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子龍よ、天を頂け  作者: ハイカラ
リヴィングス覇龍国
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45話 第三勢力

光が見えた。天を突くような、いや天から落ちる光の柱が。あれは間違いなく、雪の、


「急に止まってどうしました?」


「あの光、雪の魔術だろ。何があったんだ?」


そうだ間違いない。あのモースウィッグで使った魔術と同じ気配、同じ色。だからこそ問題だ。雪がこの戦いで魔術を使うような機会は無い。ありえないんだ、あの光は。それにさっきの伝令、アギナルドとカウレスの交戦、微妙に引っかかる。今までカウレスと直接対峙することを避けてきたあいつがこの土壇場でそんなことするのか。だめだ、どれもこれもあくまで可能性だ。確証がない。

残る老級は未だ見つからない俺がここから離れたら、多くの人が死ぬことは目に見えている。だから今は、


「僕1人でもここなら老級の相手をすることが出来る。君は彼女の下へ行くべきだ」


「いやいくら何でもⅠ人じゃ、それにあいつは俺が他人よりも自分を優先することに一番傷つくんだ、だから」


「どちらにせよ、彼女が死ねばこの戦場は前提から覆る。そうですよね?」


それは、確かにその通りだ。雪が死ねばこの龍域は崩れ去り、残る老級は己の龍域を刻印し、圧倒的な戦力のもとこの都市を蹂躙するだろう。つまり俺がここにいる南部砦の兵士を見殺しにして雪を助けに行かなければ、この国は滅びて龍害は次の国へと凱旋する。


「君は他人を信頼してはいますけど、信用していない。現に僕が、老級相手に死ぬと予想しています。一種の不信、自分よりも弱い存在をどうしても疑ってしまうようですね」


ヴォルフの言葉は俺の痛いところを的確につく。他人のことなどどうでもいいかのような性格かと思ったが、そんなことは無い。しっかりと観察し、その内情がどんなものかを判断している。

見下している、そういうわけではないんだ。ただ、どうしてもその可能性をぬぐい切れない。自分のできる事は何となくわかる、だから俺よりも強い人には安心して任せられる。


「そうですね、ここであのアハカの時の決着でもつけますか?」


いつものヴォルフとは違う、冷めた眼をした顔がそこにあった。綺麗な中性的な見た目からは想像できないほどの冷たい表情。冬の吹雪のような激しさは無く、深海、いや宇宙のような静かな冷たさがそこにあった。


「今はそんなことしてる場合じゃない」


「そう、時間がない。今にもユキが死にかけている可能性もある。だから君は急ぐべきです。大丈夫、きっと君は正しい方を選択できます」


迷うべきじゃない、そんなこと分かっているつもりだ。俺がとるべき選択は常に1つだけだ、より多くが助かる方を選ばなければいけない。誰であれ、その命の価値は同じなのだから。でもせめて犠牲になった人たちの責任を俺は背負わなければいけない。


「信用、してくれませんか?」


その言い方はなんかずるいな。


「悪かったヴォルフ、じゃあ、頼む」


「はい、頼まれました。では頑張って下さい」


カノンの手綱を引きテノティトの方へ戻る。そこまで離れているわけでもない。物の数分で着く。レティもいる、無事の可能性が高いが、相手がもし仮にアギナルドの仲間だったのならブラックモアを持っている可能性もある。護衛の兵士に気づかれずに雪たちに接近できる、そうなると流石にまずい。


龍害を抜けるとそこはもう南部砦にほど近い場所だった、老級を討伐するためにかなり奥まで入り込んだはずなのに、もうこんなところにまで侵攻しているのか。

かなり押されている。雪の龍域の影響で龍はかなり弱体化を受けているはずなのにそれでもなお、このありさま。あいつの存在がどれだけ重要か改められて再確認させられる。

全ての砦がこれだとは思いたくない。きっと西部はダースニック王が、北部は親衛隊の人たちがうまくやっているはず。


砦から数km、城壁が見えてきた雪がいるとしたら王城、でもそこはここからでも分かるほどに、何か大きな穴が開いていた。あれがもし、さっきの光の柱だとすると、侵入者は王城内部まで侵入していることとなる。ならやっぱりブラックモアを。


どう探すのがいい、いったん城に行くべきか、それとも他の場所を探すべきか。そう少しの間逡巡していると、龍に乗った人物がこちらに近づいてきた。一瞬の警戒、けれどその顔には見覚えがあり、俺は1度だけこの人にあっている。


