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子龍よ、天を頂け  作者: ハイカラ
リヴィングス覇龍国
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40話 選ぶ道は

「つかれた~」


「そのまま寝るなよ、しわになる」


俺が起きて2日後の夜。いろいろと話し合いが終わった後俺たちは雪の自室に戻っていた。動けるようになってからこの国の貴族たち、議会に所属する議員たち、いろんな人と話し合った。中身のないこと、この後の戦いのこと、本当にいろんなことだ。確かに議会の連中は俺を自分たちの制御化に措きたいような節々があったが、そういうことは丁重にお断りした。


雪もあれにはうんざりだったようで、かなり消耗している。まったく戦う前に俺たちを消耗させるなんて正気か?

レティは疲れていたのだろう。結局途中で寝てしまい、雪が部屋まで運んでいた。連日他の魔法使いと連携してあちこちに連絡を取っているそうだ。テノティトの住人を受け入れることが出来る都市を探して避難誘導を手伝っているらしい。


「まだきついなら休んでいてもよかったんだぞ」


「そうもいかないでしょ。天羽君1人に任せるのは気が引けるし、何もしてないのは落ち着かないしね。それにしても天羽君、目、怒られたでしょ」


誰にとは言われない。まあ言わなくてもお互い分かってる。でもこれに関してはお互い様だろう。俺の目ほどじゃないにしても雪だって体に不調は出ている。


「まあ、それなりに。でも眼鏡もあるし日常生活に問題は無いって言ったら何とか納得してくれたよ。雪の方は?」


「ようやく魔術が安定してきた。当日までには何とかなるよ。レティには心配かけちゃったな」


たくさんの人がちょくちょくお見舞いに来てくれた。親衛隊の人たちやこの国の王女であるカウレスの妹のフィオレさんだったりと他にも多くの人が来た。多分同様に雪の方にも来ているのだろう。その誰もが俺たちのことを気遣い、労をねぎらってくれた。


「気をつけろよ、死んだら元も子もないからな」


「死ねないよ、助けてもらった命を粗末には扱えない」


それは、一種の呪いだろう。俺から雪へかけた治ることの無い不治の病。あの選択がもたらした、1つの結果。


「まだ後悔してる?」


「いくら何でもおまえにそれを言うのはデリカシーが無さすぎる」


あの日のことは忘れたことは無い。あの災害を忘れることは当事者にはできない。それほどまでに悲惨で、多くの人が死んで、雪も死にかけた。そこで別れたと言ってもいい。あの俺と俺という人格に。


「別にいいのに。私はどっちでもいいんだよ。後悔していようが後悔してなかろうが、助けてくれたことには変わりないんだし。でもね、うん、やっぱり天羽君にだけは心配されたくないかもだ」


心配される資格がないとでも言いたいのだろう。罪悪感からだろうか、それとも他の何かだろうか、けどなんにせよ俺にはそれを類推することしかできない。俺がそれを聞くことはどうにも憚られる。


「しないよ、けど無茶するなよ。レティ、それにヴォルフだって心配するんじゃないのか?」


「確かにヴォルフ君にも心配されたね。まあできる限りのことをするだけだよ」


「その出来る限りのことが俺たちには大きすぎるからな」


子龍ならいくら無理しても大丈夫、というわけでもないことを今までで散々思い知った。とはいえ俺も雪も無茶をしないわけにもいかない。その強大な力にはどうしたって責任は付きまとう。


「ああそうだ、そういえば天龍にはあったのか?」


「うーん、どうなんだろう。声は聞こえたんだけど姿までは、ただ何となく力が欲しいと思ったら、声が聞こえたんだ」


「白い空間みたいな場所にはいってないのか?」


「いや?ただ声が聞こえただけ。天羽君と違って気を失わなかったからじゃない?」


まあ、そんなもんか。俺と違って雪は戦闘中だったし、天龍が気を使ったのかもしれない。

何はともあれ、もう今日の所は早く寝ないとな。明日もきっと働きづめだろう。


「じゃあ早く寝ろよ、雪」


「うん、見送りありがとうね。また、明日」


雪の部屋を後にする。あの様子なら大丈夫だろう。1人で悩むのは俺も人のことが言えないのは重々承知だけど、あいつが悩みだすと気づいてあげることすらできないからな。でも少なくとも抱え込んでそのまま、なんてことはなかった。最後の最後には相談してくれる。


自分の部屋に戻る途中、ふと窓の外を見た。城に差し込む月光はこの都市にあと少しで龍害がやってくるなんて思えないほど美しく、つい見入ってしまった。そういえば月と呼んではいるけれど、地球の月とあの月はやはり別物なのだろう。俺や雪がそう聞こえるだけで実際は本来の名前がきっとある。

そんな俺に近寄る人影があった。


「月が綺麗だな、アモウ」


「ん?ああカウレス。そうだな、綺麗だ」


気付いたらカウレスが来ていた。彼も同じく月に見入っている。それほどまでに今日の月は綺麗だった。一片の欠けもなく、優しい光が傷ついたリヴィングスにしんしんと降り注いでいた。

