予選
アクレの頭は椅子を貫通してそれはもうなんか、現代アートみたいになっていた。
アクレは動かないどうやら気絶してるようだ。
「……やべ、やりすぎた」
アクレが倒れてから数分後、係員らしき人が来て引きずっていった。
そのご事情を話して相手から仕掛けたことにしてもらった。
「あいつが悪いんだもんな」
その後、時間になり闘技場に出る。
★
毎度開会式があるようでそこで一度選手全員が集まる、観客席からは「今回も堂々たる顔ぶれがそろっているな」
というお決まりの言葉が聞こえてくる。まあ俺には誰が誰だか分かんねえけど。
それからなんか色々話して。
「えー皆様大変長らくお待たせいたしました。これより今大会を開催致します!」
「うおおおおおお!!!!!」
すげえ歓声、耳が痛いくらいに響く。
それにしても一か月から二か月の高頻度で開催されてるはずなのに大盛り上がりだな。
毎回こんなものなのか?だとしたらすげえな。
そのあとルール説明があって、今はそれが終わって一回戦。
そして今は控え室で出番を待っているところ。
俺は三回戦らしいのでもうすぐだ。
「あら、見知った顔ね」
「ん、お、久しぶり…でもないかアリス」
「そうね、精々一週間程度。でも会うとは思わなかったわ」
「そうだな、お前も出るのか?」
「もちろんよ、いつもはこんなの出ないんだけど今回は特別ね」
「そうなのか?何があるんだ」
「え、知らないで今回参加したの?」
「おう、適当にエントリーしただけだ」
「馬鹿ね」
呆れられた。でも正直な所、強い奴と戦いたいだけなので理由なんてどうでもいい。
「まあいいわ、でも貴方が居るのは少し計算外。優勝がさらに遠くなったわ」
「それは、どうしようもないな。俺も負ける気は無いし」
「はあ、物が物だって言うのに残念」
「じゃあね、もし戦う事になったら私も全力で行くから」
アリスはそう言い残し去って行った。
物が物ね、優勝賞品にはあんまり興味がないけどいったい何なんだろうか。
開会式の時に紹介されてたっけ?ほとんど聞いてなかったからな。
まあ、勝てば分かるだろ。
そんなことを考えていると第二試合が終わったようだ。
「行くか」
★
コロシアムのルールは
1 武器に制限は無く自由
2 スキル、魔力に関しては自由に使用可能
3 勝敗は降参、場外負け、戦闘の続行不能で判断される
4 殺した場合反則負けとなり勝者無しとなる
これが大まかなルールだ。
俺は控室を出て会場へ向かう。
そして相手も来たようだ。姿を見るに獣人かな?
「では三回戦!始めぇ!」
開始と同時に剣を抜き構えを取る。
「き、棄権します!棄権します!」
は?
開始と同時、相手の選手が突然そう叫んだ。
「おい、ちょっと待てよ」
「こ、殺される!僕は死にたくない!」
そう言って走り去ってしまった。
観客がざわつき始める。
「そ、それでは勝者しろがね!」
結局、三回戦は俺の勝ちで終わった。
★
何なんだ、何なんだあの男は
まるで獅子、獲物を狩る獅子。
あんな男がなぜ無名なのだ。
あの男こそまさに獣、絶対に勝てない。
対峙するだけで死にそうだ。
「おい、そこの」
「はい!はい!はい!」
後ろを振り返るとそこに居たのは、あの時の男だった。
「お前!ふざけんな」
「ひっ、ひぃ」
「お前のせいで変な噂流れてんだろうが」
「許してください、どうかどうか命だけでも」
「いや、なんでそうなるんだよ。別に殺しゃあしねえよ」
「じゃあ逃がして下さいなんでもします」
「何でそんなに怯えるんだよ。それだけ教えてくれよ」
「それさえ教えてくれたらどっか行くからよ」
