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子龍よ、天を頂け  作者: ハイカラ
リヴィングス覇龍国
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53話 終戦の使者

「おわ、った」


いや、まだだ。終末の龍害はアギナルド関係なくリヴィングスを襲っている。あくまで龍の一部をあいつは操っていたにすぎない。だからまだ、他の戦場に行かなければ。まだ戦わないと。他の誰かが死んでしまう。


「だ、ダメですアモウ!もう休んで下さい。そんな、そんなボロボロの体で戦ったら本当に死んでしまいます!」


体を支えてくれているレティが俺の体を制止する。だけど、でも、きっと、まだ戦っている彼らは俺のことを待っている。だから俺が行かないと。俺には、誰かを救える力を持つ俺にはその責任が、


「もういい休めアモウ。後は俺が何とかする」


少し遠くにいたはずのカウレスが近くにいた。さっきまで遠くにいたはずなのに、おかしいな。ああまた見えずらい。目を酷使しすぎたかもだ。

魔力がない。もう龍血脈動も終わってる。頭が、働かない。魔力切れなんてしばらく起こしていないはずなのに。


「レティシア無理にでもアモウを休ませてくれ。子龍にとって魔力切れはそれこそ死に直結しかねない」


カウレスの言葉がわずかに聞こえる。そうか現実だとまだ魔力切れを起こしていなかったのか。ノルディックめ、夢の中だと魔力量制限していたな。


「お願いです休んで下さいアモウ。もし休まないなら魔法をかけます」


「だい、丈夫だから、本当に。俺よりも、まだ戦っている他の人たちのことを、」


「それは心配には及ばない。君たちの戦いは終わったとも」


声がした。知らない人の声。その声は大きくなくとも稲妻のような鋭さで、意識を失いかけている俺にもはっきりと聞こえた。

目になけなしの魔力を通す。そうでもしないと輪郭すらも怪しい。そうして見えた声の主は、1人の子龍だった。

龍眼にして初めて気づくその莫大な魔力量。なぜカウレスが声を発さないかもこれでわかった。迂闊に動くことすらできない。動いたならば、即座にその腰に佩く剣を抜き放つほどの威圧感が彼女にはあった。新芽のような色の髪を短く切りそろえ物腰柔らかそうな女性だが、その目は、俺に、いや2人に向ける目は人を見るそれじゃない。何も感情が乗っていない無機質な目。ただ俺に向ける眼差しにだけ、優しさがあった。


「なるほど、君が天龍の子龍か。死に体の所悪いが君と少し話がしたくてね。どうだい私と一緒に来ないか?」


「こと、わったら?」


「そこの2人を殺す…………いやいや冗談だ。そう睨まないでくれ。私はただ弔いに来ただけだよ。この地で散った龍と私の同胞をね」


2人を殺す。その言葉には確かに殺意が込められていた。真っ向からそれもあれほどの殺気を。それにその後の言葉、龍とそれにその同胞とやらがアギナルドを指すのなら、彼女はまごうことない敵だ。剣を強く握る。もう戦えるわけがない。けどなにもせずに死ぬのだけはごめんだ。


「あいにく終わった戦いに興味はない。君たち全員を殺してもいいが、そこに意味はないからね。この忠告はあくまで老婆心のようなものだよ」


忠告、例えそれがどんなものだとしても現状敵対している人からのものなんて聞く義理もない。


「この戦いから手を引き給え。リヴィングスのことじゃないよ、天龍と神龍、2柱の龍の戦いは遠の昔から決着が決まっているんだ」


「馬鹿言うな。そんなことできるわけないだろ。確かに天龍は昔負けたかもしれないけど、これは俺の戦いだ」


神龍、いずれ人類に仇なすと言われる全ての龍の祖。その龍が人に仇なす限り、俺は戦わなければいけない。だけど、なぜわざわざ彼女が俺に忠告する?神龍を殺させたくないから、いや多分本当に彼女たちは俺が神龍には届きえないと確信している。その理由は分からないが、だとしたら本当に老婆心とやらか。


俺が回らない頭でそんなことを考えていることなんてお構いなしに、彼女は歩き出す。目指すのはアギナルドだったのものがいた場所。つまりは俺の目の前。咄嗟にレティを庇う。魔力もちょっとだけなら回復してきている。仕掛けて来るか?


