街の人々③ ハンスの幼馴染
二人は次の目的地である肉屋を目指し、食堂近くの広場まで戻ってきた。
辺りは少し陽も傾き、夕方になろうとしている。
二人は人もまばらな静かな広場を突っ切って歩いていた。
「おーい、ハンスやないかー!」
向かいからかずさより少し高いくらいの小柄な少年が手を振って走ってきた。
少年は明るい茶髪に同色の眼をしていて、よく見ると鼻の上にそばかすがある。服はハンスと同じ白いシャツにウールの焦茶のズボンと茶色のベストを羽織っている。
親し気に笑顔で駆け寄ってくる茶髪の少年に対して、ハンスは引きつった顔をしている。
「げ、ロビン...行くぞ」
そう言うと正面から来る少年に横を向け別方向にハンスは歩こうとする。
「ちょいちょいちょい、待ってーな!なんで逃げるん?!お~いハンスく~ん」
すかさず方向転換したハンスを追いかけるロビンは傍を歩くかずさと目が合うと急に石の様に固まってしまった。
突然動きを止めた茶髪の少年に二人はビクッとする。
「……や」
ロビンは何やらつぶやくと次に口に手を当て、大きな声で言う。
「女神さまやっ!!!」
急な声量に二人は思わず目を丸くする。
誰の事を言っているのかとかずさは辺りを見回すが周りには今、かずさ達以外人はいない。
ロビンの目はまっすぐにかずさを見つめている。
まさか自分の事か、と驚いたかずさは否定するために全力で首を振った。
そんな動揺している様子を気にも止めずロビンはかずさの両手をがっと握ると、顔を近づけて突拍子も無い発言をする。
「好きや!結婚してくれっ!!!」
「……へっ?!」
会って数秒、突然のプロポーズにかずさは訳が分からず混乱する。
ーーな、なな、何言ってるのこの人っ!私、女神でもなんでも無いし!ハンスの知り合いみたいだし、いきなり断るのも失礼なのかな、でも気持ちには答えられないし、だけど真剣な(?)気持ちを無下にしていいのかーー。
などぐるぐる考えるかずさの頭の中はまさに混乱状態。
一連のやり取りを見ていたハンスは即座に自身の手で繋がれた手をぶった切り、かずさを庇うようにして前に立った。
「なんやハンス、邪魔すんな」
不機嫌そうにロビンは目の前のハンスを見上げる。
「そっちこそ急に口説くな。それにこの子はまだ子供だぞ」
「は?」
邪魔されて苛立っているのか、ロビンは一瞬睨むとハンスの横からひょいと顔を出し、かずさに聞く。
「自分何歳なん?」
「…十六です」
その回答にほらな、というロビンと後ろを振り返り、背にしていたかずさから思わずのけ反るハンス。
「嘘だ、十一とか十二だと思ってた…」
衝撃を受けた表情のハンスに、やはり子供だと思っていたのかと少なからずショックを受けたかずさ。
「お前、ホンマに子供思うてたんか…」
自分の事は顧みずハンスに対して軽く引くロビンだったが、すぐに切り替え再びかずさの手を握る。
「オレらと一つしか変わらへん。ほんなら年齢的にもまったく問題ないわな。で、女神ちゃん、名前なんて言うん?」
「…女神じゃないです…かずさです…」
かずさの控えめな返答に鼻の下を伸ばしてロビンは続ける。
「名前もかわええなぁ。おっと、オレが名乗ってへんかったな。オレはロビンや!今は世界一の木工職人になるべく修行中やけど、修繕や作って欲しいもんあったらいつでもオレに言ってや。かずさちゃんのためなら何でも作ったるで」
「あ、ありがとうございます」
「敬語なんていらんいらん。せや、かずさちゃんには食堂行ったら会えるんか?」
「は、う、うん」
「ほな今度行くわ~」
完全に蚊帳の外になったハンスはいい加減にしろ、と口を開く。
「おい、オレ達用事あるんだけど」
「はっ!オレも親方から使い頼まれとるんやった。ありがとなハンス、思い出させてくれて。ほな、かずさちゃん、また今度な~」
手を振ってそそくさと街に消えていく幼馴染にハンスは短時間でどっと疲れさせられた。
「ほんと、嵐のようなヤツだ…」
手を振り返した後に苦笑いでかずさも言う。
「賑やかな人だね…」
かずさも社交性がある方だとは思っていたが、それでもロビンにはついていけなかったのか、とハンスは驚く。
ーーそれにしても、こいつが一つ下...?
幼い顔立ちも相まってか、もっと年下だと思っていた。まあ、だからなんだ、とハンスは気にしないようにした。
ーー数日の付き合いだしな。
「じゃあ、肉買いに行くぞ」
「うん」
二人はすぐ近くの肉屋へと向かった。
エセ関西弁ですみません。こういう元気キャラ本当に好きで、絶対出したかったんです(笑)物語の性質上、どうしても暗くなりがちですので今後もうるさいキャラ生産していきたいですね。
さて来週は、更新ペース落とします。いやいや、買い出しに何日かけとんのよ…あと1話で買い出しは終わります(^◇^;)