街の人々④ 肉屋のフライシュ
嵐のように去ったロビンを後に二人は最後の目的地、肉屋を訪ねた。
肉屋は街の中央広場の一角にあり、食堂からも近い。
調達する量も多いため、ハンスは一番最後に寄る事にしたのだ。
木組み造りの小さな店の看板には『肉屋フライシュ』と書いてある。
扉を開けて店に入った二人は乾燥肉や燻製などの肉特有の独特な匂いに包まれる。
店にはたくさんのハムやソーセージ、その他加工された肉製品が吊るされている。
店頭には一人、白いエプロンをつけた小太りの男がいた。
身長は平均よりやや低めで薄毛の頭をなでながら、何やらカウンターで帳簿をつけている。
「こんにちは、フライシュさん。豚と牛、いつものを5kgずつ下さい」
店に入るとハンスは普段通りといった感じでフライシュと呼んだ店主の男に注文する。
注文を聞いたフライシュは人当たりの良い笑顔をハンス達に向ける。
「やあ、ハンス。昨日来たばかりなのに、もう注文に来たのかい。ボクとしては嬉しい限りだけどね。待っててね、今準備するよ」
おっとりした声でハンスの注文を快く受ける。
「おやおや。今日は可愛らしいお嬢さんも一緒だね」
フライシュはハンスの後ろにいたかずさに気づく。
かずさは挨拶をするために一歩前に出てお辞儀をする。
「こんにちは、初めまして。かずさといいます。東から来た旅人で、今は数日だけですが、ハンスと一緒に食堂で働くことになりました。よろしくお願いします」
かずさは先ほどのハンスの幼馴染、ロビンには見せられなかったいつも通りの社交性を取り戻し、元気に挨拶した。
「はい、こんにちは。ふふ、すごく可愛らしい恰好をしているからデートかと思ったよ」
「なっ?!ちがっ」
自身の言葉に動揺したハンスの反応を見てフライシュはふふ、と笑うと店の奥へと行ってしまった。
フライシュの背中を恨めしく見送るハンスだったが、
「ハンス、デートって何?」
かずさの唐突な質問にまた動揺した。
「へ?!いや…デートっていうのは…その、仲の良い男女が一緒に出掛けること…だ」
何故かその質問が気恥ずかしく、答えづらいものの様に感じられて、ハンスはぼかした表現を使った。
かずさは顎に手を当てて理解した素振りを見せる。
「なるほど...じゃあ私たちはやっぱりデートしてるよね」
無垢なかずさの返事にハンスは目を逸らしつつも、
「そ、それは違う...」
しっかり否定した。
何故だと不満げなかずさをあしらうハンスの元にフライシュが注文した品を持って出てきた。
「はい、おまたせ~。仲が良いね。まるでボクと奥さんみたいだ」
「フライシュさん…揶揄わないで下さい…」
ハンスは若干疲れた表情をして会計を済ませる。
「はい、まいどー。いつもありがとうね。二人ともまたね~」
「はい、また来ます」
「はい…また」
かずさは笑顔で返すが、声音にいつもの元気さがない。
カウンターから手を振るフライシュを背に二人は肉屋を出た。
ハンスは先ほどのかずさの様子を変に思っているとかずさは静かな笑顔で言った。
「この街の人たちは優しいよね」
「まぁ、そうだな。どうした?」
ハンスの疑問には返答せず、かずさは突然頭を激しく左右に振ったかと思うと、肉と小麦粉が入った計12kgの籠をハンスから奪い取った。
そしてそのまま食堂のある道まで走っていく。
「早く行こうよー!」
籠を指でぐるぐると振り回しながらハンスを振り返る。
「危ないから振り回すなー!」
ハンスは先ほどのかずさの様子は思い過ごしだったかと、ため息をついてかずさの後を追った。
正確な時間は分かりませんが続きは週末にあげる予定です。
ここから、第1章の大事な場面が増えます。できるだけ誤字、脱字を減らしつつ、考えて少し慎重に書きたいので投稿ペースはそんなに早くないかもです(少なくとも週一は絶対投稿します)。申し訳ないですが、お付き合い頂けるとありがたいです。
ちなみに、フライシュって、ドイツ語で食肉、肉のことですので、間違っても人の名前にする様なものじゃありません笑 分かりやすかったのでしちゃいました笑
あとレッカーも、美味しいって意味です。ご参考までに(?)