表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
子龍よ、天を頂け  作者: ハイカラ
リヴィングス覇龍国
64/77

42話 ぶつかる世界

「来たぞ!」


誰かがそう叫んだ。数えるのもばかばかしいほどの龍の大群が空一面に広がっていた。それと同時に第5、6兵団の兵士たちが砦から出撃した。指揮官は騎龍に乗り、魔術士や剣士は馬に乗り地を駆ける。その軍勢は手はず通り2手に別れ龍害を挟撃し始めた。


そして時を同じくして、砦の各所から轟音が鳴り響く。大砲に込められた魔力が砲弾と化し龍害へと降り注いだ。効果は少ない。龍害への攻撃は通りが悪いのは百も承知だろうが、牽制と足止めを兼ねて次々と発射される。


両翼へ突撃した2つの兵団は次々に龍を殺していく。地上を這う土龍や木龍は剣士が、空を飛ぶ水龍に風龍それに火龍は、魔術士や指揮官である騎士が互いを庇うように進軍していく。統率の練度があの龍達の比じゃない。比べる事すらおこがましいほど、彼らの連携は俺の眼から見ても素晴らしかった。


それでも正面からの進軍する龍は止まらない。仲間の死など意に介さずただ人を殺さんと砦へ向かってくる。そのほとんどは砲撃により止められているが中級以上の龍は砲撃の雨の中をこちらに向かってきた。魔術士は後半戦に備えて魔力を温存しており、龍の対処はもっぱら俺たち剣士だ。

次から次へとくる龍を切り落とし都市内への侵入を防ぐ。終わりが見えないほど龍の軍勢は城外にその死体の山を築いていく。一瞬にして戦場は血生臭い匂いに包まれ、顔をしかめたくなる。けれど今のところこの砦での死者は出ていない、順調に龍害へと対処できている。


しかしそう順調に進むほどこの龍害は甘くない。本来なら国全体で相手取るような龍害が3つもあるのだ。そしてこの龍害もその1つ。そこに含まれる上級は今までの比ではない。

龍の群れの中からひときわ大きい龍が現れた。上級の火龍、その翼は真っ赤な炎に包まれ煌々と燃え盛っていた。その翼から火の玉が次々と射出され砦の砲台を破壊しようとする。


「早いですね。もうこんなところまで上級が来ているなんて」


「だな、俺が相手するからその穴を埋めてくれ」


「いえ、それには及びません。子龍殿は老級まで温存しておいてください。この龍は私が相手します」


俺がカノンを呼ぼうとすると後ろから声を掛けられた。この砦の司令官ジークさんだ。その手には確かに戦斧と大楯が握られていて、準備万全といった感じだった。ジークさんの雰囲気は眼鏡をかけているせいか、どちらかといえば文官のように見えるが、れっきとしたこの砦の司令官なのだ。その実力は決してあの2人の団長にも劣りはしないだろう。

たしかにここで消耗するのは得策ではない。けど、司令官が前に出て良いのか?


「安心して下さい。私は少々力加減が下手でして、集団で戦うというのが苦手なのですよ。それに優秀な副官もいますから指揮系統は問題ありません」


「…………ならお願いします」


そう言うとジークさんはにっこりと微笑み、その眼鏡を外す。それだけで纏う雰囲気ががらりと変わった。表情から優しそうな色は抜け落ち、無機質なものとなる。人はここまで感情を減らせることが出来るのだろうか。あのアギナルドもその激情は心の内に燻っていたし、俺でも龍を殺す罪悪感が常に付きまとっている。けれど彼はそんなも表情を全くと言っていいほど出さない。一体何が彼をそうさせているのだろうか。


そうしてジークさんと火龍との戦闘が始まった。ジークさんの属性は土、魔術で土の壁を作り全体への被害の拡大を防いでいる。そのおかげか砲撃が再開されじりじりとだが龍害を押しと止めている。

ジークさんの戦いぶりは徹底的に理詰めしていくような戦い方で龍のもつ手札を次々と無力化していった。炎の球を防ぎ、砦に体当たりされないように龍との距離を保ちつつ着実に龍を削っている。とても器用な戦い方だった。


