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1話 盗まれた『勇者の体』

 後頭部がひんやりと冷たい。


 ここは……石でできた床の上らしい。

 目が覚めたら、見慣れない場所で転がっていた。


 あたりを見回してみる。

 壁にかけられた剣、人物をかたどった彫刻。


 昔見たファンタジー系のゲームに出てくる、古いお城みたいな場所だ。

 どこだよココは。


「あ、起きた」


 ややハスキーめな女の声。

 長い銀髪の美女が俺を見下ろしている。

 メイドさんみたいな格好だ。


 長いまつ毛。

 すらりと伸びた手足。

 誰?


 銀髪美女はごそごそとポケットから手鏡を出し、俺に向けた。

 可もなく不可もなく、まあまあって感じの顔立ち。


 短く黒い髪。

 20代前半ぐらい。

 これは……俺だな。

 それは良いとして。


 問題は頭しかないのだ。


「どういう状況!?」


 たまらず俺は声に出した。

 何で?


 首の断面は青白く光っている。

 え?


 生きてるの?

 この状況で?


「ま、そうよね。驚くのも無理ないわ」


 銀髪美女はつまらなさそうに言うと、手鏡をポケットに直し、しゃがみこんだ。

 黒いロングスカートの裾から、白タイツに覆われた足首が見えている。


 いい眺めだね。

 いや、そんなこと考えている場合じゃない。


「あのー、お姉さん。俺、レンって言うんですけども。今どうなってるんでしょうか? ご存知?」

「ええ。……私はエトナ。面倒だし、説明はざっくりでいい?」


 俺は頭だけでうなずいた。

 この状況で贅沢は言えない。

 エトナは淡々と説明してくれた。


 ある日、天から光の筋が古城に降り注いでいた。

 それを見た盗賊たちが古城の中に入ると、光に包まれた俺の体が横たわっていた。


 眠っている状態で、俺の体はとてつもない魔力? を放っていたらしい。

 ゆうに常人の10倍以上。


 これほどの魔力を持つのは伝説に語り継がれる勇者のみだとか。

 ひとりの盗賊が言った。


「ねえ、あたしらでこいつの魔力をいただいちまおうよ」


 そいつは魔法で俺の体を分割し、6人の盗賊たち全員に配った。

 盗賊たちは分けられた俺の体を魔力ごと自らの体内に取り込み、解散したという。


 なんてことをしてくれたんだよ。

 魔法だとか何だとか……ゲームじゃないんだから。

 人の体をなんだと思ってるんだ。


「で、エトナはなんで経緯を知ってるの?」

「盗賊のひとりだからよ。私にはあんたの頭が配られたの」


 エトナは悪びれもせずに言った。

 キラキラと輝く、青い瞳で俺を見る。


「ははぁ。でも、エトナはなんですぐ俺を取り込まなかったの?」

「生首のまま、ゴニョゴニョ寝言を言ってたのよ。神様、とかなんとか。キモいし、どうしようかなって」


 キ、キモい……勝手だなぁ。

 しかし、寝言を言う生首か。


 確かにシュールな絵だな。

 取り込むのをためらう気持ちはわかる。


 寝言ってなんだろう。

 俺はぼんやりとした記憶をたどった。


 車道を歩く子どもと、母親らしき女性の叫び声。

 無我夢中で走った俺は、子どもを歩道にいた母親にパス。

 その直後、大きな衝撃が――


 そうだ。

 俺はきっとあの時に死んでしまったのだ。

 しがない会社員の俺がせっかくヒーローになれたと思ったのに。


 そういえば、光の中で誰かと話していたような気がする。

 まさか転生する前に神様と話していたんだろうか。


 体を分割されて、盗まれたとも知らずに。

 さっさと異世界転生を受け入れておけば良かった。


「ま、そんな感じ。じゃ、頑張ってね」


 エトナは立ち上がると、すたすたと扉に向かって歩き出した。


「ちょっ! ちょっとちょっと! 待って、置いてかないで!」


 必死で俺は呼び止める。

 なにせ、まるで身動きが取れないのだ。


 せっかく転生したのに見知らぬ古城で転がっているだけなんて、悲しすぎる。

 エトナがどんな人なのかわからないが、交渉するしかない。


「なあ、俺って全身がそろってたらすごい魔力を持ってたんだろ。その力でなにか手伝えないか?」


 俺の提案を聞いて、エトナは振り向いた。

 冷たい表情だった。


「……ひとり、どうしても殺したいヤツがいるわ」

「よし! じゃあさ、俺がそいつをブッ飛ばすよ。約束する。だから、体を取り戻すのを手伝ってくれないか」


「ブッ飛ばす? ずいぶん簡単に言うのね。頭だけのくせに」

「今はそうだけど、全身を取り戻したら絶対に役に立てるぜ」


 正直、魔力がどんなものかは理解できていなかった。

 この世界のあらゆるものに宿る不思議な力、みたいな感じだろう、きっと。


 強大な魔力を持つ勇者、というぐらいだから強いはずだ。

 売り込むポイントはそこしかない。


