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子龍よ、天を頂け  作者: ハイカラ
閑話2
79/81

SS 会合

とある空間に2人の人が互いに向かい合い座っている。その会合は秘匿されたもの。窓はなく、灯りは最低限の物しかない。2人は本来なら敵対はしないものの対立する組織の長同士。

質素ながらも威厳のある服に身を包む初老の男性、現リヴィングス元老長グリム・リーグハルト。

半身が黒く焦げその先にあるはずの左腕を焼失した獅子、現リヴィングス国王ダースニック・ルゥ・リヴィングス

2人はいわゆる乳兄弟。幼いころからの付き合いで今では国政のトップと国軍のトップである。公開の場所でならともかく、このような2人が密会をしようものなら2人の失脚を狙うものから執拗に追及されるだろう。


「直に会うのは久しぶりか?ダース」


「だな、戦争前に天龍の子龍に関するあれこれを決めた時以来か」


本来なら元老長といえど、国王に対して敬意を払わずに砕けた態度を取ることはありえない。しかし誰もおらず誰の目もないこの場であれば、ダースニックは気にしない。そもそも平時であっても気にはしないが、王という立場故に罰しなければいけない。


「むごい傷だ。王家の血といえどその傷を癒すことは能わなかったか」


「炎龍の祝福だ。老級の末裔といえどなせるもんじゃねえよ。お前の方こそ老け込んだじゃないか」


2人の見た目は親子ほど離れているように見える。けれど2人の年齢は一緒だ。グリムの血はそこまで薄いわけではないが、それでも王家の血は2人の生きる時代をこれほどまでも引き離す。


「何、年を取るのも悪くない。少なくともお前のことを若造と言えるのだからな」


にやりと口角を上げグリムはダースニックにもう一度若造、とののしる。確かに産まれは彼の方が数か月上であり、見た目もそうなのだがそれでもこの国でダースニックをそう呼ぶものはきっと彼以外いないだろう。


「はっ!ならお前はジジイだな」


「悪かった言い直そう、クソガキが」


互いに軽口をたたき合い、今までのストレスを発散し合う。これまでグリムは戦後処理の指示、ゼーブデイト王国への外交官の派遣、ダースニックは数日前まで生死の境目を彷徨っていいたが今ではもう軍の再編を始めている。どちらも戦時と同じか、それ以上の忙しさに追われていた。


「まあ馬鹿話もこれぐらいにしとこうか。あまり時間もない。俺はともかく、お前はな」


「うるせえよ。この龍害が始まった時から、いや受け継いだ時から覚悟してるんだ。今更悔いなんかあってたまるか」


「………………ならいい。でだ。報告書の方にはもう目を通したのか?」


「ああ、覇龍軍全体で死者4割、民間からの防衛軍も3割が死んじまった。んで兵団長も合わせて5人、か」


その他にも戦った者たちの中には死ななかっただけの者もいる。肉体に不可逆の傷を負った者、目の前で部隊が惨殺され言葉を失った者。それらの重軽傷者も合わせると、もはや戦える総数は5割にも満たない。


「民間人の死者は22万4000以上。それも確認されているだけでだ。これからもっと増える、もっと死ぬ。食料問題は喫緊の課題だぞ」


「分かっている。だが未だゼーブデイトから何も音沙汰はないんだろ?しばらくはそれこそ龍害であまりまくってる龍を食っていくしかねえよ」


「1万もの龍の遺骸そう長くはもたんぞ。例え水属性の魔術師や騎士を動員してもだ。それにまだ各地に散った龍達は息を潜めている。無暗に出て来るとは思えんが、それでも厄介だ」


「終末の龍害」を構成する全ての龍害を討伐したとはいえ、その殆どが老級、上級討伐による指揮系統の崩壊でしかない。確かにその過程で多くの龍を殺しているとはいえ、それでもうち漏らしがでてくる。