横目でジークさんと龍との戦いを見つつ他の龍の相手をする。するとそこに前線からの連絡が来た。


「聞こえますかお2人とも、左の龍を蹴散らしました。ここからなら老級まである程度妨害なく飛び続けれます」


精霊を通じてドミニカ侯爵の声が聞こえた。もう左翼の道を切り開いたのか。開戦したまだ1時間弱、流石というべきか。ならこうもたもたしてられない。急いで老級の下へ向かおう。


「流石ですね。あっという間に左翼の龍の統制が崩れましたよ」


「ああ、俺たちも行こう」


無駄話をしている暇はない。俺もヴォルフももうすでに出撃する準備はできている。ジークさんや他の人たちが死なないように祈りつつカノンに乗る。


「準備はいいか」


「いつでも、アモウに合わせますよ」


「じゃあ、行くぞ!」


カノンの腹を軽く蹴る。彼女の大きな翼がはためき上空へと舞い上がる。それに伴いヴォルフの乗る龍も飛び龍害へと飛び立つ。

目指すは左翼。龍の壁が薄くなっている場所。多少遠回りになるが砲撃を避けつつそこへ向かう。

およそ3分ほど。あっという間に龍害へと辿り着いた。確かに龍害にへこみが出来ている。


「すごいな。別に俺たちなんていらないんじゃないか?」


「いえいえ、勝ち目があるからこそ我らはこうして戦えるのですよ。あなた方が居なければそもそもここまで戦えなかったでしょう」


騎龍に乗ったドミニカ侯爵が近づいてきた。その鎧には龍の返り血らしきものがついており、今までの激戦を示している。


「たとえ負けが分かっていたとしても死力を尽くしたのではありませんか?」


「そうですね。もちろん死力は尽くすと思いますよ。しかしやはり違います。意外と単純なのですよ、人というのは」


「単純ですかね。っと、無駄話しているわけにもいかない。ここで失礼します」


ご武運を、そう後ろから聞こえた。単純かといわれるとそうでもない気がするが、まあでも理屈で動ける人間は少数派だ。そういう意味では確かに単純かもしれない。


「削れている、と言ってもやっぱり内部に行くほど龍が無視できなくなるな」


「梅雨払いは僕の方でしますよ。アモウは老級との戦闘に備えて下さい」


「助かる。カノン、もっと飛ばすぞ」


上を見上げても、下を見下ろしても、左右を見たって龍がいる。当然正面にも。けど相手している暇はない。ヴォルフが先に進み正面の龍だけ貫いていく。まるで一筋の矢のように俺たちは龍害の中心部へと進んでいく。


「アモウ、上!」


「っ!」


突如として俺たちの進行方向に巨大な水泡が降ってきた。何とか避けたが、それを見越していたかのように同様の水泡が降ってくる。それを掻い潜りなおも進むが、その先に待ち受けていたのは上級と思しき水龍だった。


「くそ、時間を割くわけにもいかないんでけどな」


「2人がかりならそこまで時間もかかりません。とっととやっつけて前に進みましょう」


「だな」


カノンの上に立ち剣を抜く。アドの術式を刻み剣に纏わせる。龍とのすれ違いざま一撃を入れるが、その外殻を削る程度しかできない。その反撃とばかりに周囲に浮かぶ小さな水泡が勢いよく破裂する。それを避けるが数滴付着した。


「微妙に痛いな。水の棘か、ヴォルフあまり近寄るな」


「わかりました。止めは任せますよ、援護します」


あまり時間も取りたくない、無謀ではあるけど力押しで行くしかないな。避けられないほどの至近距離、多少の被弾を覚悟のうえで特攻する。


水龍の周囲の小さな水泡が円軌道を始める。ウォーターカッターのようなそれは幾重もの軌道を作り、近寄ろうとするものを切り落とさんとする。

しかしその基点、あらゆる水泡が交わる場所、そこに槍が穿たれた。全ての水泡が交わる点だ、当然そこにかかる力は他の場所の比じゃない。けれどヴォルフの槍はそこを正確に打ち抜き水龍を守るものは無くなった。廻し束ね撃ちだす、もう慣れた手順でアドを振るう。


