鍵の手がかり①
誤字が多くてほんとすみません、、ちょっとずつ直してるんですけど、、
翌日、かずさは出勤するといつものようにエレナと奥の部屋に入った。
楽しそうに服を選ぶエレナにかずさはさっそく昨日見つけた鍵をポケットから取り出して見せる。
今朝怪しまれながらもハンスの部屋を一通り探したが、それらしき物は見つから無かった。
ハンスに聞くのは最終手段だ。かずさの詮索を快く思わないだろうし、知っていても教えてくれない可能性が高いからだ。
ならばハンス以外の人間に聞くしかない。
「エレナさん、これ...昨日ハンスの妹の部屋で見つけたんですけど何か知りませんか。クマのぬいぐるみに隠されてました。ハンスの妹が残してたものだと思うんです」
話を聞いたエレナは悲し気な表情をして鍵を手に取った。
「そう...ルナちゃんが残した...」
「でもすみません、もう部屋にはそれらしい鍵穴を持つものがなくて...ハンスの部屋も探したんですけど、見当たらなくて...もしかしたもうハンスが...」
おせっかいだとしても、ハンスとその妹のために何とかしようと決意したものの、まだ何も出来ていないことを歯がゆく感じ、かずさは眉を歪める。
その様子を見てエレナは困った笑顔を向けてかずさの頭を撫でて言った。
「アンタが責任感じることないでしょ。むしろ、良く見つけてくれたわ...ありがとう、かずさちゃん」
鍵を返したエレナは続けて言う。
「旦那にも聞いてみるけど、たぶん知らないと思うわ...力になれなくてごめんね。...でも、かずさちゃんが見つけたのも何かの運命だと思うの。どうするかはアンタに任せるわ」
手のひらに返された鍵をかずさは握り締める。
「あきらめません。できる限りやってみます」
この鍵がどれだけ重要なものかはわからない。しかし、この鍵にハンスを救う手がかりがある予感がかずさにはあった。
今日のかずさの装いはいつものブラウスとコルセット風の胴衣に薄い水色を基調にしたスカートであった。色は落ち着いているが、残念ながらスカートは初日と同じ膝上丈、ふわりと広がるタイプで、白のニーソックス、靴もハイヒールと女の子らしさが再び増した。髪には左側にスカートと同色のリボンをつけている。
かずさは自分を着せ替え人形か何かだと勘違いしていないか、と不満そうにエレナを見上げる。
「今日もバッチリね!さ、準備始めましょう」
一同は慌ただしく開店の準備を始めた。
さすがに三日目ともなると、かずさは服に対する羞恥心も感じないようになってきた。レッカーもハンスも服に関しては特に言及せず料理の仕込みを続ける。
ハンスは準備をしながら、時折フリフリの衣装でテキパキ働くかずさを見ていた。
今朝のかずさの様子にハンスは疑念を持っていた。朝起きたかと思うと、部屋の隅から隅まで何やら探し回っていた。本人は失くした物があると言っていたが、キッチンの棚の下やタンスの裏など、明らかにあるはずのない場所を探していた。あからさまに怪しい。
しかし、正直に言わないということは知られたくない事なのだろう。隠し事は別にしてもいいが、どうにも釈然としない。
突然店の入り口がノックされた。はーい、と大きな返事をしてエレナが出る。
「あら、トロックナーじゃないか!」
「やあ、エレナ。新しいワインを届けに来たよ」
「いつもありがとうね」
エレナは扉を開き切ると、大きな樽を抱えたトロックナーが店に入ってきた。
腕まくりをした白いシャツに、サスペンダーの付いたスラックス姿。かずさが初めて見た時より砕けた格好だったが、やはり整えられた白髪交じりの黒髪や髭といい清潔感と気品がある。今は邪魔になるからか眼鏡はかけていない。
気づいたレッカーがキッチンから表に出てくる。
「ありがとうな、トロックナー。調子はどうだ」
レッカーは幼馴染に手を指し出す。
樽を床におろしたトロックナーは額にかいた汗を腕で拭いながら差し出された手を取り立ち上がった。そして二人はそのまま熱い抱擁を交わした。