「ふん。あんたが約束を守る保証はないじゃない」

「どうせすぐに全身はそろわないだろ? その間に俺が信用できるヤツか、見極めてくれよ。ダメっぽかったらその辺に投げ捨てていいからさ」


 ワラにもすがる思いで俺は言った。

 なんとかして引き止めなければ。


 エトナは少し悩んでいる様子だった。

 ため息をつきながら、腕を組む。


「いいわ。手伝ってあげる。でも、約束を破ったらブッ殺すわよ」

「よおおおし! 交渉成立だな! ありがとう」


 とんでもない底辺スタートをきってしまったが、一歩前進だ。

 これは大きな一歩だぞ。

 ただ、頭だけってのはなぁ。


 エトナに持って歩いてもらうわけにもいかないし。

 事情を知らない人が見たら、びっくりするよな。


「えーっと、アレでいいかな」


 エトナはきょろきょろと周囲を見回すと、部屋のすみに飾ってあった甲冑を持ってきた。

 洋館にありそうな銀色の全身鎧だ。


 軽そうに持ち上げている。

 細いのに意外と腕力があるんだな。


 エトナは兜の部分を外すと、両手で俺の頭部を持ち上げて銅鎧の上に載せた。

 そして再度、兜を俺にかぶせる。


「ん。これで鎧を着てるみたいに見えるね」


 エトナが満足げにうなずく。


「いやいや、載ってるだけですけど?」

「ハイハイ、あわてないで。今つなぐから」


 エトナが小さく【制御】とつぶやいた。

 すると、鎧が薄く光を帯びた。


 俺の首と鎧をつなぐってこと?

 Bluetoothみたいな仕組みなのか。


「本来は乗り物を制御したりする魔法なんだけどね。これであんたと鎧がつながったわ。自分の体だと思って、動かすイメージをしてみて」


 自分の体、か。

 どんな感覚だったっけ。

 なんだか遠い昔のように感じる。


 試しに拳を握るイメージをしてみた。

 小手がゆっくりと拳を作っていく。


「これ……動くぞ!」

「次は歩いてみて」


 俺はおそるおそる足を踏み出した。

 不思議な感覚だ。


 足の裏に、地面を踏んだ感触が伝わってこない。

 まるで他人が歩いているのを眺めているみたいだ。


 そりゃそうか。

 鎧の中身は空っぽなんだもんな。


「ちょっと練習していい?」

「いいわよ。あんたが歩けないと私も困るし」


 エトナは壁際に設置されたソファに寝転がると、ポケットから出した本を読み出した。


 まずは自分で歩けるようになりたい。

 できる。

 きっとできるはずだ。


 前世でも最初は歩けなかったんだ。

 昔のことすぎて覚えてないけど。


 そういえばあの助けた子ども、元気かな。

 まさか子どもをかばって死ぬことになるなんて。

 でもま、冴えない俺の最期にしちゃ上出来か。


 ガシャン、ガシャンと物々しい足音だけが静かな古城に響く。

 そこにエトナのあくびの声が混ざった。


 30分ほど練習した俺は、ふらふらしながらも歩けるようになった。

 これなら甲冑が重たいからゆっくり歩いている人に見えなくもない。

 たぶん。


「いいんじゃない? 次はちょっとこの壁を殴ってみてよ」


 ソファからむくりと起き上がると、エトナが石壁をぺしぺしと叩いた。

 壁は赤茶色の硬そうな石を積んで作られている。


 これを殴れっていうのか?

 俺は自分の手を見た。


 手といっても、金属となめした皮革で作られた小手だ。

 まあ痛くはないし、やってみるか。


 俺は壁に向かってゆっくり歩くと『魔力』の流れに意識を集中させた。


 細かい理屈はわからないが、不思議なエネルギーによって俺の体と甲冑はつながっている。

 その魔力という名のエネルギーを拳に集中させるイメージだ。


 俺は腰を落とし、空手の正拳突きのようにまっすぐに突いた。

 予想以上の轟音。

 パラパラと天井から砂粒が落ちてきた。


「おお! すげ……うわお」


 驚くのも束の間、俺の視界がぐるぐると回った。

 殴った反動で兜ごと頭が床に落ちてしまった。


「痛ぁい」

 

「あはははは! 何やってんのあんた」


 エトナが俺を指さしながら笑う。

 全然遠慮のない笑いだ。


 ただ、笑うと少し幼いな。

 18歳ぐらいかな。

 かわいい。

 なんかもう、好きなんだが。


 地面に転がったまま、俺は殴った壁を見た。

 拳大の穴がぽっかりと開き、周囲にはヒビが入っている。


 パンチで石壁を破壊するなんて、前世では考えられないことだ。

 さすがは頭だけになっても最強の勇者。


 やれる。

 やれるぞ。


 まずは新しい体とこの世界に慣れて、本来手に入れるはずだった体を取り戻す。

 最強の勇者になれるチャンスでもあるんだ。

 俺は天井を眺めながら、拳を固く握りしめていた。


読んでいただき、ありがとうございます!

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