「落ちろ!『アド・アストラ』」


咄嗟に巨大な水泡でその身を包んだ水龍だったが、その努力も空しく泡沫に消え龍核は砕かれた。そして残った半身は地面へと落下していく。

2人だと楽でいいな。けど楽観もできないのも事実だ。まだ他の上級もいるし老級の所にたどり着くことすらできてない。


「急ごう、ヴォルフ」


「ですね。見えますかアモウ、多分あれが目標の老級です」


ヴォルフが指さす方向、眼に魔力をより込めて遠くを見る。それは確かにそこにいた。深い青、1つ1つがラピスラズリのような鱗、見惚れてしまうほどの荘厳という言葉が似合う姿。水龍ヴワイフ、報告通りなら西部戦線で第5兵団が戦っていた相手。


「水龍の方だったか。なら地上も空中もあり得るな。多分だけど今は龍域を刻印している最中だ。奇襲をかけよう」


「分かりました。直接龍核を狙います?」


「いや、流石にそれは無理だろ。まずは翼を狙って地上に落とす」


2人でぎりぎりまで近づく。その間アドに魔力を集め龍核解放の準備を整える。うまくいくかは分からないが成功すれば老級といえども、ある程度は楽になる。翼の無い龍なんてでかいトカゲみたいなもんだ。


アドの有効範囲内に到達する。あとはタイミング。気づかれていない今なら確実に有効打をあてることが出来る。最大の一撃、それにヴォルフの「龍核解放」もある、2翼とも破壊できるはずだ。


「準備いいですよ。あとは任せます」


「了解。いくぞ」


「『アド・アストラ』!」

「『ラグナロク』!」


僅かに色彩が異なる二つの白が混ざり合い水龍に迫る。絶大な破壊力、まともに喰らえばひとたまりもない一撃だった。しかし水龍の間際に迫った時その一撃は急激に減速した。そしてその光を水龍は一瞥する。身を翻し、狙い定めていた翼には当たらず、不発に終わった。


「なっ!」


「すごいですね、龍域なしにあれだけの水量。濁りもなく、空間との境目も視認できない。報告以上ですね」


「報告でも周囲の水を操るって書いてたがこの規模感か。光が屈折しない水とか厄介にもほどがある」


事実上の見えない水。どういう原理かは分からないがあの水は光を屈折させない。そのうえ風や音での振動で水面に揺らぎ1つ起きないとなると、その全てがあの水龍の支配下にあると言える。

水龍の双眸がこちらを見据え、けたたましい咆哮をあげる。カノンの震えが手綱越しに伝わってきた。自分と同じ水龍、その最強に準ずるほどの力をもつ龍が目の前にいるのだ、恐れるのも無理はない。


「行けるか、カノン」


彼女の頭にそっと手を置き安心させる。震えが直に伝わってきたがすぐに無くなる。ちらりとこちらを見て自分がまだ戦えると訴えかける。


「行けそうですか、アモウ」


「ああ問題ない。けどどう攻める。多分だけど水龍の半径10mは水があるだろ。まともに近づけないぞ」


「ですね。しかし立ち往生するなら最悪もう片方の老級に行くのも手ですよ。あそこまで防御を固められては正直手が付けられません」


「おとなしくここで待っててくれるならな。くそ、言ってるそばから、来るぞ!」


多量の見えない水を纏ったままこちらに突進してくる。纏う水の中を泳ぐように、その翼を使わずにこちらに接近してきた。あの水がある限り翼を破壊しても意味なさそうだ。

この水が実際どの程度広がっているかも分からない、俺もヴォルフも急いでその場から距離を取る。


執拗に迫ってくるが小回りが利かない水龍と違いカノンとヴォルフの龍は小回りが利く。何とか避けれたが、見えない水がある以上常に警戒していないといけない。完全に透明なんだ、いつ襲われるかわかったもんじゃない。


「あの龍、事前情報でもほとんど情報がありませんでしたからね。よほど慎重なのか、はたまた臆病なのか、とにかく今は隙を伺うしかありません」


「だな、下手に前線に近づけたくはない、もう片方も気にはなるが今はこいつに集中しよう」


水龍の周囲にはやはりまだ水があるのだろう。魔力で生成されているとはいえ周囲の魔力の濃度も同程度、龍眼で区別することもできないな。あまり使うなと言われた龍眼だが、戦闘中ならば仕方ないだろう。そう思い、さらに魔力を込め水を見る。


