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子龍よ、天を頂け  作者: ハイカラ
リヴィングス覇龍国
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51話 新生する寵児

「カウレス…………」


右手で握る剣を地面に突き刺す。龍剣イル・ハンの片割れ、ヨウムさんの剣、これがあり、そしてカウレスがそれを持ってきたということ、それは彼の言葉の信憑性を裏付けるには十分だった。

人殺し、それを俺が肯定することなんてできない。友人がそれを犯したという現実も受け入れがたい。でもきっとそれは、カウレスの苦渋の決断だったのだろう。それを責める事なんて俺はしたく無い。


「アモウ、君がここにいるとは。けど、助かった。…………アギナルドを止めてくれてありがとう」


その感謝の言葉を言うのがどれだけ彼にとってつらいことなのだろうか。アギナルドはあいつにとって殺したいほど憎い相手のはずなのに、俺の意地でその命を奪うことはしなかった。

龍剣イル・ハンの龍核解放は二対の剣の間に波濤を形成する。本来なら剣戟の合間に発動するだろうそれは、担い手が2人により、片方が軌道を逸らすとその軌跡はずれる。あの時、咄嗟に俺は剣を下げその軌跡をずらしてしまった。

それにカウレスは、どういう思いであの人を斬ったのだろう。恩師であり、最も長く彼の隣に立っていたであろうヨウムさんを。それはきっと俺には理解できないもの。何年、何十年、何億年経とうと俺がそれを理解できることはないのだろう。

人が1人死んだ。そんなことこの戦場じゃありふれた、抗いがたい現実だ。それを1回でも少なくするために、俺はここにいて、俺がいない南部ではきっとまた人が死んでいる。それでもきっとその総数は龍域がなくなった戦場よりかは少ないはずだ。

最善を最良を、選び続けなければいけない。カウレスにとってそれがヨウムさんを殺すことなのだとしたら…………いや考えるのはもうやめよう。俺はまだ精々4週間程度の付き合いしかないんだから。


だけどこれでもう戦いは終わった。四肢を斬り飛ばされたアギナルドはもう何もできないだろう。あとは拘束してそれぞれの戦場に帰り残りの老級を討伐するだけだ。けどそれももう終わっているかもしれない。

なにせ南にはヴォルフがいて北にはローランド達親衛隊がいる。俺もカウレスも相応に怪我を負っている。アギナルドにしろヨウムさんにしろ尋常の相手じゃない。龍血脈動の効果ももうそう長くは続かないだろう。


「カウレス、体の方は、」


「待て、アモウ。様子が変だ」


カウレスが俺の言葉を遮りアギナルドが倒れ込む方を指さしながらそう言う。そこにはもう何もできないアギナルドが横たわっているだけ。だがもしかしたらまだ何かあるかもしれない。


「とりあえず拘束を、カウレス何かそういう魔術はないか?」


「いや…………離れろ、アモウ!」


瞬間、闇が溢れた。そう形容することしかできないその事象は周囲に黒い繊維状の物体をばら撒きながら跋扈する。見覚えしかないそれはアギナルドの体を中心に発生していた。

四肢をもがれ、精神の支えとしていた養父を失いそれでもなお、いやだからこそアギナルドは止まらない。

これを俺は知っている。この溢れんばかりの魔力の高鳴りを俺は一度だけ見たことがある。忌避すべきそれは、ベルクスで多くの命を奪い、また同時に担い手の命すらも消費する禁忌。


「龍核廻転…………」


それは俺とカウレスどちらの口から零れたつぶやきだろうか。けどそれは端的にこの地獄の原因を端的に表し、事態の深刻さを示していた。

アギナルドがもっていた剣の銘は分からないが、それでもダースニック王やカウレスの龍剣と遜色ない魔力量、なら間違いなく老級だろう。そんな存在が、リヴィングスの首都に顕現することを許してしまった。その責任は、あいつの命を奪わなかったのは、俺だ。

