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子龍よ、天を頂け  作者: ハイカラ
螺天の永遠墓標
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6話 剣の指導

 午前はずっとノルディックさんの指導の下ずっと魔力の操作の訓練を続けていた。体内に流れる魔力を感知することは、自分の血液を近くするのに等しく難儀していた。午後になり小休憩をはさんだ後、俺はノルディックさんに連れられ城にある剣術指南所に向かっていた。


 雪は午後もそのままフェリスさんのもとで、魔術を教えて貰うそうだ。天羽君の分まで頑張るとか言っており、引け目はなくなったらしい。


「これから誰に会いに行くんです?」


「リーラン・ユーグラシア。この国の第五王女でこの国一番の剣の腕前を持つ女性だよ。今この時間帯はいつも指南所にいるんだ。君は彼女から剣の指導をしてもらうといい。」


 王女であり、国一番の剣の腕前を持つ女性。この国の王女はみんな何か一芸に秀でているのだろうか?


「第五王女って、フェリスさんたち何人姉妹何ですか。」


「五人姉妹だよ。まだアイリス君とナ―シャ君にはまだあっていないだろう?アイリス君はこの城にある図書館の司書長を務めていて、ナ―シャ君は建築や造形をしているよ。さっきまでいた部屋もナ―シャ君が作った部屋なんだ。」


 そういえば、フェリスさんも姉が直すとか言っていた気がする。この国の王女は何か必ず一芸が秀でているのだろうか。


 そうこう話しているうちに目的の部屋が近づいてきた。魔術訓練所と同じく天井が高い、しかしあちらと違って壁は普通の材質のようだ。その中心に一人小柄な赤髪の少女が剣を構えて正面を見ており、入ってきたことにも気づかないほど、彼女は集中してた。


 やがて彼女の手が閃いたかと思うと上段に構えていた剣がいつの間にか下に振り下ろされていた。


「やあ、元気しているかい、リーラン。相も変わらずすさまじい剣の冴えだね。」


 ノルディックさんの声でようやく気付いたのか、少女はこちらに近づいてくる。


「ノルディ、久しぶり、私は元気、そっちの子は?」


「知らないのかい?今城内でも話題の子龍殿だよ。名は天羽君、君には彼に剣での戦い方を教えてほしいんだ。」


 リーランと呼ばれた少女は口数は少ないが親しみの感情がうかがえる。


「紹介された、久美天羽です。これから剣の指導よろしくお願いします、リーランさん。」


「リーランじゃない、弟子なら師匠と呼んで。それじゃ、さっきあたしが、剣を振るところ、見たよね、あれが振るえるまで素振りしてて。」


 そう言って彼女は自分の稽古に戻ってしまい、何の指示も出さない。


「やれやれ相変わらず人付き合いが苦手みたいだね。まあ弟子が出来たこと自体はうれしいようだよ、じゃないと自分のことを師匠だなんて呼ばせないさ。」


「よくわかりますね。俺には彼女…じゃない師匠がノルディックさんのことを慕っていることしかわかりませんよ。『ノルディ』って呼ばれてたし。」


 よほど慕っていないとあんな愛称にはならないだろう。まだ師匠以外にこの城で彼をそんな風に呼ぶ人は見たことがない。


「それが分かれば及第点だ。さて天羽君、魔術にしても剣にしても基本は大事だ。とりあえず素振りを限界までしてみなよ。子龍の体の限界がどこまであるかを把握するいい機会だからね。」


 ノルディックさんもそれっきり部屋を出て行ってしまった。しかし言っていることは事実だし、剣に関して素人である俺は、もっと効率のいい方法なんて知らない。だからまずは、言われたとおりに、素振りしていこう。


 ーーー


 何度も剣を振るう。もう何度振ったかを覚えていないが2時間近くは振っていたと思う。少し疲れが溜まってきたので剣を下す。いくつかわかったことは、子龍の体は頑丈でありちょっとのことでは疲れないということ。もう一つはさっき見たものは、当たり前だが力が強いだけでは到底真似できない。動きに無駄が多いうちは決してあの領域には達しないだろう。どうすればいいかを考えても、答えは出ない。ならば師匠に伺うしかないだろう。


「師匠、俺の動きにはどんな無駄がありますか?」


 ずっと一人で剣を振るっていた師匠に尋ねる。こちらのことなど一瞥もしていなかったが、ちゃんと教えてくれるだろうか?


