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子龍よ、天を頂け  作者: ハイカラ
閑話1
21/84

SS 雪の克服

 正直、最初この世界に来て不安だったし怖かった。天羽君も一緒に来ていたことには、我ながら最低だなと思いつつも安心してしまった。何よりも心強かった、ずっと一緒にいた彼がこれからも一緒にいることが何よりも嬉しかった。天龍に喰われてすぐにこっちに来たはずなのに、ひどく長い間会ってないように感じたのも不安だった原因かもしれない。


 そのあと天羽君が相変わらず誰かを助けようとしていて、どこに行っても変わらないんだなと、どこであろうとその在り方を損なわないようにしているんだなと、ついつい安心させられた。


 一つ誤算があるとするならば、私を連れてはいけないと言ったことには驚いた。いつもなら少しでも役に立つなら連れて行ってくれたのに、こんなことは子供の時以来でちょっと懐かしくも思えた。


 大事にしてくれることはありがたいけど、それでも私は天羽君と一緒にいたいのだ、同じ屋根の下みんなと過ごしてきた、今更離れろなんて無茶がある。


 この前ようやく説得できたから良かったものの説得できなかったら、連れて行ってもらえなかったのかな。今となっては懐かしい龍害の幻、最初は本当に死んだかと思ったけど私も天羽君も生きていてよかった。


 あれでも、なんで私今こんなこと思い出しているんだろう?確かウェルトさんのシューゲイズに乗っていたはずなのに………


ああこれ、走馬灯か。


 目を開け状況を確認する重力に逆らうことなく、私の体は空から墜ちていく。焦ることはない、もう何度も陥っている状況なんだから。


「『エアウォーカー』」


 慣性に逆らわないようにゆっくりと減速し城壁に着地する。しばらくするとシューゲイズが向かいに来てくれた。


「ごめんね、また落っこちちゃった。だんだん飛行に慣れてきちゃって、下を見る余裕が出来ちゃったんだよね。恥ずかしながら高所恐怖症なんだ。」


 シューゲイズはクルルと喉を鳴らして励ましてくれるが言葉が伝わっているかはわからない。いや龍ぐらい賢い生き物だったら理解できるかもしれないな。


 下を見ないように見ないように念じていても、悲しいことについつい視界に入ってしまう。ノルディックさんに聞いたところ移動のために騎龍を用意してくれるみたいだったから、出発までには何とか克服しておかないと。


 魔術の授業は大詰め、ようやく大規模術式を扱えるようにまともに扱えるようになってきて、この前フェリスさんに褒めてもらえた。私も天羽君も天龍の加護があるからか、剣や魔術に関して呑み込みが早い、やるだけでするする身についていく。


 けど元から持つ苦手なものはどうしてもなかなか克服することが出来ない。


「ユキ殿、今はそれくらいにしてしばらく休憩をとろう。そう何回も落ちていたら体に負担がかかるだろうから。」


「うん、そうします。いや~なかなか克服できませんね。龍に乗ること自体は楽しいのにどうしても気を失っちゃうんですよね。」


 ウェルトさんに促されシューゲイズから降りて休憩をとる。シューゲイズはまだまだ元気なのか私を降ろした後そのまま空へと舞い上がっていく。


 龍に乗ること自体は楽しい、魔術を使って宙に浮かぶのも平気なんだけど、龍の飛行は飛ぶ高さが違いすぎる。子供のころのトラウマがついつい頭をよぎる。木に登って降りられなくなって天羽君に助けてもらったっけ。あの時の高さなんてしれたものだが、その恐怖は今なお健在だ。


「下を見なければいい、と言うのは簡単だが、まあ無理な話だろう。そうだなしばらくは休憩としてフェリスのもとに行くといい、夕方ごろにまた戻ってきてくれたら、またシューゲイズに乗せようか。」


「夕方6時ごろですか?わかりました、じゃあとりあえずフェリスさんのところに向かいますね、ウェルトさんも時間があったら身に来てください。今日こそ大規模魔術を成功させて見せますから。」


「ああ、必ず見学しに行こう。」


 言い残して尖塔から訓練場へと向かう。大規模魔術を行使するために必要なのは適切な魔力運用と精密な術式を刻むこと。今の私は慣れてきたからか最初よりも魔力操作が雑になってしまっている。基礎は大事にと言われていたのにこんなんじゃ天羽君に措いていかれちゃう、それだけは何としてでも防がないとね。


「遅れてすみませんフェリスさん、でも今日こそは目にもの見せてあげますよ。」


「ふふ、それは楽しみですね。じゃあ予定通りユキ殿、風魔術の大規模魔術の一つ、

『セレスティアフォール』を成功させましょうね。」


『セレスティアフォール』上空の空気を一気に堕として対象を押しつぶす風の魔術。殆どの龍なら過剰だが、上級以上の龍を相手取るなら私の練度だと足止めにしかならない。だけど手札は多い方がいいにと思う、少しでも選択肢が広がるならそれに越したことはないだろうし。


 訓練室の中央に立ち、目標に小さな岩を生成して宙に術式を刻み始める。術式は簡単な術式を組みあわせて、より高位な術式にする、その過程で小さい術式同士の同調を怠ったら魔術は不発に終わるか飽和現象を起こしちゃう。不発ならまだしも飽和現象は戦場で魔力が使えなるかもしれないから引き起こすわけにはいかない。


 緻密に練り上げていく。まだまだ実践では使えないけれどそれはこれから練習するしかない。時間を掛けようやく術式が完成した。正直これだけでも結構きついけど、ここからが本番と言っても過言ではない。