「久しぶりだな、レッカー。僕の調子は上々だよ。おかげさまでね」
「それは良かった」
抱き合う二人をみて、タイプの違う二人だが本当に旧知の気心知れた仲なのだとかずさも改めて驚く。
しばし抱き合った二人はエレナを交えて雑談を始めた。
「明日が祭りだが、二人とも準備は順調かい」
「ああ、おかげさまでね。かずさちゃんのおかげで集客もすごくてほんと助かってるよ」
「さすがだね、かずさ君。今日の恰好も湖の精霊みたいでとっても素敵だよ」
息を吐くように誉めるトロックナーにかずさは少し照れた。
ハンスはトロックナーが置いた樽を奥に運んでいる最中だ。
かずさはもしかしたらと思い、スカートのポケットから今朝見つけた鍵を取り出してトロックナーに聞く。
「トロックナーさん、これハンスの妹の部屋から見つかったんですけど、開けられるものに心当たりありませんか」
まじまじと手のひらの鍵を見るトロックナーだが、首を捻って言う。
「すまないが、わからないね。レッカーの方が知ってるんじゃないか」
「いや、わからないな...これがルナの部屋から出てきたのか...。すまん、力になれそうにない」
二人とも申し訳なさそうに答えた。
「いえ、大丈夫です。他の人にもいろいろ聞いてみます」
ハンスが戻ってくる前に仕舞わなければ、とかずさは鍵をそそくさとポケットに入れた。
「ルナちゃん、病弱なこともあってずっと家にいたから同世代の子とはほとんど面識ないと思うし...。どこの鍵かしらねぇ」
一同で首を傾げているとハンスが戻ってきたため、この話題は打ち切った。
皆、ハンスが妹の事に関して触れないようにしているのを知っているようだ。
「じゃあ、僕は他に予定があるから帰るよ。じゃあ、また」
「ああ、またな」
「偶には食べに来なね」
「ありがとうございました」
返事を返すレッカー夫婦と一礼したかずさに、トロックナーは手を振って店を出て行った。
鍵の謎はなかなか明らかにならない。
他に誰か知ってる人はいるかもしれない。
かずさのこの街での知り合いは少ないが、昼休憩中にできるだけ一人で聞きに行けないだろうかとかずさは一人考えた。
再び怒涛の営業時間を終え、店は昼休憩を迎える。
「ハンス、あんたは明日の祭りの分も森にでも行って、一つでも多く秋の味覚を取ってきな。かずさちゃんには別でお使いを頼むわ」
「へ?具体的に秋の味覚って何ですか...」
「はい、行った行った」
エレナは採集用の籠を押し付けハンスを無理やり扉の外に押しやる。
強引すぎる気もするが、かずさはこれで鍵について調べる時間ができた。
残ったかずさはエレナに礼を言う。
「エレナさん、私が鍵の場所を探すために、気を使ってくれたんですよね。ありがとうございます」
「いいってことよ。あんまりアタシ達が鍵の事で動くと、ハンスにも気づかれちまうからね...頼むね、かずさちゃん」
「はいっ...で、休憩中は着替えても?」
「ダメだよ」
「……はい…」
今日はスカート丈も短いし、フリフリだし目立つから着替えたかったが笑顔で却下されたため、かずさは泣く泣く受け入れた。
ハンスが離れたことを確認したかずさは先日尋ねた肉屋のフライシュ、ヘルケ商店のヘルケに門番のロレンスを訪ねるも、すべて空振りに終わってしまった。
やはりもう手がかりはないのか、とかずさは一人広場のベンチで天を仰ぐ。
ーーどうしてもこの鍵で開ける物を見つけたいな。きっと妹ちゃんからハンスへの何かがあると思うんだけど……。
「おーーい!かずさちゃーーーん!」
どこからか自分の名前を呼ぶ声が聞こえる。
かずさは周りを見渡すと、そこには先日知り合った、ハンスの幼馴染の茶髪の少年が手を振っていた。
「そんなところで一人どないしたぁーーん?」
上機嫌で歩いてくるロビンに、かずさはハッとして目を向けると、この街に来て以来一番の大声を広場に響かせた。
「君だぁぁぁああ!!」
「何がぁぁぁ?!」
二人の声が昼下がりの広場にこだました。