「保存はともかく各地に散った龍は最悪無視でいいだろ。僻地には悪いが中央付近から復興を始めれば守りやすい」


「それを決めるのは我々ではないがな。地方の貴族は確実に反対するだろうし、これを機に独立を始めようとする阿呆を出るかもしれん。気をつけろ一度崩れ始めたら止められなくなるぞ」


「独立してどうこうできるなら、むしろその手腕を買いたいぐらいだがな。結局一番の問題はあいつらだろ」


「精霊教会、か」


精霊教会、主に魔法使いたちの中でも精霊の真祖に信仰が厚い者たちの集まり。ここ1000年で勢いを伸ばし、今ではゲネルシャフトの半分が彼らの実質的な支配地である。

戦地からの半数の魔法使いの遁走。そしてレティシアの誘拐。未だ生存した裏切り者は口を割らないが、十中八九関係していると彼らは見ている。


「あいつらが逃げなければあと30部隊は生き残れた。絶対に口を割らせて見せる」


「だが表立った生命はまだ出してはいないのだろう?元から不干渉を貫いていた組織だ。よほどのことがない限りは犯行を認めはしないだろうな。だがまあ確かにこのタイミングで動いたのは気になる。リヴィングスの弱体化など大陸の反対側のあいつらには関係のないことだろうに」


「ありそうなのはそれこそゼーブデイトだけどな。すくなくとも急いで兵を戻すだけほどの何かがあったのは確かだ。そこに精霊教会が関わっているかは分からねえがな」


「仮にゼーブデイトの何者かと精霊教会が結託しているとした場合、標的はどこだ?」


「ゲネルシャフトの西部地域か、まあここか」


リヴィングスの真北に位置するゼーブデイト、そしてその東に位置するゲネルシャフト。ゲネルシャフトの西部、血の濃い龍人たちが統べる国々は昔から東部の魔法使いたちとは犬猿の仲だった。精霊教会の前身と言える組織の代からいがみ合ってきた2組のせいで、未だあの地域は停戦状態でしかない。


「ゼーブデイトを懐柔しゲネルシャフト西部を挟撃する。その際に邪魔なのがリヴィングスだからな。まあリヴィングスを攻めるにあたってゲネルシャフト西部から攻められる可能性はあるがな。2つを天秤にかけた時瀕死のリヴィングスの方が墜としやすいとふんだのかもしれん」


「ま、どれも仮定の話だがな」


「ああだが、その可能性がある限り対策は必要だ。あの件どうなっている?」


あの件、とダースニックは首をひねる。少なくとも彼には思い当たる節はないようだ。そのことにグリムは呆れたのか小さくため息をつく。


「子龍とお前んとこの、」


「ああ、それか。本人達しだいだろ。俺からはなんとも言えん。だがまあ見ている感じ政治利用されるのは好きじゃなさそうだがな」


「だが実際今後始祖龍討伐も含めると国防に割ける兵がほとんどいなくなる。他国からの介入を避けるうえでもあれは必須だ」


「俺に言うな、本人達に直接言え。ったく。だがまあ実際始祖龍は強敵だ。いまの覇龍軍じゃまず間違いなく壊滅だろうな」


始祖龍。この大陸に存在する5匹の龍の王。リヴィングス建国以降姿を見せたことはないが、その存在は確かに存在した。当然その力は老級を軽く凌ぎ、一国の軍で相手できるものではない。


「お前の見立てでもそうならなおさら、」


「だが今回は子龍がいる。それも2人。確かに未熟だがあいつらならきっと炎龍に手が届く。楽しみじゃねえか前人未到の始祖龍討伐。人はようやく神龍の足元に立てたってわけだ。だがまあ、そこに立ち会えないのは残念だがな」


ダースニックは興奮しながらそう語る。過去先祖が力を授かった相手に挑み討伐する。例えそれが個による力じゃなかったとしても彼は嬉しかった。きっとそれは人が龍から解放される第一歩だと彼は信じていた。けれどそれと同時にその場に立てないどうしようもなさが胸を締め付ける。