人はいない。けれど、ここは龍害の後の復興の中心地だ。そんな場所が蹂躙されることがあっていいはずがない。


「くそっ!」


「待てアモウ、落ち着け。いま行ったところで、あの糸に蹂躙されるだけだ!」


「でも、俺が。俺があいつを殺さなかったから!」


そうしたら、俺は俺を一生許せることはないだろう。歩き出した道を違え、別の道を歩き出す。人殺しを許容する、もう二度とあの星の光が当たらない暗闇の中を。


「俺だって、ここに来るまで時間がかかりすぎてるんだ。だから、おまえの責任じゃない」


「………………だけど」


恩師を殺さなければいけないカウレスと違って、アギナルドは俺にとって赤の他人だ。はたから見れば、そんな人を殺さない選択肢を取っている俺に責任があるはずだ。


「ともかく、起きてしまった以上は俺たちの役割はこいつの被害をなるべく少なくすることだ。地上はもう奴の領域だ。一旦、龍に乗って退くぞ」


カウレスの言う通りもう黒糸は足元まで迫っていた。それは俺の足元にあるヨウムさんの剣をまっすぐに狙い一瞬で絡みついた。


「渡すかそれを!」


急いで腕を伸ばし剣の刃の部分を握る。取り返そうとするも黒糸の力はすさまじく、強化している俺でも力負けしている。

血が出る、黒糸が昇ってくる、そんなこと関係ないこれは、ヨウムさんがカウレスに残した大事な剣だ。それをおまえなんかに。


「今は退けアモウ!もう片方は俺が持ってる。だから今は!」


カウレスが俺の肩を掴み止めに入る。その拍子に腕の力が抜け、剣を手放してしまった。ヨウムさんの剣はアギナルドがいた方へと、運ばれ黒糸の塊へとその姿を沈めた。

ただ眺めることしかできなかった。一瞬の出来事で黒糸を断ち切るだけの魔力を集めることが出来なかった。友人の大切な剣を俺は守ることが出来なかったんだ。


「退こう、アモウ」


「………………ああ」


今は、退こう。ここで死んだら何も為せなくなる。それはダメだ。俺のために死んだ人。俺が救えず見捨てた人。その人たちの死を無駄にするわけにはいかない。


カウレスと共に互いの騎龍に乗りその場から一旦離れる。上空から見下ろす地上はまさに黒一色の海。波は建物を飲み込み、自らの一部と変えていく。およそ龍と形容できないそれは、けれど龍の貪欲さをその身に確かに宿していた。

その黒の魔の手は着々と学術区を飲み込んでいき、数秒もしないうちに雪とレティがいる魔術院オーガスタへと侵入を試みていた。


「まずい…………いくらイゼルマ学長の魔術結界で守っているとはいえ、老級の攻撃を防ぎきることは不可能だ」


「助けに行く。カウレス、援護頼めるか」


もうすでに魔術院の半分近くが飲み込まれている。確かに多少侵食を拒んでいるが、それも時間稼ぎにしかなっていない。元居た講堂は、まずい、もう飲み込まれて、

諦めかけた自分をぶん殴ってやりたかった。講堂を黒糸が飲み込んだ瞬間、1匹の龍が飛び出してきた。3人を乗せた龍は、それでも的確に黒糸をよけ、上空へと退避していく。


カウレスと2人で急いでその龍に近づく。間違いなくノエルさんの騎龍。その背に乗るのはノエルさんを含め3人、雪とレティものっていた。あの場にいた他の人たち、精霊教会の人たちがどうなったかなど想像に難くない。俺の決断で何人が死んだのだろう。もう考えたくないが、現実逃避だけは許されない。立ち止まることは、振り返ることは許されるかもしれないけど、その選択から逃げる事だけは許されない。


「無事か!3人とも」


「ああ、殿下、それに子龍様も。お二人ともよくぞ無事で。子龍様も安心して下さい、レティ殿も、それに、紛らわしいですね、名で呼ぶことをご容赦ください、ユキ様も無事です」


「全然気遣わないでくださいよ、できれば様もつけないで欲しいかな」


「それは、いえ、子龍様に敬意を払うのは当然のこと。お許しください。アモウ様もそれでよろしいですか?」


ほんの一瞬、いまが戦闘中だということを忘れそうになる。雪の具合もさっきよりかは良さそうだ。返事をもしっかりしているし、顔色もいい。西部の龍域を解除したおかげか。何にせよ無事でよかった。