「ん?」


急激に何かが変わった。形容するのは難しいが、強いて言うなら纏う水なのか?おそらくそれに込める魔力量が増えたのだろう。若干だが周囲より濃く見える。その形はそう、巨大なレンズのような。

瞬間、熱が頬をかすめる。何もわからないまま咄嗟に回避行動をしたのはこれまでの経験故か。何にせよ、致命傷を受けることは無くその熱は俺の背後、そう膨大な龍の群れを焼いた。もし動いていなければ、あの龍達のように体が炭化していただろう。事実かすめた傷は癒えることなく、焼き付いていた。


「無事ですか!アモウ」


「あ、ああ、何とか」


今のは、熱?…………いや光、か。つまりあれは巨大な虫眼鏡。屈折率をいじれるんだ、この程度できて当然か。日は沈んでいる、それはあくまでそう見えているだけだ。実際にはまだ日光は存在している。


そんなことを考えている暇はなかった。次々とその収束された光は縦横無尽に駆け回り周囲を焼いていく。相手は光だ、その速度は子龍の反応速度をもってしてもままならない。見てからの反応じゃ遅すぎる、その上カノンに指示を出さなければいけず、レンズの角度などでタイミングを計るしかなかった。


「俺のことはいい!今は自分のことだけ考えろ!」


「そう、させて、もらいます!」


荒れ狂う光の波を避けていく。屈折率を上げているせいか、ようやく纏う水の全貌が明らかになった。おそらく体に纏っていたのであろう水は翼周辺に巨大なレンズを形作り、角度を微調整している。けれど先ほどとは違い、その場から龍は動かない。動く必要がないのか、そもそも動けないのか。いや攻撃手段はあくまで太陽光だ、水龍から発せられた光じゃない、水龍自身も下手をすれば傷を負うのか。


何にせよやるべきことは決まっている。まずはこのレーザーまがいな光をどうにかしないとどうしようもない。一度ヴォルフと合流し体制を立て直す。

龍から距離を取り、補足される範囲を抜ける。ヴォルフも同じ考えだったようで俺が来てすぐに彼も来た。


「どうです、何か手立てはありありますか?」


「一応なら。総量なら馬鹿にならないが、一個一個のレンズはそこまで大きくない。あれを破壊できれば近づけそうだ」


「とはいえ相手は不定形の液体ですよ。いけますかね」


「ここに火か風の魔術師がいればもう少し楽にできたんだがな、でもやりようはある。消費魔力は洒落にならないけど、飽和現象を起こせばあの水の操作はできないはずだ」


飽和現象、一種のセーフティーのようなその現象は俺になじみの深い現象だ。あの水が天然のものではなく水龍の生み出した水なら、当然俺たちの魔力ものる。おそらくそのギリギリを攻めているだろうから少しでも流せば多分飽和する。問題はその飽和させるレンズの量が半端じゃないことか。


「なるほど、確かにそれならいけそうですね。ですが接近するにしてもあれを掻い潜らなければいけません。僕が囮になりますか?」


「いや、俺が囮になる。大立ち回りするのなら俺の方が向いてるしな。おまえはレンズの破壊を頼む」


「いいのですが、死にかねませんよ。子龍の肉体といえどあの光をまともに喰らえば、ひとたまりもないことは事実でしょう?現にその頬の傷、治り切ってませんよね?」


たしかにそうだ。この程度の傷なら今の時間で充分に治るはずだが火傷が回復の邪魔をしている。もしそれが子龍の心臓ともいえる龍核に直撃したら多分死ぬ。それは避けたいから頑張るしかないな。


「大丈夫だ、上手い事避けて見せる。それに龍のスピードはヴォルフの龍の方が早いだろ。なら手早く済ませてくれ」


「まったく、しょうがないですね。約束、ですよ。では気を付けて」


そう言い残しヴォルフはすぐに行動に移る。俺の役目はなるべくあの水龍の目を引くこと。そのためには俺の命はもちろんのことカノンの命もかけないといけない。


「悪いな、付き合ってくれるか?」


それに応えるようにカノンは翼をはためかせる。ならその覚悟に応えるためにも俺は頑張らないといけない。


カノンは素早く移動し水龍の捕捉範囲の中に入る。俺たちを捕捉した水龍がそのレンズを調整する。俺は水のレンズの角度を見て大まかな光の軌道を予測する。とはいえだいぶ大雑把だ、無いよりかはマシ、といったところ。こんなんだったら理系に進むべきだったか?