「………あと、どれくらいだ」


「もって半年だ。それ以上は俺の蒼炎ももたねえ。それにこの炎は炎龍討伐に必須だからな。どのみち俺は死ななきゃならん」


「短すぎるな、あまりにも。蒼炎の獅子の終わりが戦場ではないとは、ままならんな」


「そうでもねえさ。蒼炎のおかげで時間が出来た。引継ぎ云々はサリエルに任せるとして俺はあいつらをとことん鍛えてやることが出来る」


「こないだ見たサリエルの目、お前以上に死にそうだったぞ。少しは手伝え、というかお前の仕事のはずだ」


しんみりした空気に包まれるのは一瞬だけ、人の死を見続けてきた彼らが、誰かの死を受け止めきれないはずがない。たとえそれが自分であっても当たり前のことだった。


「ま、残りの時間ぐらい好きにさせてくれ。ここであいつらに死なれたらこの世界は終わりだ。未だに天龍の予言を信じてない奴もいるが、世界の終焉は確かに来る」


「炎龍とのつながりのおかげか?」


「そんなところだ。どんな形かは分からんが、人の世はなくなる。抵抗することすらできずにな」


人の世の終わりを彼は告げる。それは必ず何らかの形で世界を覆うと。故に子龍には強くなってもらわねばならない。今はまだ未熟でもいずれは神龍に手が届くまで強く。


残る時間は大雑把な国政の方向性を話し合った2人はそれぞれの出口へと向かう。この場所で少なくとも2人の向いている方向が同じだということが分かった、後は互いの実力を信用し任せるだけ。ダースニックは軍を、グリムは政治を、この国が生き残るために努めていくしかない。


「最後に忠告だ。生きているうちに息子とは話しておけ。それが父親の役割だ」


「今更父親ずら出来るかよ」


「だとしても、だ。息子が死んでからは、できないのだから」


「すまない、シュトルムは俺が殺したようなもんだ。恨んでもらっていい」


西部砦の防衛軍司令でありグリムの息子であるシュトルム・リーグハルトは先の龍害で死んでしまった。西部砦は火龍ウィチトリの龍域にさらされたことで最も被害が出た砦だ。もし仮に雪の龍域圏内であればそれも防げたかもしれない。だがそれでは全体が成り立たない。そんなことグリムも分かっている。


「見くびるなよダース!俺の息子は死を覚悟してあの場にいた。お前に謝られる筋合いはない!」


数舜前まで数メートルは離れていたであろうグリムが両手でダースニックの襟首を掴みそのまま壁に打ち付ける。その顔は怒りに満ちていながらもどこかダースニックに向ける憐憫のようなものがあった。


「だがな、死んでしまった以上もう話すことすらできない。だからせめてお前には後悔して欲しくないんだ」


「…………そうだな。折を見て話す。だから下ろしてくれグリム」


言われそっとダースニックを降ろすグリム。相手は怪我人だ。それも大が付くほどの。そんなことで彼が死ぬことはないとグリムは知っているがそれでもあれは冷静な人がやることじゃない。


「悪かったな。急に怒鳴っ。ッガ!」


突如空を割くアッパーカットがグリムの顎を殴り上げる。彼の眼前には右手を掲げるダースニックの姿があった。満身創痍と言っても過言じゃないほどの傷でありながら、ここまで動けるのはもはや一種の恐怖でしかない。


「………………やっぱりガキだな。それもクソがつく」


「ああ、だがそれも終わりだな。父親ってやつになりに行くとする」


「そうしてやれ、あの子には父親が必要だ」


2人の父親は帰路に就く。ともに担うものは重い。2人とも国を背負っているといっても過言ではない。だがそれでも父という重さも手放していいものではない。

でなければその死は祝福(呪い)となり果てる。

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