ながら、無意識に妹との記憶を思い出していた。
二人でランタンを川に流した時の事。それは母親が亡くなって次の年の事だった。
二人でマッチを付け、ランタンの下部にあるろうそくに火を灯す。
『おかあさん、見てくれとるかなぁ』
かがんで膝の上に顔を置き、楽しそうに話す妹。
「そうだな、きっと見てくれてるよ」
母が他界しても、泣き事ひとつ言わず我慢させているだろう妹の心境を思い、頭を優しく撫でた。
二人でランタンを川に浮かべた後、流れていく様子をゆっくりと目で追っていく。
『おかあさん見守ってくれとるよね。頑張っとったら、いつか会えるよね』
「あぁ、いつかな...」
二人は寄り添ってお互いの小さな手をしっかり握りあっていた。
ーーあの小さな手を、離さないでいようと思ったのに。そのいつかはあんなにも早く来るはずじゃなかったのに……!
突然ハンスは街とは逆方向に走り出した。
「ハンス?!」
急に走り出したハンスをかずさも追いかけて行く。人ごみをかき分けて二人は橋から離れ、山の上へと通じる道に入る。
かなりの急こう配で、ハンスの息はどんどんキツくなっていく。
しかし、ハンスはその苦しさがむしろ心地よかった。
ーーこのまま息ができなくなってしまえばいいのに。
道を登り終えたハンスは膝に手を付けたまま、上手く息ができなくなった。
「ガッ...ヒューヒュー」
軽く過呼吸の症状が出ている。
駆け付けたかずさは慌ててハンスの背中をさすり落ち着かせる。
「落ち着いてハンス。...吸って...吐いて...吸って...吐いて...」
かずさの助けもあり、息を落ち着かせることが出来たハンス。
しかし、胸中に抱えたぐちゃぐちゃな思いを吐き出さずにはいられなかった。
「何であいつが逝かなきゃいけなかったんだっ!何であいつだったんだ!オレは、何も、何もできずに、惨めで、俺だけ残されて.…..いつまでもこんな……気持ちで.…..これがオレへの罰ってことなのか。何もできない。ただのうのうと生きて、妹の事さえ満足に思い出してやれない、弱いオレは…...!」
ハンスの心の叫びにかずさは反射的に反論する。
「違う!!そんなこと絶対ない!」
「でも、ルナは!!助けられなかった.…..オレを信じて待っててくれたはずなのに...オレは...そんな何もできないオレが...無力な自分自身が...許せない...っ」
ハンスはふらふらと前に歩き出す。
二人は町が見渡せるほどの高さまで登ってきていた。
かずさたちが走ってきた道は舗装されていたが登り切った今、周りには崖に面した道があるだけで手すりもなく足を滑らせれば一巻の終わりだ。
それなのにハンスは周りが見えていないのかおぼつかない足取りで前に進む。
一人何かつぶやきながら、ふらついている足取りは今にも崖下に落ちそうだ。
「危ない!ハンス!」
ハンスが歩いていた道の端が崩れ落ち、ハンスの足が滑り落ちる。そのままハンスは全体のバランスを崩し、崖下へと落ちる。
瞬間、ハンスは思った。
ーーこれでオレの苦しみは終わるんじゃないか。
かずさは足裏に力を込め、思い切り地面を蹴った。
崖下に落ちるハンスの腕を間一髪で掴む。まさに紙一重のタイミングだ。
ハンスは恨めしく崖下からかずさを見上げた。
「……なんで助けたんだよ...」
その言葉にかずさは怒鳴り返す。
「バカなの?!何やってんの!!」
言いながらハンスを片腕で持ち上げたかと思うと、荒く地面に投げ捨てた。
勢いで地面を滑るハンスにかずさは続けて胸倉を掴み、拳を振り上げた。
かずさは息を荒げ、蒼い瞳を涙でいっぱいにしながら全身で怒っていた。
「君はっ!!!そんなこと誰も望んでない!!君が望んでも、絶対に、絶対に私は許さないんだからっ!認め……ないんだから...」
振り上げた拳を弱々しくハンスの頭に当ててから、かずさは力強く抱きしめる。
「ばか...バカぁ...」
かずさはハンスを抱きながら泣き出してしまった。
一瞬でもこの世から消えようとするなんて、そんな事考えてほしくなかった。望んでほしくなかった。
偶発的にそうなったとしても、落ちた時に見せたハンスの表情はどこかそれを望んでいてーー。
それが許せなかった。
ーー誰も君がいなくなることなんて望んでないじゃないか…...。
ハンスは自身を抱きしめながら泣くかずさの暖かさを感じ、自分が闇雲に行った行動の愚かさを後悔した。そして、自分が今こうしてかずさに抱かれていることに安堵し、自然と涙が込み上げてくる。
二人は夜の空の下、互いに抱き合い泣き崩れた。
ハンスは妹の事を思い出すと、助けられなかった事に加え、自分が楽しく過ごすことすら罪悪感を感じていました。妹の事を満足に思い出せない事にもまた罪の意識に耐えかねたからでしょう。ややこしい雁字搦めな男だったのです。
第一章、クライマックスまで今日中に投稿します。どうぞよろしくお願いします。