 内包している術式の数は13。そのすべてに均等に魔力を流して術式を廻し始める。風の魔術の殆どは加算の魔術であり基礎の術式に添加していくものだけど、この術式はどちらかと言うと乗算されている気がする。難易度がけた違いで、ほんと難しい。


 13の術式を展開する。もう魔術としては詰めの詰めだ。各々の役割をしっかりこなして術式を空間に固定化していく、よし!いける!あとは術式に込めた魔力を解放するだけ。


「『セレスティアフォール』!」


 少し離れた空間に突風が吹き荒れる、真空となった術式内部に周囲の空気がなだれ込んでいく。目標となった岩は限界まで圧縮された後周囲に四散した。


「やった、やりましたよ!フェリスさん!ようやく大規模魔術を成功することが出来ました。」


 嬉しさのあまり近くにいたフェリスさんに抱き着いてしまう。ちょっと気恥しくて、頭を撫でられてもっと恥ずかしくなる。


「すごいです、ユキ様!まさかこんな短時間で大規模魔術を扱えるようになるなんてまさしく天才ですね。ねぇねぇそうは思いませんか?ウェルトお姉さん。」


 どうやらウェルトさんが約束通り来てくれていたようだ。術式の構築に集中しすぎてまったくわからなかった。


「そうだな見事なものだ。まさかフェリスやノルディック以外で大規模魔術を見る日がこようとは、頑張ったなユキ殿。」


 普段ウェルトさんはあんまり人を褒めたりしない人だと思っていたけど、意外にも今日は褒めてくれた。ここは素直に褒められておこう。フェリスさんよりも少し大きめな手が私の頭を撫でてくれた。


「では少し休憩したらシューゲイズに乗りに行こうか。さすがに初の大規模魔術だ、しっかりと休憩しないと体が持たないぞ。」


「うん、さすがにちょっと疲れたかな。ずっと集中していて頭が焼ききれちゃいそう。」


 お言葉に甘えさせてもらって1時間ぐらい3人で談笑する。魔術や龍のことこの世界のことについて沢山話してくれた。二人とも自分の趣味のことになるとかなり饒舌になる。フェリスさんとはずっといたからわかっていたがウェルトさんもこうだとは知らなかった。


「さて、そろそろ日も沈む。ユキ殿、シューゲイズに乗って絶景を見に行こうか。」


「景色を見に行くんですか?でもたぶん私その前に気絶しちゃう気がするけど。」


「何、そこは妙案がある。さあ行こうか」


 ウェルトさんに急かされて尖塔へと足を運ぶ、フェリスさんもついてきてくれていつもより心強い。なんでも妙案と言うのは、私に目隠しをするらしい。確かに下を見なければ多少はましだと思うけど。


「しっかり捕まっていろ、急がないと間に合わないかもしれないからな。」


 シューゲイズに乗って体を固定する。フェリスさんが見送ってくれて離陸する。どんどん加速するシューゲイズだがこのくらいの速さなら何とか耐えられる。多分感覚的には1万メートルほどだと思う。魔力で体を保護しないと凍え死にそうな寒さだ。


「もう目隠しをとってもいいぞ、ユキ殿。まさしく絶景を拝めるはずだ。」


 促されて目隠しを外す。長いことつけていたからかぴんとが合わなかったがようやく慣れてきた。


 目の前にある景色に目も心も奪われた。


 ただの夕焼けと言うにはあまりにも真っ赤で今にも燃え尽きてしまいそうな太陽がそこにはあった。空気中の水分に乱反射したトワイライトがまるで宝石のようにキラキラと輝いている。あの日龍害を初めて見た時の禍々しい黄昏とは違って大粒のトパーズのような煌めきがそれにはあった。


「どうかな、私の魔術で多少誇張してはいるがあの太陽は紛れもなく絶景だ。トラウマがあるのならそれを塗りつぶせるぐらいの思い出をと思ったんだが、気に入ってくれたかな。」


 確かにこれは最高の思い出だ。こんな素敵な景色を向こうじゃ拝むことはできなかった。きっと木の上で怯えている少女も手を伸ばすぐらいには、この景色は鮮烈だった。


 もう下を見ても怖くはない。どうやら私はまだ木の上で怯えていただけらしい、これが素敵なことだと楽しいことだと思えるようになったなら、それは恐怖じゃなくなる。眼下の景色はどれも私の目を楽しませる。高いところから見る景色がこんなに綺麗なものなら早く克服するべきだった。


「ありがとう、ウェルトさん。おかげで克服できたと思います。今度天羽君にも見せてあげたいな。」


「そうか、ユキ殿の助けとなったなら望外の喜びだ。今度機会があれば天羽殿にも見せてあげよう。」


「きっと喜ぶと思いますよ、天羽君は絶景とか好きですから。」


 子供のころから院内でよく旅行に行きたいとお母さんに言ってて、よくみんなと一緒に日本の観光名所を旅行した記憶が蘇る。あの頃はまだまだ子供っぽかったのに今となってはもうその面影すらないんだから。


「では、戻ろうか。暗くなる前に戻らないと晩餐に間に合わなくだろうから。」


「今日のご飯なんだろな~でもきっと美味しいものだね。」


 最近はよくリーランさんやフェリスさんと夕飯を共にする。毎日豪華な夕飯で食べきれないくらい出てしまうから、今日はウェルトさんも誘ってみよう。きっと今日ぐらいは来てくれるはずだ。


魔術の構築手順は術式の刻印、魔力の循環、術式の展開、目標空間への術式の固定、魔力の解放の順番。実践ではかなり短縮したり同時に行ったりする。実践レベルは大規模魔術の構築時間が30秒以内。

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