「まず一つ、アモウはまだ剣のことを、体の一部だと思えていない。二つ、その剣を向けると思ったときまだ相手を斬ることを躊躇している。三つ純粋にまだまだ動きが雑。」


 意外とちゃんと見ており、俺のダメなところを指摘していく。しかしそんなことを言われても最後以外は心の持ちようでしかないじゃないか。剣のことを体の一部に思えるほど剣を振っていないし、人に剣を向けるなんてありえない。最後ぐらいしか今直せる事がない。


「前二つのことは、実践を経験しないと体感できないかも。じゃあ構えて、私に少しでも当てれたら、今日のところは満点をあげる。」


「は?え?ちょ?待って下さい。いきなりそんなこと言われても」


 なんて戸惑っているうちに、師匠は一瞬にして間合いを詰める。最初見たほどではないにしても、目でとらえることが出来ないほどのスピード。


「っ早い。」


 急いで避けるが流れるような剣筋が、どんどん俺を追い詰めてくる。距離を話してもなぜかすぐに間合いを詰められ、


 ッカンといい音がして俺の意識は現実から引き離される。


 ーーー


「どう、痛い?子龍でも脳震盪を起こしたら気絶するんだね。」


 目を覚ましたら、目の前に顔がある。髪が顔にかかってこそばゆい。


「何時間気絶してました?」


「ほんの数分。他の人よりは丈夫みたい。」


 自分の置かれている状況を確認しようとする。膝枕の状態だ。恥ずかしくなり急いでどこうとするが額を指で押さえられる。


「君が元居た場所は、とても平和なんだね。君は剣を怖がっていて、真っ先に剣先がどこに向かうかを意識しすぎている。よくないよ。」


 忠告されるがいまいちぴんと来ない。剣先を注目することはいけないことなのだろうか?


「剣はあくまで道具。その結果がどうなるかは剣士次第だから。まず見るのは相手の全体。相手がどう動こうとするか、どう振ろうとするかを見て。剣の軌跡なんてある程度打ち合えばわかるようになるから。」


 剣も力も扱い方次第、それ自体に危険はないってことなのか。確かに平和な世界にいたらいまいち理解し難いだろう。相手の動きをよく見る。言われてみれば確かに剣にばかり意識が向いていた気がする。


「まずはそこの矯正だね。今日のところはあたしから十分間逃げきれたら及第点。反撃はまだ考えなくていいよ。」


 そう言って俺を立ち上がらせてくれる。避けることに専念する。まずは剣に対しての意識を変えないといけないのか。


「じゃあ、行くよ。」


 師匠をよく見る。中腰になり今にも襲ってきそうだ。俺もいつでも動けるようにしておく。一瞬でも目をはなしたらぁぁ!


 ひゅっと風を切る音がする。俺の頭上を師匠の剣が通り抜ける。ついつい目で追いたくなるが、今は我慢。まるで消えるかのように身の前に現れた師匠から距離をとる…ことは前の試合で無駄だと理解してたので、逆に距離を詰めることで剣を振りずらくする。そんなことお構いなしかのように、師匠は剣を振るおうとする。狙いは胸あたりに突き。しかし言われたとおりに動きを追っているので回避は間に合う…はずだった。


 側頭部にほのか痛みが走る。なんで避けたのに、と剣を見るがそこも見逃されなかった。首にそえられた剣は木刀と言えでも確かな恐怖を感じた。


「フェイント、ちょっと大人げなかった?でもそのあとはダメダメ。すぐに回避行動に移らないと。何が起きたかより今どうするべきかを考えて。」


 確かに目で追えなかったのならまずは無駄でもいいから距離をとるべきだった。それなのにそれすらしなかったのは落ち度だろう。


「それと、感覚が人間の頃のものに引っ張られすぎ。こんな木刀の一撃子龍の体なら大したことないはず。まあ、ここら辺は慣れだね。さあもう一回いくよ。」


 そのあとは何度も何度も試合をしたが結局十分間逃げ切ることはできなかった。何度も隙をつかれ、意識が飛ぶことも何回かあった。これで最後となる前に一回休憩をはさんでもらい作戦を考える。