「君は誰のことも愛さなかったが、私は君のことを愛していたよ。人をやめ龍になった君の姿が見れなくて本当に残念だった。さあ、もう眠る時間だ坊や。もう眠りを妨げるものはいない。ゆっくりその魂を休ませることだ」


虚空に彼女の声は響く。その目には確かな憐れみがあった。そんな目線を向けてくれる人がいたというのに、アギナルドはああも狂ったのか。


「さて、用事も済んだ。それで、私と一緒に行く準備はできたかな?」


「いく、訳ないだろ」


「ふむ、ならば無理やり連れ帰るか」


一瞬、ほんの一瞬だった。彼女の右手が閃いた。死を覚悟する暇もない。認識こそすれ、そこから体を動かす思考が出来なかった。目前に迫る死、けれどそれはわずかに届きえない。


「レティシア!アモウを連れて逃げろ!ここは俺が時間を稼ぐ」


カウレスが俺と彼女の間に割って入ってその一撃を食い止めていた。もし間に合わなかったら俺は死んでいただろう。連れ帰る。それは俺の体であればいいということか?いやそんなことより、早く加勢を、あの人は絶対に1人ではかなわない。


「馬鹿言うな!俺も、」


「ごめんなさい、夢境の精霊よ『瑞夢』」


レティの手から霞が漏れる。手を口に当てられ、吸い込むしかなかった俺の意識は、数秒たりとも持たなかった。




「言っておくが人よ、私が手加減するのは龍だけだ。意味のない殺しはしないと言ったが、邪魔建てするなら容赦はせんぞ」


「悪いがこちらも大事な友人を連れ去られるわけにはいかないんだ。それにこの龍害のこと、知っている情報全て吐いてもらうぞ、子龍!」


天羽と話す時とは違い、彼女の口調は柔らかみのない厳格な口調だった。その剣筋に一切の容赦はなく、紅蓮の炎と暗緑の雷は互いに鬩ぎあいながらもその優劣の差は歴然だった。炎は子龍の体を焼くことなく雷に拒まれ、雷は炎をいとも簡単に蹴散らしカウレスの体を灼いていく。

すでにレティシアは天羽を抱いてここから退避している。ならカウレスの自らに課した役目は時間を稼ぐこと。しかしそれは容易なことではない。


緑雷は空間を支配し、ただそこに存在するだけでカウレスの身を蝕んでいく。圧倒的な出力の差。敗北は必至、けれどカウレスは退くことを選ばない。


「万全の状態ならばいざ知らず、その体で何が出来る」


「友人を守ることが出来る。ただそれだけだ」


満身創痍。カウレスの体には蚯蚓腫れのような傷が全身に広がり、半身は痺れで動くこともままならない。対する子龍は一切の傷なくその威容を知らしめている。

その手に握る剣はまるで雷を鍛えたのかと疑うほどに剣身に緑雷を纏い、主に付き従っている。

轟音が鳴り響いた。斜陽に照らされたカウレスはその音の源が眼前の子龍ではないかのような錯覚を覚える。もはや空間全体が共鳴し、これから振るわれる彼女の一振りの威力を知らしめていた。


一閃、龍核解放でもなんでもないただの魔力を込めた一振り。ただそれだけのことのはずなのに、カウレスはそれを認識することすらできなかった。

鮮血が迸る。胸に開かれた一文字の傷跡は彼に膝を着かせるのには十分な傷だった。


「…………」


気絶しうつぶせに倒れるカウレス。その傷からはとめどなく血が溢れ、このままいけば死んでしまうだろう。けれどまだ、死んでいない。


「思ったより頑丈だったな。その身に龍の血が流れていることを喜び、生を噛み締めるといい」


子龍にとってそれこそ他人の生死などどうでもいいのだろう。彼女はカウレスを放置してその場から去る。まだ遠く離れてはいないはずの天羽を追って。




走る、走る、遠くへ走る。アモウを抱えて遠くへ走る。誰か、誰か、誰か。お願い。せめてアモウだけでも。

南に行けばヴォルフさんがいるはず。そこまでいけばきっと大丈夫なはず。だから、もっと早く!