「あなたは確か、ドラグーン隊隊長のノエルさん」


「名前を覚えていただき光栄です、子龍様。あなたはなぜこのような場所に」


事の経緯を話す。俺はそのことよりもこの人が何でここにいるかが気になる。ドラグーン隊は確か街の中に入ろうとする龍の最終防衛、だからここにいる事態はおかしくないのだが、この人は城から来た。


「なるほど、アモウ様もユキ様を探しているのですか。ちょうどいいですね、私も彼女たちに用があります。ご同行しましょう」


「ちなみにどのような要件で2人に」


「それは、移動しながら話しましょう。今は時間が惜しい。城の者の話を聞く限り、赤い光が学術区方面に移動したとのこと、現状手掛かりはこれしかありません、とりあえず先を急ぎましょう」


とりあえず今はノエルさんの後に続き彼女がここにいる理由を聞く。実際俺に手掛かりがないのは事実だから。




ノエルが天羽と合流する数分前


「だーくそ、土龍ってのは何でこうも硬えんだ」


西部砦、そこで戦うダースニックはたった今、6匹いる老級の一角、土龍の討伐を終えたところだった。彼の下敷きとなっている土龍は全身が砕かれ、所々が炭化していた。周囲には蒼い炎が燃え盛っており、今までの激戦を示している。

老級が万全の状態であれば、こうも早く勝負がつくことはなかっただろう。ただここは雪の龍域で、あらゆる面で老級には不利だった。しかしそうだとしても1人で老級を下すことが出来る存在など、世界にそう何人もいない。

そんな小休憩を取っている彼の下にノエルが近づいてきた。


「陛下、報告です。第4兵団団長シュトラウス公爵が戦死、以後第4兵団は副団長の現シュトラウス公が引き継ぐとのことです」


「そうか、あの老いぼれ息子に後を任せたか。先王から仕えてきた臣下がまた死んじまったな。…………いや待て、なんでおまえが伝令じみたことしてんだ、ノエル」


ダースニックは部下の死を偲び、数秒瞠目したがその後すぐ違和感に気づく。本来、各地を回り、うち漏らした龍を殺す最終防衛としての役割をもつドラグーン隊がわざわざこんなところに来る理由がない。


「はい、その報告です。おそらくですが、半数近くの魔法使いが姿をくらましました。その影響で連絡網が崩壊、特に西部が酷いそうです」


「は?…………くそ、アギナルドの仕業か?」


「いえ、おそらくは別の勢力によるものかと。彼のものはいまカウレス殿下と交戦中とのことです。そこまで手が回るとは考えにくいです」


魔法使いの逃亡、その知らせにダースニックの思考は一瞬止まるが、すぐにまた動き始める。この事実が広がれば戦線に影響が出るのは間違いなかった。未だ残っている魔法使いが敵前逃亡する可能性もある上、他の兵士もそれに続いてしまう可能性もある。得てして敗北はそんな小さな綻びから生まれるものだ。

連絡網がなくなった以上各砦同士での連携は不可能に近い。再構築するにしてもかなり限定的なものとなるのは間違いないだろう。それだけこの戦いにおいて、魔法使いという役目は大きかった。

彼らが逃亡した理由をダースニックは考える。ノエルの言う通り、アギナルドによる妨害とは考えにくい。ならば、魔法使いの中に逃亡を先導したものがいると見た方がいいだろう。それは誰か、いや、この状態になることでどこが利を得るかを考える。


「精霊教会か、いやあいつらは良くも悪くも中立だ、よっぽどのことがない限り出しゃばらねえ。なら一番あり得るのは、ゼーブデイトか」


ゼーブデイト、隣国の自然豊かな国。その国はつい4週間前まではこの国に兵や物資の援助をしてくれていた。しかし4週間前に彼らは引き上げ、自国へと帰っていった。その理由を彼らはダースニックに言うことはなかったが、ある程度の理由は思いつくだろう。国内で兵隊が必要になる理由、龍害、自然災害、そして反乱。それ以降ゼーブデイトからは音沙汰はなく、今日に至る。


「やはり反乱でしょうか?」


「さあな、そんなこと考えている暇は今はねえからな・とりあえず魔法使いの件は保留とする。大きくはあるが、どうしようもねえ。おまえはこのまま第4兵団の援護を、」


ダースニックが言い切る前に世界に異変が起こる。白い墓石が佇む世界が一瞬ぶれる。本来の草原が垣間見え、ところどころに罅が入っていた。一瞬の出来事ではあるが、事態の深刻さを伝えるのは充分だった。龍域の主である雪に何かが起きた、それを理解したダースニックはノエルに指示を出す。


