祭りの前②
少し遅れてすみません!
よろしくお願いします。
レッカーとハンスが仕込みをしている間、かずさとエレナは奥の部屋でウェイトレス衣装を選びながら今日の事について話す。
「今日、ハンスと祭りに行って、それからこの手紙を渡そうと思います」
かずさは手に持った巾着袋を見せる。
話を聞いたエレナは静かに頷いた。
「そうね、早い方がきっといい。かずさちゃん、お願いね」
「はい」
かずさの蒼い瞳にはハンスを絶対に救うという強い決意がこもっていた。その瞳を見たエレナは再び満足そうに頷くと、続けてかずさに尋ねた。
「ねえ、本当に今日で最後なの?このままハンスと一緒に住んで働いてくれればいいのに」
「いえ、それはちょっと...。それにハンスは迷惑でしょうし」
「そんなことないと思うけど…」
ニヤけるエレナを見たかずさは今後の事をこれ以上話したくないのもあり、すぐに話題を切り替える。
「そんなことあるんです。それで今日はどんな服を着ればいいですか」
「テレちゃって、明日も出勤してくれていいからね。今日の服はーー」
ウインクしたエレナは衣装棚を探り、ほどなくして一つの服を取り出す。
「はい、これ。これを着たまま祭り行ってきな。これまで働いてくれたお礼。あげるわ」
それはいつもの伝統服であったが、スカート丈もひざ下、フリルもあまりなく、少しおしゃれ、程度の装飾だ。
色も控えめの薄い桃色と、いつもの華美な装飾とは違う。
「これ...本当に貰っていいんですか。すごく素敵な服なのに」
「いいのいいの、こんなに衣装あったって宝の持ち腐れなんだから。これ全部アタシの昔の服なんだけど、若い頃の体型と変わっちゃってね。着れないのにここにあっても仕方ないじゃない。さ、着替えた着替えた」
かずさは突然のプレゼントに悪く思いながらも促されるままに着替える。
着替えている間、エレナは部屋から一度出て、かずさが着替え終わった時に椅子を持って戻ってきた。
「さ、座って」
かずさは疑問に思いながらもエレナが持ってきた客席の椅子に座る。
するとエレナは衣装棚の引き出しを開け、櫛と服と同色のリボンを手に取った。
そしてかずさの後ろに立つと、かずさの髪を梳き、髪の一部を取ってなにやら編み込み始めた。
「祭りの日くらい特別な髪形にしなきゃね」
思いもよらないエレナの行動に一瞬驚いたかずさだったが、彼女の心づかいをありがたく受け入れる。
「ありがとうございます」
髪を梳かれる心地の良い感覚にふと瞼を閉じる。
自分の髪を誰かが梳いてくれたことなどいつぶりだろうか。
故郷の親友は何回か髪を結ってくれたことがあった。それ以外ではまだ4つや5つの頃は父にやってもらったことがある気がする。
瞼の裏でかずさは懐かしい故郷の友人とたった一人の家族を思い出す。こういうふとした瞬間に故郷を思い出すと、自分の決断で離れたとはいえ恋しく思ってしまう。
こんな愛しい過去さえもいずれ自分は思い出せなくなるのだろうかーー。
「はい、できた。この髪型も似合ってて素敵ね。そしてさすがアタシの腕」
満足そうなエレナの声で意識を引き戻されたかずさは瞼を開ける。
後ろから出された手鏡を見て、初めて自分の髪型を確認する。
ハーフアップの髪形に、三つ編みとリボンが編みこまれ、中央でその桃色のリボンが蝶々結びで結われている。実に可愛らしい。
初めての髪形に、気恥ずかしさもあるが、素直にこの髪型はきれいだと思ったかずさは礼を言う。
「きれい...エレナさんすごい。ありがとうございます!」
「どういたしまして。アタシも楽しかったわ」
いつものように軽く化粧を施してもらったかずさは部屋を出る。
レッカーとハンスは部屋を出たかずさを作業しつつそれぞれ見た。
ハンスは一度かずさを見たかと思うと、髪形が違うことに気づいたのかもう二度見してまじまじと見た。 しかしコメントは何も残さず、作業に戻った。
レッカーはいつも通りかずさに声をかける。
「おお、新しい髪形だな。似合ってるぞ。祭りで忙しいと思うが今日もよろしくな」
レッカーはいつになく忙しそうである。祭り当日の今日の客入りを考えると相当な忙しさを覚悟しないといけないようだ。
かずさは最後の日も精いっぱい働こうとやる気に満ちている。
「はい、こちらこそよろしくお願いします!」
元気に返すと開店準備に取り掛かった。
※かずさの髪形変えました!