迅雷が迸る。その意味を彼女は理解していた。逃げ切れないのなら戦わないといけない。眼前の敵は天羽を連れ去ろうとしている。

その理由は分からない。のっぴきならない事情があるのかもしれないが、それでも、無理やり連れ去ることは間違っていると、レティは思う。


「逃げるな人よ。おまえには興味がない。彼を置いてどこぞへと去るがいい」


「そんなことできません。何故アモウを連れ去ろうとするのですか!」


何故と彼女は問い詰める。未だ目の前の子龍はその目的を話さない。離せない理由でもあるのか、もしくは、


「ん?龍と龍とがともにいることに、何か不都合な事でもあるか?むしろお前たち人と子龍とが共存していることの方が、私には気持ち悪い」


さも当然かのように子龍はレティにそう告げる。子龍にとってそれは当たり前のこと過ぎて説明する必要性すら感じなかった。


「何を!アモウは人です。私たちの仲間です。決して龍なんかじゃありません!」


「異なことを。子龍とは龍の子。人から転じたものだとしても、その構造は殆ど龍だ。外見だけ人の形をした龍。現に、彼の胸に触れてみろ、その鼓動は人のものか?」


「わざわざ確かめる必要もありません。アモウが人であれ龍であれ彼は人を助けると決めたんです。それをあなたが土足で踏みにじっていいはずがありません!」


そんなこと関係ないと彼女は言う。人か龍かそんなこと彼女にとっては些細な事なのだろう。意思の疎通が出来るのなら、その存在が敵対する理由にはならないのだと。


「拒むか。なら仕方ない。人よ、おまえの体には大して龍の血は流れていないのだろう?あの騎士の様にいくまい。それでも戦うというのか?」


「そちらこそ退くつもりはないのですね」


互いに最後通牒を突き付けた。だがそれは望ましくない。あの子龍とレティが敵対すればまず間違いなく彼女は死ぬだろう。それほどまでに子龍という存在は圧倒的だ。もしその原因の一端が俺にあるというのなら、仕方ない、すこしだけ無茶をしよう。


「終炎の精霊よ、」


「遅い」


レティが詠唱を紡ごうとする刹那、子龍の剣はまっすぐ彼女の首へと吸い込まれる。このまま何もなければ数舜後に彼女の死は確定するだろう。それだけは何としても阻止しなければならない。例え俺の命を賭したとしても。

右手が動くことを確認しレティの襟首を引っ張る。それだけで彼女の態勢は崩れ、死の運命から遠のく。彼女の頭上を剣が通過したのを確認し一旦距離を取る。


「危ない。流石に今のは肝が冷えた。そういう危険な行為はやめにしてくれないか。レティ」


「ア、モウ?どうして魔法は確かに効いてるはずじゃ」


そうたしかにあの魔法は俺の体の中で機能している。だからこそあいつは眠り、俺が表層に現れた。もしただ気絶しただけなら無理だっただろうが、今回は彼女の魔法がある。魂から眠りについているんだ、なら別の魂が浮上してくるのも道理だろう。

こうして体を動かすのはかなり久しぶりだけど、ま、何とかなるだろう。


「おや、起きたのか。ならもう一度聞くが私と来てくれないかな」


「断る。悪いが今の俺に意思決定権はない。あいつがノーと言ったんだ。ならそれに従うさ」


「なら少々手荒な真似をするがいいかな?」


左腕は使えない。右足も、まあないよりましだろう。おまけに魔力は不可逆と来た。アドも使えないが、この剣もだいぶ丈夫だ。撃退程度なら申し分ない。


「やれるもんならやってみろよ。小娘」


「はは!子ども扱いとは生意気だな!」


子龍が動く。ただただ速度が速い。練り上げられた魔力の圧縮は、通常ならばたとえ龍眼があってもとらえきれるものではない。正面からの唐竹割り。

もし俺が避けなければ、その威力は魔力で強化されていないこの体なら容易に両断するだろう。けれどそれは、当たればの話。

振り下ろされる手前、半歩前に出る。勢いの乗り切らない剣の柄を右手で抑えつけ、横腹を蹴りぬく。瞬間的な身体強化、魔力の使用は最低限にとどめないとな。

蹴り飛ばされた子龍はせき込みながらもすぐに立ち上がり意外そうな顔をしている。


「不思議だ。君はまだ生きてる年数が少ないはずなのに、その動きに一切の無駄がない。小娘、といったのもあながち強がりではないのだろうか」


「さあ、さて諦める気にはなったか」


「いいや、俄然興味が湧いたとも。これは楽しめそうだ」


視界から子龍が消える。さっきよりもなお速い速度。背後に回られたのは何となく察する。かがみ、足を払って、体制が崩れたところの剣をかざす。ただ重力に従って子龍の頭はその剣目掛けて落ちて来る。けれどそれも、体をひねられて避けられた。あてるつもりはなかったが、それでもあの体勢から避けるのか。