「僕たち獣人は強者が分かるんですよ。なんとなくですけど。でも貴方は規格外と言うか、見てるだけなら何ともないんですけど戦うとなるとそれが来るというか、本能的に怖くて」
「なんだよそれ」
「あの、じゃあ僕もう行きますね。はい、はい」
★
夜道、色々近くを散策して宿に帰ろうとする途中。
「よう、兄ちゃん。今日の試合見たぜ」
誰かに声を賭けられる。
「あれは、試合ですらねえだろ」
「それで、思ったんだけどよ。その剣くれよ」
「嫌だが」
「ほう、後悔すんなよ」
物陰からもう一人、男が出てくる。
目的はこの刀か、まあちょうどいいか。
コロシアムでは戦えなかったし、お前らで埋め合わせだ。
刀を抜き、後ろの男の斬撃を受け止める。
「ほう、今のを受け止めるか。なかなかやるようだな」
「はあ、こんなもんかよ」
男の実力を察して落胆した。これくらいなら簡単に倒せるな。
「ふんっ、舐めるなよ。雑魚がぁ!」
さてこいつらの攻撃をいなしながら少し試すか。
今までに何千回と木刀試合、真剣試合をしてるがその経験はあんまり役に立たない。
刀と刀の勝負と刀と剣の勝負は違う、刀と刀で使うような技は使えない、事も無いけど。
まあ、刀と剣の勝負にはその戦い方がある、それを試そう。
まず後ろの男がその後を完全に考えてないようなパワー重視の
上段からの振り下ろし。それを受け止め急に力を抜く。
すると当然前のめりになるので、逆手で刀を持ち胴から首までを掻っ切る。
「おっと、これじゃ刀と刀でも使えちまうな」
「な、畜生」
「じゃ、お前で試すか」
今度はもう一人の男に狙いを定める。
男はナイフを取り出しこちらに向かってくる。
ナイフねえそうだよな全員が全員剣を使うわけじゃないか、まあでもリーチが足りねえだろ。
俺は相手が攻撃できない位置をたも…めんどくさ。さっさと終わらせよう。
「ブベラァ!」
峰で思いっきりぶったいて情けない声を出しながら倒れる。
「次こそ、まともな奴が来ると良いんだが」
★
「あ、やっと帰ってきましたね」
「ああ、悪い」
「いや、全然大丈夫ですよ。それよりこれです!」
机の上に大量の金貨が積まれている。
「大儲けですよ!持ち金二倍の一五〇枚ですよ」
「一五〇そらスゲ…おいちょっと待てお前の持ち金は金貨五〇枚だったよな?」
「残りの二五枚どこから取った?」
「は!なぜ、そこに気が付くのです!?」
「いやまて、その前に何全財産賭けてんのお前」
「いや、で、でも白金さんの実力があれば負ける事なんて無いですし」
「いや、言いたいのはリスク管理をしろって事なんだが」
「うぐぅ」
全くなにやってるんだか。
「とりあえず次賭ける時は半分は残せよ。絶対だからな」
「…はい」
あまり納得はしてなさそうだけど
一応了承してくれた。
★
次の日になり今日も大会が開催される。
昨日の試合で俺が勝ったことにより多少俺の噂が流れたらしい。
でもまだ俺が勝つとは思われてないらしく観客の盛り上がりもそこまでではない。
(ま、あれじゃ何が何だかわかんねえよな)
俺の対戦相手はなんというかどこかで見た顔だ。
「君と戦えることを楽しみにしていたよ、あの時の雪辱を晴らす時が来た!」
「誰だ?お前」
「な!僕の事を覚えてすらいないだと!この僕、アクレ様のことを!」
「ああ、あのむかつく顔の」
「ぶ、ぶっ殺してやる!」
「両者、用意はいいか?それでは始め!」
開始と同時にアクレが突っ込んで来る。
「死ねぇ!」
あくびが出るほど遅い剣を受け止める。
「はあ、まあこんなもんだよな」
もう少し骨のあるやつ居ねえのかな。
相手の剣を思いっきり弾く。アクレは体勢を崩すが俺は崩していない。
最小限の動きで横薙ぎを放ち腹を裂く。