「俺も呼びやすい呼び方でいいですよ。それより今は、」


「ああ、あの龍の討伐。人を捨ててなお、この国を、俺を破壊しようとするあいつを、討伐しなければいけない。いいかアモウ」


龍核廻転は人を基とする。つまりそれは殆ど人殺しと同じだ。厳密には違うかもしれない。死に瀕する者への慈悲の刃とも取れるだろう。でも、もう俺は殺してしまっているんだ。過去に2人、龍となった人を。なら、もう、殺さずに終わらせる選択肢は取れない。


「ああ、もう、終わらせよう」


俺とカウレスに残された時間も少ない。太陽はもう傾きつつある。戦いが長引きすぎた。本来ならもう全て終わっているはずの時間帯のはずなのに、まだ戦いは続いている。


アギナルドは、アギナルドだったものは、周囲の建物を飲み込みさらに成長している。このままいけばテノティトそのものを飲み込まんとするほどに、その勢いは留まる様子はなかった。ある程度の大きさを確保できたのか、黒い海はその形を龍の姿へと変化させる。

大きさは、老級、いやな予想だけ当たってしまうな。形が変わってなお、侵食速度は変わることなく、その矛先は空中にいる俺たちにも向いた。


「俺とアモウが奴を削る!ノエルは2人を乗せ退避してくれ!」


「カウレス王子、私と精霊たちもまだ戦えます。今は少しでも戦力がいた方がいいはずです!」


「ならアモウの龍に乗って援護してくれ、ノエルは城に戻ってユキの護衛を頼む。彼女の龍域が最後の砦だ。絶対に守り切れ!」


「レティ、こっちだ!」


黒糸の隙間を縫いノエルさんの騎龍に近寄る。正直一緒に戻ってほしいが、レティの言い分が最もだ。この状況で戦える人を遠ざけるのは、愚策だろう。スピード勝負なんだ、戦力は1人でも多いほうが良い。


ノエルさんの騎龍に相対速度を合わせる。レティが伸ばす手を掴み、おもいっきり引き寄せる。軽い彼女の体が一瞬宙を舞いカノンに着地した。その隙を狙ったのか、黒糸がこちらを狙ってきたが、カウレスがそれを防ぐ。


「雪、今は龍域に集中してくれ」


「もちろん、だけど最後に一回だけ手伝わせて。『アラウンド・イノセンス』」


雪が刻んだ魔術は、闇龍を中心に純白の結界を築く。それは闇龍から発せられる黒糸を拒み、外部へと漏らさないようにしている。どれだけもつかは分からない。けど確かにその純白の壁は黒糸からこの都市を守っていた。


「助かる。けど無理するなよ。ノエルさん、雪のことお願いします」


「分かってる。もう魔術は使わないよ。天羽君も死なないでね」


「ユキ様のことはお任せください。では、行きましょう」


2人を乗せた騎龍はあっという間に見えなくなる。黒糸の妨害を振り切って、まっすぐに城へと突き進んでいく。あの人に任せれば雪も大丈夫だろう。今はあの龍をどれだけ早く討伐するかに集中しないと。


「レティ、援護頼む。けど、無理はしなくていい」


「それこそ無理な話です。ここで余力を残したってどうにもならないじゃないですか。全力で、無茶してでもあの龍を止めてみます」


「…………そうだな。悪い、無茶させる」


頼もしい限りだが、同時に心配してしまう。でも、彼女の言う通り余力を残してもしょうがない。ありったけの魔力を剣に乗せる。覚悟だってきっとできてる。あれはもう人じゃない。人ならざる暴虐の龍。ならきっとあれを討伐することは人を救うことにつながるだろう。

嫌だな、ずっといい訳ばかり探しているみたいだ。


闇龍は体のほとんどを黒糸で構成している。どういう原理であれが生物足りえているかは知らないが、それでも龍である以上その内部には龍核が存在するはずだ。それがどんな形であれ、例え人の形をしていても、破壊してしまえばこちらの勝ちだ。


「どうするカウレス?」


「アモウは…………外殻を削って隙を作ってくれ。レティシアさんもその援護を。止めは俺がさす」


「気遣いは、」


「いや、これは俺なりのけじめだよ。だから、どうか力を貸してくれ」


ヨウムさんとの約束だろうか。俺には窺い知れないそのけじめは、それでもカウレスにとっては最も重要な事なのだろう。なら止めは彼に任せるしかない。

目を逸らすべきではない。人が人を殺すところから。


こうしている間にも黒糸は俺たちを狙い続け、本体たる闇龍も着々とその輪郭をはっきりとさせ、もう翼が完成しそうになっていた。

縦横無尽に駆け巡る黒糸は、アギナルドの黒糸と違い、多少触れたとしても操られることはない。質よりも量、おそらくだが、あの糸で全身を覆われない限りは操られることはまずない。