崩れた体勢を立て直し、さらに子龍は向かってくる。雷のような剣閃、けれどそれも1つ1つ弾いていく。


「戦闘技術だけなら十鍵並み、いやそれ以上か。なるほど、いま理解した。彼女が求めているのは君なのだな。ならばその強さも納得がいく」


「彼女?悪いがこの世界に知り合いはいない。人探しなら他を当たってくれ」


互いに全力じゃない。子龍はただ出していないだけ。俺は出せない理由があるんだが、それはまあいい。だがこのまま押し切られればまずいか?何回か死を実感させているはずなんだが、それでも来るのか。


「このままでは千日手か。いや明確に君は手を抜いているから、いざという時は私を殺すか。仕方ない、ここが退き際か」


「そうか、ならとっとと退いてくれ」


都合がいい。どうせあの手の奴は死なない限りは起き上がるタイプだ。捕まえる事なんてできないだろう。そもそもそこまでの義理はない。


「本当はもう1人も行きたかったんだが、おっとそんな顔しないでくれ、彼女は回収しなくていいと言われていてな。まったく仲間外れはよくないだろうに」


「もし俺がいる場所で雪に触れてみろ。その龍核握りつぶすぞ」


「それは気を付けよう。それではお暇、おっと名乗っていなかったな。私の名はナルバレック、ただのナルバレックだ。ナルとでも呼んでくれ。ではまたいつか、龍として君に相対しよう」


落雷のような衝撃。子龍ナルバレックは一瞬で見えなくなった。残されたのは俺とレティだけ。そして俺に遺された時間もあまりない。まあ居座るつもりもないからいいんだが、少し説明が面倒だな。

レティが駆け寄ってくるのが見える。このまま倒れてもいいが、それだと彼女は納得しないだろう。少しだけ説明してあげよう。


「えっと、あなたはあのアモウですか?」


「第一声がそれか。勘がいいんだな。そうその通り、俺は君を案内したあの天羽だ」


「まずは助けてくれてありがとうございます。でも怪我は」


「心配しなくていい。子龍ってのは頑丈なんだ。死なない限りは死なないよ」


本当に子龍は死にかけるというのがない。一撃で龍核を破壊でもしない限りはその命は約束されている。まあ俺たちの場合そこは少し特殊だが、大枠は同じだ。不死ではないが限りなく不死に近い。


「それでも怪我をしていい理由にはなりませんし、怪我のまま動いていい理由にもなりません」


「そうだな、でもそういうのはあいつに言ってくれ」


「で、でも!あなただって、」


「俺だって、何?」


微妙に言い淀む。言いにくいことなのか。それともわずかに認めたくないことなのか。多分後者だろう。こういう時彼女は自分の思いよりも相手の思いを優先させる。悪いところが母親に似たな。


「あなたもアモウなんですよ。ですからご自身の体のことも大事にして下さい」


「ああ気を付ける。おっとようやく他にも誰か来たな」


あれだけの轟音、誰も来ない方がおかしい。さて、この場所にたどり着く1番手は…………あいつか。なるほど、子龍が退いた理由はこれか。俺にとっても、子龍にとってもあれは常識外の存在だ。とりあえずやり過ごすか。


「ああ、ヴォルフか。来てくれたのか」


「…………あなた、僕が知ってるアモウじゃないですね」


ばれた、か。そんな初見じゃ分からないはずなんだがな。規格外、という言葉がよくあう。まあ今はいい。味方の内は気にする必要はないしな。それよりも、ああ、もう時間か。少しだけ名残惜しい。せめて雪と会いたかったが、その時間も残されてないのか。


「じゃあまた、レティ。それに一応ヴォルフ・フォールンもアモウのことをよろしく頼む」


意識が消えゆく。微睡へと落ちていく。過度な干渉はしないが、まあこれくらいは許されるだろう。どうせまたノルディックは小言を言うだろうが、それぐらいは、付き合わないと。


地面へと倒れる。2人が駆け寄る気配がする。最後に見えたのは東の空に輝く星。あの星もきっと誰かを照らしていて、その星を掴もうと足掻いている人がいるのだろう。

もう俺にはその資格はないかもだけど、あいつはあいつなりのやり方で空を見る。嵐の中で光る灯台の光のように、道標として前へと歩いていく。考え方は気に喰わないが、まあ、その前途に祝福を。


リヴィングス前編これにて終了です。如何だったでしょうか。本当に遅筆ですみません。年末は樹を伐採していて時間が取れなかったんです。言い訳はこれ位にして、少ししたら閑話2を上げると思うのでそれまでお待ちください。それでは皆様よいお年を。果たして今は2026年なのか。それとも2025年なのか。時計を見に行こうと思います。

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