「ぐっ!」
「お前じゃ俺に勝てない理由が三つある」
「何だと!」
また勢いよく突っ込んでくる、学習って言葉を知らないんだろうか。
「まず一つ、圧倒的に技術不足」
アレクに合わせて刀を振る。
「二つ、パワー不足。頭まで筋肉そうなのにひ弱だな」
そのまま押しのけもう一撃。
「三つ、頭が足りない。その程度なら脳筋でもできるぞ」
「く、クソぉ!」
「そして四つスピード不足。素振りでもしたらどうだ」
アクレが剣を振るが遅すぎるので振るのを確認してからまだ反撃が間に合う。
殺したら不味いので峰で首を叩いて気絶させる。
「そして、五つ目…って聞いてねえな」
まあ三つどころじゃないな。なんなら一〇〇個くらいありそうだ。
「勝者、白金!」
歓声とともに悲痛な声や怒号が飛ぶ。
賭けって言うのは恐ろしいな。
★
そして特に苦戦することも無く三回戦、四回戦、五回戦と、突破した。
骨のあるやつと戦えると思ったのに期待は外れ。
あ、あとリルがまた全財産で賭けしてやがったのでほっぺたつねってやった。
「カイ」
名前を呼ばれその声の方へ振り向く。
「アリスかどうした?」
「次の試合に私が勝てば、準決勝で当たるのは私。戦うのは貴方。覚悟していて」
「おう、かかって来い」
「それだけだから。あ、あとアレを手に入れれるのは優勝者と準優勝者だけ。つまり貴方か私かどっちかしかアレを手に入れれることはできない」
「私は本気で行くから」
そう言って立ち去ろうとする。
ふっ、アレってなんだ?まあいいか。
立ち去りながら、「私は負けない貴方にも」と言ったのを俺の耳は聞き逃さなかった。
★
さて、アリスが自信満々らしいのでどんな戦い方をするのか気になり、観戦することにした。
「さあ、準々決勝です!ここで勝ち進めば。アレまでに王手がかけられます」
だからアレってなんだよ。お前らくらいアレじゃなくて名前で呼べよ。
アリスともう一人の選手は剣と盾を持った男。
アリスは手ぶらだ。
「それでは、試合開始!」
試合開始と同時。アリスはゆっくり歩き始める。
そして場外ギリギリで止まり、足を止める。
(貴方の情報は得た、でも私の情報は渡さないから)
なんとなく目があった気がする。
すると、相手は剣を構えて突っ込む。
「何をするつもりなのか知らんがこっちから行かせてもらう!」
男が走り出し、アリスに近づき斬りかかる。
しかし男はギリギリ動きを止める。そのまま場外に蹴られて落とされる。
会場中が呆然としている。落とされた男すら何をされたのか分かっていない様子だ。
まあ、俺も分かっていない。なんで動かなかったんだろ。
「勝者、アリス!」
観客のざわめきが聞こえる。
控え室までの道その道からアリスに話しかける。
「俺が見にきた時にそれは卑怯じゃね」
「あら、もっと前から見てたら良かったじゃない」
「同じことするだろ、お前」
「ええ、よくわかってるじゃない」
「ま、良いけどよ。じゃあなまた明日」
「ええ、また明日」
★
「準決勝です!ここまで残った猛者は二人。このどちらかが本戦のチケットを手に入れることができます」
本戦のチケット!それがアレの正体か。本戦?
「では、両者準備はいいですか?それでは、試合始め!」
「最初から全力で生かしてもらうから!」
アリスは何もしてない、けど嫌な予感がする
「喰らいなさい!」
予想は大当たり頭上から雷が降ってくる!
「うお!危ねえ」
なんとか横に飛びそれをかわす。
(貴方は速い。近接戦に持ち込まれたら勝ち目はない、なら近づかせないだけ!)
とりあえず近づくか。それにしても魔法か。アリスが言ってたな結局教えてくれなかったけど!