だがそれでも糸の量はアギナルドの時よりも比べ物にならず、人一人覆うことなど容易な事だろう。魔力で弾くことが出来るのは龍血脈動を行使している俺とカウレスのみ、もし仮にレティが俺の元から一瞬でも離れれば、囚われ吸収されてしまうだろう。


黒糸を掻い潜り、闇龍へと接近する。蜘蛛の巣のような糸の間を掻い潜るのは龍であっても難しい。けれど未だ闇龍本体が動いていないこの状況で討伐しないと後が怖い。

だいぶ距離を取っていた上に黒糸が進路を塞いでいるせいで、距離を詰めるのにも時間がかかる。


そのうえ、


「何ですか?あれ」


「くそ、黒糸だけで厄介だってのに」


進む先、カノンの進行方向に、黒い塊がいくつもあった。毛玉のようなそれは、俺たちが近づくとその形を変えどす黒い魔力を放出してくる。


「レティ、しっかり捕まっていてくれ!」


「はい!」


カノンが速度を上げる。放出された魔力は決して速くはないが、じわじわとその範囲を広げ俺たちの行く手を拒みつつ退路を断ちつつある。触れたらやばいのは眼に見えている。

多少の被弾は覚悟の上だ。黒糸が腕を貫き、黒い魔力が足を蝕む。それでもなんとかカノンやレティにあたりそうなものだけを的確に弾いていく。だがそれも、完璧ではない。


「いっ!」


「………………!」


レティの小さな悲鳴と、カノンの声にならないうめき声が聞こえる。俺にもっと力があれば、彼女たちに傷を負わせることもなかったはずなのに。僅かな傷も下手すれば致命傷になりかねない。


「私は、大丈夫です。気にしないでください」


「悪い、少しの間耐えてくれ」


それでも、周りの誰かが傷つくのは嫌だ。けどそんな感情も、今この戦いにおいて気にする余裕もない。自分1人ならいい。けど俺にかかっているのはこの戦いの勝敗だ。絶対に負けるわけにはいかない。


実際の距離はそんなに長くはなかっただろう。大きく迂回した俺たちは、ようやく闇龍の元へと辿り着く。当然闇龍の付近は黒糸が多く、気を抜くと一瞬で周囲を囲まれてしまう。

だが、ここまでたどり着ければなんとかなる。本体は、よし、まだ動いていない。なら今のうちに、


「天狼の精霊よその権威と孤高とをもってわが敵を凍てつかせよ!」


レティの詠唱が紡がれる。それは以前テノティトを襲った龍害の折、俺とダースニック王を土龍の攻撃から守った蒼銀の輝き。けれど今回は、氷獄となって龍を凍らせる極星の瞬きとなる。


「『万界閉ざす蒼銀の氷獄』!」


黒糸が凍っていく。凍ったことで脆くなったそれは粉々に砕け散り、一点に集まっていく。砕けた黒糸が集まったことで形成された蒼銀の輝きを放つ巨大な氷塊は、6つにさけ、闇龍へと射出された。その氷は闇龍の右側へと着弾し、その周囲を凍らせる。

およそ生物らしからぬ闇龍といえど、体の3割近くが凍らされることには痛みを感じるらしく、初めてその巨体を動かした。


「ギャアアアアアアアアアアアアアア!」


金切り音のような悲鳴と共に、動き始めた闇龍は凍ってしまった末端の部位を自ら壊しながら、こちらへと向かってくる。

多少の怪我ならそれこそ周囲の黒糸で治せるのだろうが、今は殆どレティが凍らせた後だ、もう一度あの量の黒糸を生成するには雪が築いた魔術の壁を越えなければならない。故にその凍った体を顧みず、壁の向こうへ進みだす。


胸部は、ダメだ。異常な量の黒糸が集合し、肥大化している。レティの氷も胸部に至る前に防がれた。あの様子じゃ、多分俺とカウレスの龍核解放でも胸を経由して龍核を破壊するのは無理だ。数を重ねればいけるかもだが、今はその時間も魔力もない。