「予定変更だ。おまえはこれからユキの所に行け。そんでこう伝えろ、西部砦を龍域から外し負担を減らせ、と」


「ですが、それでは」


「ここの奴らには悪いが、あいつに背負わせるわけにはいかねえよ。それに、魔法使いの件も少し気になる。そのままおまえはユキを守れ」


この戦域を龍域から外すということは、この地の老級に龍域を許すということとなる。それがどれだけの被害につながるか分からないダースニックではない。それでも全ての砦で龍域が消えることを一番危惧してこの決断を下した。


「…………承りました。陛下の威光が龍を骨まで焼くことを願っています」


ノエルはその王命を受け、騎龍にまたがり空へと羽ばたく。その練度はアモウと比べると雲泥の差があるほど、龍の扱いが巧みだった。龍はその場で翻り、王城目掛けて空を駆ける。

ダースニックはその様子を見送り、別の方向へと眼を向ける。その眼は獲物を狩る狩人の目ではなく、自身と同等の、いやそれ以上の強者と出会った戦士の顔だった。

その方向、ダースニックから100mほど離れた場所に途方もない魔力が出現する。その魔力量は先ほど彼が倒した龍と比較してもなお莫大な量だった。

老級の火龍。リヴィングスの歴史の中で最も有名で最も人を都市を灰燼とかした火の化身、火龍ウィツィトリ。

それを見つめるダースニックは己が体に眠る龍の力を呼び覚ます。


「我、炎龍の名代にしてこの地を治める血族の一員。契約に基づきその血よ目覚め脈動せよ」


蒼炎が爆ぜる。周辺の空気が陽炎のように揺蕩い、歪んでゆく。ウィツィトリの炎が血のように赤黒く染まるのに対して、ダースニックの炎の蒼は蒼穹のように青白く染まる。そして身に纏う魔力がその名を告げた時により眩しく輝いた。


「『シウメテル』」




「西部を龍域から外す?いやでも、それは」


「ええ、大勢死ぬことになります。覇龍軍の中でも最も精強な第1、第2兵団といえど準備なしで、真正面から龍域を持つ老級と当たれば、壊滅は必至、良くて撃退でしょう」


もう今更後には引けない。悔やむのは後にしろ。きっとダースニック王もそれが最善だと断じたからそう命じたんだ。そして俺も雪を助けに行くと決めたんだ、今はそれ以外考えるな。


もう学術区に着く、雪を見つけることはそう難しくない。アスターは俺と魔力でつながっている。そしてそれは間接的に雪にも繋がっている。だからアスターの魔力を眼で捉えることが出来るのなら、そこに雪がいる。


「ノエルさん、この地区で一番守りやすいところはどこですか?」


「そうですね、魔術院オーガスタ、その学生寮、もしくは少し離れた研究棟の3つが比較的守りやすいでしょう」


魔術院オーガスタ、確かレティがそこの避難誘導を手伝っていたはず。ならそこが一番可能性としては高い。とはいえ、他2つも可能性はある。というか民家や商店に隠れている可能性も。けど雪が龍域を維持している間は動きやすいところよりも、守りやすい方が、雪の負担にならない。そうレティなら考えそうだ。


「なら俺がオーガスタに行きます。残りのどちらか任せてもいいですか」


「ええ、もちろん。では、お気を付けて」


オーガスタに向けてカノンは飛ぶ。あそこはここで一番大きな建物だ。上空からなら障害もなくまっすぐ飛べる。たった2分ほどで、目的の建物にたどり着いた。上から見ても分かるほどその正門は無残にも破壊され、何者かが力ずくで入り込んだ証拠だった。


「間に合えよ、雪、レティ」


カノンを降り、おそらく侵入者が通った道筋をたどる。ここまで入り組んだ内装だと流石に徒歩のほうが早い。痕跡はすぐに見つかった。廊下には争ったような痕跡があり、ところどころに魔力の残滓が残っていた。


「これはレティの、ならやっぱりこの先に」


はやる気持ちを何とか押しとどめて、油断せずに走り出す。まだ龍域は刻印されたままだ、なら少なくとも雪はまだ生きている。ああ、くそ、やな考えだ。それじゃまるでレティの死を覚悟しているみたいじゃないか。

