街のシンボル ゾンダーベルク城
店の昼休憩中、二人は近くの森に料理に使う山菜や木の実を採集しに行く事になった。
かずさと出会った山は野盗に出くわす可能性があるため、比較的街に近い別の森に行くことにした。
目的地は川を渡らずにゾンダーベルク城の前を通り、3キロほど川沿いに歩いた場所にある。
街に近いこともあり、多くの者が来るため目ぼしいものがすでに採られていることも多いため、ハンスはこの場所での採集を避けていた。しかし、安全のため背に腹は代えられない。
かずさの今回の衣装は比較的に周囲から浮きにくく、街中を歩く際注目されることはあまりなかった。二人は先日とは違い、リラックスして街中を歩く。
山頂にある城の下を通るかずさは物珍しそうに、聳え立つ石造りの古城を見つめる。
「珍しいか」
かずさのその様子にハンスは話しかける。
「うん、故郷では木造ばっかりだったから新鮮で...やっぱり荘厳だね...。この街の一番偉い人が住んでるの?」
「そうだな。去年、先代の公爵様が亡くなって、今はまだ若い...確かオレとそんなに変わらない歳のフリードリッヒ様が位を継がれてる。病弱かなんかで、ほとんど姿を見た人はいないけど」
「へぇ。でも先代が亡くなって、そんな若い人に替わって混乱とかなかったの?」
「いや、特に。皆今まで通り生活してるよ。むしろ税も軽くなって行商人も増えて、前より活気が出てきたんじゃないか。そう考えると、新しい公爵様はうまくやってるのかもな」
「へぇ」
二人は並んで川沿いを歩く。
穏やかな川のせせらぎと暖かい陽光、緩く流れる風は心地良い。
ハンスが歩きながら持つ籠が振動で小気味いい音を出す。
「まあ、でもこれから大変かもな。この国の勢力図も二分されていて、このヴィレ州も軍事力の強い、古い王族率いるゲヴァルト州の勢力に入ってるんだが...同じく王族系譜のカートリア州勢力と対立していて、近々争いが起こるかもって話らしい」
「そうなんだ...」
明るい話題から、争いの話になり、今まで笑顔で聞いていたかずさもしゅんとする。絶大な武力を持つかずさだが、人が傷つく事はあまり好きではない。
そんなかずさの顔を横から覗き込みながらハンスは言う。
「おい、わかってるか。だから尚更アンタの能力はバレちゃいけなんだぞ」
「へ?なんで」
素っ頓狂な返事にハンスは半目で説教する。
「ただでさえ能力者は貴重なのに、争いに特化した能力なんて十中八九戦争に利用されるに決まってんだろっ」
「あ...それは...うん、気を付けるよ」
「ほんとかよ...アンタ、困ってる人とかいたら人前でも真っ先に能力使いそうだしな」
言い方は優しくはないが心配してくれてるハンスに否定できないかずさは苦笑いで頭を掻くしかなかった。