龍の首目掛けてアドを構える。俺の意図を組んだのだろう、カウレスも龍の正面に立ち、その首が落ちるのを待っている。

けれど首も胸部ほどではないにしろ守りが堅い。それこそ魔力をありったけ使わないと斬り落とせそうにない。


「レティ、少し守りを任せてもいいか?」


「もちろんです。今度は私が2人を守ります」


そんなことはない。いつも守られているのはこっちの方だ。

レティに後ろを任し闇龍に集中する。龍の眼には俺たちは映っていない。眼の前の脅威よりも、あの純白の壁を破壊することに注力しているのだろう。けれど龍はそこに存在するだけでも脅威になる。

僅かに残る黒糸は主の歩みを邪魔させまいと、こちらに向かって攻撃を仕掛けて来る。糸は糸でも束ねれば龍にさえなるのだ。なら武器にならない道理はない。

束ねられた糸は見覚えがある剣へと形を成し、俺やカウレスを舞うように襲う。カウレスは1人でも魔術が使えて身を守ることが出来るが、俺は魔術を殆ど扱えない。だから任せた、レティ。


「藍晶の精霊よその権威を示せ『夜纏の精晶』!」


レティを中心に群青色の水晶が聳え立つ。迫りくる剣はそのほとんどが水晶によって拒まれ、残りはそもそも当たらない。

魔力を廻し束ねる。目標は龍の首、それでも死ぬことはないのだから、龍という生命がどれだけ規格外なのかがわかる。もはや凍り付いた体のほとんどが崩れた闇龍はそれでも前進を続け、俺の眼の前へとやってくる。


「止まれ!『アド・アストラ』!」


純白の光が前へ前へと突き進む。それは寸分たがわず龍の首へと吸い込まれ、その巨木の如き首を断ち切った。その断面からはわずかに龍核らしき魔力が漏れ出て、龍がその弱点を晒しだしていることを証明していた。


けれど落下する首はその輪郭を歪ませ、また黒糸へと変化する。解かれた黒糸は、けれどまた一点へと集まり空中に黒い穴を作る。その穴は僅か光ですら反射することなく、実際にそこに散在しているはずなのに歪んで目に映った。


「あの魔力濃度、息吹か!」


「私の魔法じゃ龍の息吹は防げません、カウレスさん!」


その照準は正しくカウレスに向けられていた。龍核を狙わんとする障害を排除するべく集められた黒糸は、もはや臨界に近くいつ暴発するかも分からなかった。

それでもカウレスは、ただ龍核があるであろう場所を見つめ焦ることなく、上段に構えた剣をまっすぐ振り下ろした。


「『プライマル・ノヴァ』!」


世界が反転する。明滅する紅蓮の光は、他の色の存在を一切許すことなく貪欲に光を喰らい突き進む。

闇龍もそれをただで受けるつもりもないらしい。束ねられた黒糸はカウレス目掛け解放され、紅蓮の炎と対峙する。

ぶつかる炎と糸はほんのわずかの間拮抗した。もし仮に彼の龍が万全の状態ならば結果は変わっただろう。けれど今は肉体の構成中にその3割を破壊され、頭脳体である頭部も破壊された。それでもなお頭部の黒糸を媒介とした息吹で、カウレスの龍核解放を減衰させた。


カウレスの龍核解放は届いた。露出しているはずの龍核に正しく撃ち込まれた。僅かに減速はしたものの、それでも直撃したはずだ。それなのに、なんで。


「龍が死んでない!?」


上半身は吹き飛び、体の右側は凍り砕け、それでもまだ倒れずに進もうとする闇龍の姿がそこにはあった。龍核の位置は普通胸部にあるはず。あの龍が例外なのか?いやあの魔力は龍核だった。ならどうやって。


「生きて、いたか」


カウレスが眼を細める。俺と違って魔術で飛べるカウレスは、高い位置から龍の傷を見つめている。

けどカウレスが何を見つめているかは、俺たちにもすぐにわかった。何故ならそれが聞き覚えのある声を出したから。


「まったく、死にかけましたよ。ですが、気分は最高ですね」


死んだはず、いや龍となったはずのアギナルド・モースウィッグが龍の傷の断面からその上半身を覗かせていた。


リヴィングス前半、あと2話。年内までには終わらせたいです

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