表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
凶弾  作者: 透 明
1/4

電車が最寄り駅に近づいたことを知らせる車内アナウンスが流れた。車窓の景色を見る。そろそろ身の回りのものを確認する頃合いだ。


背嚢、手提げカバン、スマホ、財布等を順に確認していく。ふと、あることに気づき顔が青ざめていくのがわかった。


「切符がない」


どのポケットにも財布の中にも切符は見当たらなかった。


そうこうしているうちに列車はプラットフォームに到着した。走行しているうちに列車はプラットフォームに到着した。


座席から立つとまだ閉まっているドアの方へ歩みだそうとして足が止まった。足元から深淵がこちらを覗きこんでいる。私は右足から歩みだすべきなのか、それとも左足からにするべきなのだろうか。


私は右利きなので右手で箸を使い、右手で文字を書く。こうしてスマホで文字を打つときも右手でで操作している。茶碗を持つのはもちろん左手だ。生まれてこの方精密さを要求される作業のほとんどをこの右手が担ってきている。あの日道端に落ちていたギザギザのついた十円玉を拾ったのも右手だった。


しかし、そんなことになんの関係があるだろうか。ドアは左手にあったので私は右手ではなく右足から歩みだした。ドアが開く面に対し垂直に座っているので、左側にあるドアに向かうのに左足からは踏み出しづらかった。


車内に人はまばらだが、私の他にもう一人同じドアに向かっていると思しきお年寄りがいた。このまま歩けばドアの手前で追い抜くことになるが、それだとお年寄りの移動を妨げかねない。かといってお年寄りの後からホームに降りても結局お年寄りを追い抜いていくことにはなる。私は一体どうするべきなのだろうか。


そんなことを考えている間にお年寄りはドアの前にたどり着き、私はその後ろからホームに降り立ったのだった。むっとするような熱気の中、私はホームをふらふらと彷徨った。


前方に改札に上がる階段があり、その向こうにはエスカレーターが動いている。すぐ目の前にはエレベーターもあったが、それに乗る選択肢はなかった。エレベーターが動き出す瞬間に込み上げてくる気持ちの悪さに私は耐えられないからだ。


暑さで一歩一歩命を削り取られるようになりながら私は歩いた。階段までたどり着いたとき、もうエスカレーターまで歩く気力はなくなっていた。転げ落ちるように階段を上がると、改札はすぐそこだった。異次元の入口のようなトイレを横目に、改札へと向かう。「この改札を抜けるともうそこは改札の外だ」そんなことを思いながら、スマホの電子マネーで改札を通った。


左には北口の階段があり、右には南口へと通路が続いている。ついに私は最寄り駅まで帰ってきたのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