「まだまだこれからだから!」
今度は雷の牙のような物を放ってくる。
避けるには後ろに下がるしかない。
「近づかせないってわけか」
「その通り。棄権するなら今のうち」
「するかよ」
「でしょうね」
アリスは楽しそうだな、俺もか。
その後も次々と雷の攻撃が来る。なんとか避けているが近づけてはいない。
でもまだまだ余力がある。アリスはそうは見えない。
「まだ、行くから。覚悟、しなさい」
「こいよ」
複数の雷の刃が飛んでくる。一つ一つがかなり速い。
しかし下側にはほとんど無い。伏せていればなんとか避けれる。
「このままじゃ、無理ね。……魔法を使うわ」
「へえ」
さっきの魔法じゃなかったんだ。
「当たらないのなら。当たるまで」
両手を前に突き出す。
「【槍の雷雲】(クラウドオーバー)」
空が黒く染まりそこから雷の槍が空一面にある。
「逃げ場はない、私の勝ち」
「じゃ、行くか」
ただ前に駆ける、距離を詰め決着を狙うため。
「馬鹿正直に突っ込んで来て、どうも!」
(真っすぐ三つ雷を落とせば当たる。その前傾姿勢じゃもう止まれないでしょ)
三つの雷が落ちてくる。ここまま行けば確実に当たるな、止まるか。
足先に力を込めブレーキをかける。
一つ目の雷が無くなると同時、走り出す。
「嘘、でしょ」
「ッ!!落ちて!」
無数の雷の槍が降り注ぐ。流石に避けられない。
その前に終わらせるだけだ。
さらに加速し近づく。
(速い、スキルも魔力なしで出せる速度じゃないでしょ)
刀を握る。
(峰で首をうち気絶させる)
「諦め、ないから、絶対」
アリスの手のひらに雷が溜まる。
それを突き出してくる。それを避けて…
なぜか急にアリスが倒れる。俺は何もしていない。
急いで体を支える。
「おい、大丈夫か?」
返事がない、完全に意識を失っている。
しょうがない、医療室まで連れて行くか。
「しょ、勝者しろがね!」
観客の歓声が聞こえる。
会場は盛り上がっているが俺は気にしない。
アリスを抱きかかえ医務室までの道を歩く。
★
「入るぞ」
ドアを蹴って開ける。
「静かに入りなさい」
「はいよ」
ベッドの上にアリスを寝かせる。
「なあアリスは大丈夫、なのか?」
医務室のおばちゃんは俺を睨みつけると。
「貴方がやったんじゃないのかい?」
「違う、倒れたんだよ」
「まあ、それなら魔力を使い過ぎたんだろうね。そのうち起きるよ」
「そうか、良かった」
「それよりあんた、お姫様だっことはね」
「そんなんじゃねえよ」
「はいはい、わかったから」
「じゃあ、俺は行くから」
「はいよ」
★
酷い倦怠感と疲労感に襲われながら目を覚ます。
それと同時に察した。負けたんだと。
「おや、起きたかい」
「ここは……」
「医務室だよ、お前さん魔力使い過ぎて倒れてたんだよ。一時間くらいね」
「そうですか」
「それにしても、あの男とはどうゆう関係なんだい?」
「?どうゆう事です」
「だって貴方お姫様だっこされてここに来たからね」
「は、はあ!」
「あのすかし男、何やってんのよ」
つ、つまり私はあの大人数の中でお姫様だっこされながら運ばれたの?
恥ずかしさと怒りが同時に込み上げてくる。
「あいつはどこですか!」
「えっと、もう帰ったよ」
「あーもう!なんなのよ!」
ベットを降り急いで観客席に向かう。
まだ準決勝が行われている時間帯だ。
きっと観客席にいるはず。
★
観客席に行きカイを探す。しかし見つからない。
もしかしていないのかもしれない。相手を知らなくても勝てるとそうふんでいるのかも。
そう思うと自然と探す気は無くなった。
試合でも見て帰ろうと思い空いている席に座った。
でも試合は見てられないような試合だった。
一人の男がもう一人をもてあそんでいるようだった。
決して場外に出さず、気絶もさせずただひたすらになぶっている。
男は近づき手に剣を突き刺す。
悶える相手の顔に蹴りを入れる。
何度も、何度も。
「もう止めてくれ、俺のま」
そう言おうとした瞬間口を塞ぐ。
「あ~、聞こえないなあ」
男の体は傷だらけで血まみれでそれでもなお、なぶり続ける。
流石にやりすぎだ判断したのか。審判が止めにかかる。
「おい、待て。もうやめたまえ君の勝ちだ」
「それは当たり前だろ。それに今更止めたって無駄だと思うぜ」
「もう死んでるからな」
「な!」
死んだ。そう言われた時やっと理解できた。
相手はすでに死んでいた。
「…失格だ。君を失格とする!」
「あ、そうだったな殺したら失格だったな。まあいいか」
そう言って男は立ち去っていく。
「なんなのよ、あれ」
★
「怒ってないですか?」
「ああ、怒ってないからそこから出で来いよ」
「ほんとですか、私が全財産すった事本当に怒ってないですか」
「だから、怒ってないって出てこいよ」
「ほんとですよ、怒ってないですね」
「本当だって」
「怒ってないなら良かったです」
ようやくリルは物陰から出てきてくれた。
「ああ、お前が俺の金まで賭けて全財産を無くした事以外はなあーーーー!」
「うわあぁあ、ごめんなさい勝てると思ったんですー」
「言い訳すんなーーー」
リルを捕まえほっぺたをつねる。
(リルのほっぺた良く伸びるな)
「痛いです。グスン」