いくつかの光は避けることが出来ても何本かの光はぎりぎりを掠めたり直撃しそうになる。直撃する光はアドで防ぎ、掠る程度の光は気にしない。


俺たちが必死に水龍の気を引く中、ヴォルフは視界の端でレンズを破壊していた。こっそりと水龍に近づき、そのレンズ破壊する。殆ど魔力を発さないうえこの空間はかなり魔力が濃い。それにこの暗闇の中だ、例え光が縦横無尽に走り回っていてもその影までは照らせない。

しかしおよそ半分ほどのレンズが壊れた時ようやく異変に気付いたのか、水龍が何かを探すようなそぶりをする。しかし当のヴォルフは見つからない。ヴォルフを捕捉する間俺から目を放せば近づかれることが分かっているのだろう。俺の全力の魔力をのっけた龍核解放でも、水龍が纏う水の障壁を突破しながら龍核を破壊することはできない。それは最初の1発で水龍も気づいている。

それでも俺から目を離さないとなると、今の水の水量は最初と比べ減っているのだろう。俺の一撃が龍核に届く可能性があるほどに。

レンズに使う水の量はそれなりに多い、今の水量は最初のころと比べ半分ほどのはずだ。なら今撃てばあいつを倒しきれるか?光の密度も下がってきた。今なら、軽くアドに魔力を込める。その魔力を刃とし水龍に向けて振り下ろす。最初の時は水の抵抗で減速された、しかし今回は減速されずに水龍に直撃する。その衝撃で水龍は軽くうめき声を出すが傷はそこまで深くない。やっぱり堅いなあの外殻。


軽く魔力を込め刃を飛ばす、カノンに指示を出しつつそれをするのは大変だが何とかできる。少しづつでいい、時間はかけられないが確実に奴を削っていく。水の補填もない、ヴォルフの方もうまくいってる後は時間の問題だ。


そう時間の問題だった。いわば今までのこれはあいつにとって時間稼ぎに過ぎなかったのだろう。俺が何発目かの斬撃を飛ばそうとしたその時、水龍の双眼が淡く光る。


「ぐはっ!」


世界が水に包まれる。咄嗟の反応なんてできないほど、それは一瞬の出来事だった。水龍の龍域が今刻まれた。

苦しい、口から空気が漏れ出てきて気泡となる。酸素が無ければいくら子龍といえどかなりの負担を強いられる。それでも意識を手放さないで済んだのはカノンのおかげか。彼女が咄嗟に俺の周囲の水を排斥してくれなかったら気絶していたかもしれない。


ああだけど、これは一番の悪手だ。彼の龍は知らないんだ。この地にはそれを打ち消すほどの子龍がいることを。

全方位にレンズが展開され、龍の顎も開かれる。龍の息吹、それを龍域内で喰らえば、子龍といえど致命にたる。勝ちを確信するには確かに充分だ、けどそれはこちらも同じ、俺はアドにありったけの魔力を注ぎ込む。当たるだなんて微塵も思ってない。回避行動は無駄になると分かっているんだ。


瞬間、世界が白に包まれる。


ぶつかる世界は自然の摂理が如く弱者を踏みにじる。周囲の水は消え当然レンズも同じく消える。たとえ数千を生きた老級といえど、天龍の子龍にはかなわない。雪の龍域は見渡す限りを白に染め自分の世界を形作る。


龍域が飲み込まれもはや水龍を守るものは無い。完全に慮外な現実に水龍は俺の接近を許してしまった。水龍の胸部、そこにできた傷に向けて実体化しつつあるアドを突き立てる。


「終わりだ『アド・アストラ』!」


純白の光が水龍の胸部に叩き込まれる。一瞬の拮抗、最後の意地で小さな水の塊を盾にした水龍は、しかしその盾も光に飲み込まれ確実に龍核が破壊される。


けれど一瞬の均衡、その時間でできることを水龍はやり遂げた。俺の左の肩口には深々とその牙が突き刺さっている。くそ、痛いじゃないか。燃えるような痛みに意識が飛びそうになるが何とか耐える。

そうして水龍の命は終わる。激闘の末、確かな爪痕を残して。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