しかしその光下では負った傷を隠すことはできない。カウレスの物憂げな表情を浮かべている。当然だ、まだヨウムさんは見つかっていない。


「心配なのか?」


「心配だよ、ヨウムとはずっと一緒にいたから」


俺だったら雪が行方不明になるようなもの、いや年月だけで考えればそれ以上か。カウレスの剣の師であり、右腕のようなヨウムさんがいなくなったのなら心配するのはごく普通のことだろう。

でもそれだけじゃない。カウレスの顔には心配以上に迷いのような表情を浮かべている。よほど追い詰められているのだろう。その悩みを俺に吐き出した。


「自ら救われない道を行く人を父は、陛下は助けるなと、せめて助けるなら恨まれてでもやり通せと言ったんだ。俺にはそれが、そんなことが正しいとは思えない。助けたい人なんだ。生きてほしい人なんだ。助けたいと、そう願うことは間違っているのか?」


俺の腕を強くつかみ、縋るように、ダースニック王を否定して欲しいようにカウレスがそう投げかける。その顔はひどく焦燥している。迷いの中にいることは俺の目で見ても明らかだった。

ヨウムさんは救われることを望んでいない。言葉にはしてないがそういうことなのだろう。あの人はきっと騎士の道に殉ずる。それが自分の役目だと、責任だと言って。

それを助けることは確かに難しいことだ。

ほどなくしてカウレスも落ち着いたのか、すぐに手を放してくれた。


「すまない、取り乱した。今のは、その、気にしないでくれ。じゃあ俺は」


「カウレスはダースニック王を否定したいのか?」


「………………そう聞こえたか?」


「ああ、俺にはそう聞こえた。そして俺も、大まかにはダースニック王には賛成だ。その人の死がより多くを生かすのなら俺はその人を助けることはできない」


それがあらゆる選択の最善の結果がだしたら俺にはどうすることもできない。それが誰であれ、その死を覆すことは叶わない。この力を誰かのためだけに使うことは俺には許されないことだ。

その答えは予想していたのだろう。カウレスは困ったような笑みを浮かべるだけで驚くことは無かった。


「そうか、アモウも。なら俺は、」


「でも、でもだ。それはただ俺とダースニック王の考えだ。カウレスの思いが間違っているとは俺には思えない。だから俺やダースニック王のことなんて気にする必要はないだろ、カウレスはただ助けたい人を助ければいい」


これは俺の考えだ。誰かに押し付けるつもりもないし、受け取ってほしいわけでもない。俺だけの星を眺めるにたる選択なんだ。それに誰かの死を選ぶのならせめてそれは自分の選択に従うべきだ。人の思いに引きずられるべきじゃない。


「っと悪いな、17の子供がそんな聞いたような口をきいて」


「いいや年齢なんて関係ないさ。でも、そうだな、アモウの言う通り否定したかっただけなのかもな。それで自分を肯定して欲しかったのかもしれない。おまえは強いなアモウ。助けたかったはずなのに助けられるなんて、恥ずかしい限りだ」


カウレスも心配してくれていたのだろう。ならその恩返しになれたかもしれない。


「少し意外だった。カウレスがそこまで思い込むとは思っていなかった」


「上に立つ者が不安な顔するわけにもいかないからな。普段はあまりそういう表情は出さないようにしてるんだ。身近な人を失うのは2度目だが、あの時はまだ物心もついていなかったからな」


「それは、」


それは誰のことだろう。200年も生きていれば身近な人を失うには十分な期間だ。たとえそれが長命である龍人だったとしても。


「ん?気になるのか?」


「悪い声に出てた。言いたくないなら別に」


「いいさ、アモウになら話していい。母上が死んだんだ、俺が生まれるときに。母がいないことの悲しみはあったが、母上が死んだことへの悲しみは正直言ってあまりなかった。実感がなかったんだ」


「それはしょうがないだろ。物心つく前のことなんだから」


俺も母のことは記憶にない。状況は違うのだろうけれど似たようなものか。ダースニック王も俺の父さんとは違うものの不器用なのだろう。あの人がただ冷淡な機械のような人とは思えない。


「負い目みたいなものがあった、両方に。親衛隊に入った時はようやく認められて気がしたんだ。そして隊長になって、もうそんなもの気にしなくていいと思っていたんだ。けど実際、俺と陛下は立ってる場所が見ている視座が全く違った」


「近すぎると分からないこともあるんじゃないか?」


「そうだな、でも分からないなら分からないままでもいい。違うってことさえわかればそれで。悪いな、こんなことに付き合わせて。もう夜遅い、明日も早いだろうから部屋に戻れ」


俺を見送り、カウレスはその場を去る。もう決まったのだろう。その顔は最初の様な迷いの浮かぶ顔ではなく。自分の道を決めた顔だ。ならもうなにも言うことは無い。だれもその思いを否定することはできない。歩み寄ることは無く、ただ自分の決めた道を行く。

星の輝き方に正解は無い。遠く瞬くような星も、他の星を圧倒しながら輝く星もそのどちらもが地上の誰かを照らしている。そこに間違いなんてないだろう。

そしてその星と星とがぶつかって、勝ち残った方がその思いを通す。残酷な道理、アギナルドが語った強者の理屈。それを否定することは俺にはきっとできない。


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