たどり着いた先は大きな講堂だった。中から激しい金属のぶつかる音がる。様子を見ると、レティとここにいるはずのない人物がここにいた。

そいつの剣は今まさにレティの命を終わらせようとしている。魔力を解放する。考えるよりも早く、俺の体は彼女と剣との間に割り込み、その剣を弾いていた。


「悪い、待たせた」


「アモウ!」


レティの体を抱えて、雪の下へ下がる。雪はまだ俺がいることに気づいていないのか、地面に刻印されている術式をじっと見つめている。その顔は真っ青で今にも気絶してしまいそうなほどだった。でも今は雪のことを心配する余裕もない。目の前の人物を充分い警戒しなければ、殺されるのだから。


「アギナルド、どうしておまえがここにいる」


本来ならこいつはカウレスと交戦中のはず、だというのに確かにアギナルドは俺の眼の前にいて、レティを殺そうとしていた。

カウレスが殺された?いや、夜のならばともかく昼のカウレスにこいつが正面からやり合って勝てるとは思えない。それにやっぱりこいつには、カウレスと直接会う勇気はないように思えるんだ。


「あなたに応える義理はありませんよ。私はそれ以上にあなたがここにいる方が疑問だ。もしかして、戦場の仲間を見捨てたのですか?」


アギナルドが冷たく笑いそう問う。そうだ、どう取り繕ったってそれはある種の事実だ。俺は雪とレティを優先して、南部で今なお戦っている人たちを見捨てた。結果的に救う道を選んだとしても、それまでに多くの人が死ぬだろう。


「雪が死ねばより多くが死ぬことになる。その道は選択肢にすら上がらない」


「ふっ、それで自分の精神衛生を保っているつもりですか?まあいい、あなたがどのような決断を下そうと興味はありません。しかしそれが私の邪魔建てをするのなら、話は別です」


アギナルドが魔力を発露させる。まずいな、ここでの戦闘はあちらに有利過ぎる。雪やレティを守りながら、あいつを無力化するのは無理難題にもほどがある。だからまずはノエルさんと合流して2人を任せないと。

だから今は時間稼ぎ、そう構えようとしたその時だった。


怨嗟の精霊よその権威を示せ『愛憎の泥炎』」


詠唱が紡いだ魔法は粘性の強い炎を生み出しアギナルドを焼く。レティの声じゃない。男の人の声、いやそれ以外にも複数の人の声が混じったものだった。

増援?ありえない話ではないが、問題は来た人たちが魔法を使うということだ。これだけ大きな戦いでは魔法使いはその殆どの場面で伝達の魔法を使わなければいけなくなる。当然こうして増援に来るのならもっと適任がいるだろう。そして俺はさっき魔法使いの約半数が逃亡したことをノエルさんから聞かされている。警戒するのに越したことはない。


声の主が姿を現す。10人弱が部屋の中に押し入り、状況を確認していた。あの程度の炎ではアギナルドが死ぬことはない。けれど完全な慮外な魔法だったのか、右腕に火傷を負っていた。


「何者ですかあなた方は?不愉快にもほどがある」


「答えてくれませんか?あなたたちは俺や雪の味方ですか」


場は完全に崩された。互いに下手に動けない状況の中、侵入してきた魔法使いの集団の代表者が被るフードを外し、その顔を見せる。大柄な体躯によく似合う厳つい顔立ちの男だった。その腰に魔法使いが持つことは不自然な一振りの剣を佩いていた。若干の既視感、俺はこの男をどこかで見たことがある?

その答えはすぐ後ろから発せられた声で明らかになった。


「ラニウッドさん?どうしてあなたがここにいるのですかあなたは南部砦の中継役のはずです」


いつもより、若干低くレティがラニウッドと呼んだ大柄な男にそう尋ねる。南部砦、つまりは俺が数十分前までいた場所。戦いが始まる前にどこかですれ違ったのか?門題はその南部砦の中継役の彼がここにいる理由。逃げ出しただけなら戦意の喪失で納得できるが、わざわざここにいる理由目的があるのか?まずいな、情報が無さすぎる。

ラニウッドと呼ばれた男はようやく口を開き、俺たちの問いには答えず、レティの質問にだけ諭すような口調で答える。


「精霊教会、と言えばわかるかなレティシアさん」


「精霊教会は龍害に対して不介入の立場をとっています。少なくとも邪魔する理由がありません」


そうなのか?俺はそこら辺の情報は全く知らない。でもレティが言うのならある程度信頼できる情報だ。じゃあ問題はその精霊教会の魔法使いがここにいる理由だろう。


「確かに精霊教会はこの龍害に対して不介入の立場をとっている。しかし1つだけ、我々が介入せざるを得ない事項がある。それは、あなただ、レティシア・ノーレッジ様」


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