 師匠の動きで何よりも注意しないといけないのは初動のあの速さ。こればっかりは毎回勘で避けるしかない。それで何度も伸ばされてきている。やはり動きを追えるほど目に集中するしかない。


「準備、できた?じゃあいくよ」


 集中する、いつも以上に目を、とらえられないことはないはず、もう何度も見てきたから。


「っつ!」


 初撃は何とかなった、だがそれだと前回までと同じ。見落としは決してしない、多少反応が遅れようが見れなかったら意味がない。二撃目、三撃目と避けていく。しかし今日の目標は十分間の続けての回避、気を抜くことは許されない。だんだんと目の集中も高まっていくのを感じる。景色がゆっくりと、師匠の動きがコマ送りに見えるようになっていく。


「これは…まだ教えてないのに、生意気。」


 何かが琴線に触れたのかさらに剣筋が加速する。縦に横に斜めに斬り上げ斬り下ろす。だが今はそのすべてが見えている。体をそらし、曲げ、かがむ、時には剣で受け止め軌道を変える。二回目以降はなりを潜めていた、フェイントも織り交ぜてきてどんどんギアが上がっていくのを感じる。


 こちらも集中を切らしたら終わりなことは分かっている。一時も休む暇などない。ゾーンのような感覚に浮かされそうになるがそこはぐっとこらえて、師匠の動きを観察する。フェイントが混ざる限り必ずどこか隙が生まれる。その隙が作られた隙か無防備な隙かを見極める必要がある。


 避けきり十分間を終えるなんて野暮なことはしたくないなんて贅沢な悩みが出来てしまう。斬り付けるタイミングさえあれば試してみる価値はあるかもしれない。


「余計なこと、考えてるでしょ。いいよ、打ち込みたいなら好きにして。そんな隙絶対にないから。」


 足を止めずに駆け回る。それでもつかず離れず絶妙な間合いを師匠は保っている。剣道でいう一足一刀の距離とでもいうのだろうか。斬撃はより苛烈さを増していくがいまだ致命打はない。この場で俺が師匠に勝っている点があるのならそれは純粋な膂力だけだろう。身のこなしも剣さばきもけして勝つことなどできない。だからこそ一寸の希望の光が見える。次の横なぎ、ここが勝負。


「ここだあああ!」


 師匠の横なぎを真正面から受ける。その一点だけ目から腕に移るように集中を切り替えた。渾身の一刀は見事師匠の剣を弾き飛ばし、師匠を無防備にする。剣を構え狙いを定める。弾き飛ばされたことによりがら空きの胴、それに向け一閃を振るう、まだ痺れがあるのか師匠は動けない。


 一瞬の逡巡、それが仇となった。痺れから解かれた師匠は、肘と膝で剣をはさみ受け止める。かなりの勢いがあったあれを、そんな簡単に受け止めるのかと動揺すると同時に俺の集中が切れる。


「駄目だよ、それは戦場では命取り。まあでも今回は及第点以上かな。お疲れ、頑張ったね。」


 そういい師匠は構えを解く、全力の一撃、まあ、たかだか今日始めた人間が振るえる、力任せの一撃でしかないのだがそれでもあれを止められるのか。


「君は気づいていなかったかもだけど、試合のさなか龍眼っていう目の強化をしていた。気づいてた?」


 世界がゆっくり見える現象、あれのことを龍眼と呼ぶのか、あれがあったからこそ、師匠の斬撃をよけられた。でもどうしてそんな教えてもらってもないことが出来たんだ?


「意識してないのにどうして俺はそんなことできたんですか?集中してたからですか?」


「大きな理由はそれかな。多分集中して、目に魔力が集まったんだと思う。龍眼は目に魔力を溜めるとできるから。まだ君は魔力操作は得意じゃないらしいから、無意識のうちじゃない?」


 魔力操作もおぼつかないのにそんなことが出来るとは。あれがあるかないかで、文字通り世界が変わる。習得は早いほうが良いだろう。でもそのためにはやはり魔力操作が第一なのか、下手に操作をミスったら飽和現象が起きるかもしれない。戦闘中にそれは絶対に避けるべきだろう。


「今日のところはこれでおしまい。この調子で明日も頑張って。アモウは筋がいい、きっといい剣士になるよ。うらやましい。」


 そう言って彼女は訓練所を出て行った。


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