どこの世界でも賭け事と酒は健在
二週間から三週間→一か月から二か月
に変えています。
完全に速度を見切られた。ああもう駄目だな。
意識すら薄れていく。最後に君に会いたい、どれだけの犠牲を払ってもいい。
殺人鬼だと罵られてもいい何でもいい会いたい。
リル、お前はどんどん母親に似てくるな。お前を見るたび君への願望が強くなる。
「もう良いんですよ、クロウリー」
真っ白の空間に彼女がいる。
信じられない、でもずっとそれを待っていた。
私は五十を超える男だ、でもこんな時くらい。涙を流して走ってもいいはずだ。
考えるより先に彼女に近寄っていた。
「うあああ、ああ」
抱きしめると彼女の温もりを感じる。
「貴方には私に縛られず、長生きしてほしかった。何でもう来ちゃうんですか」
「ごめんな、でも、それでも会いたかったんだよ」
「ううん、もう良いんです。私も会いたかった」
「もう満足だ、君と会えた未練は無い逝こう」
「…でもまだあと一つだけ貴方にはしなきゃいけない事があるでしょう」
「最後の一握りの力で頑張って」
★
クロウリーは死んだ。それを確認した。なのに
「しろ、がね」
喋った。
「なんだよ?」
「娘を頼んでいいか?」
「なんでだよ」
かすれた声で意味不明な事を言い出した。
「おい!聞いてんのか!」
振り返りクロウリーの方を向く。
そこにはもう動かない、死体一つしかなかった。
「…チッ、かっこつけジジイめ」
「これで良かったのかよ」
「…はい」
★
「って事があった」
「いやあ、良く帰ってきた。俺は勝てるわけないと踏んでたぞ」
「俺だって死ぬかと思ったぜ」
「いや良かったぜ、折角ミスリル製の剣を作ったっていうのにたった一回で使用者が死んだら作ったかいが無いからな」
「ああ、…ああ?え?」
ちょっと待てこいつ何言った?
「ミスリル?これ?俺普通の頼んだぞ」
「白金さんにはそれを使う価値がある俺はそうふんだ。まあ特別価格で金貨七枚で売っといてやる」「マジ?そらありがたい。ちなみに正規価格はいくらなんだ?」
「……金貨百二十枚」
「高っ」
「はは、まあいいんだよ」
ガチャンと扉の開く音がする。
「お、来たか」
「白金さん、ありがとうございました」
「いいからそういうの。あとこれからどうするんだ」
リルは少し考えて。
「分かりません。ただ、家に帰って事後処理を」
「つまんねえだろ、それじゃ」
「え?」
「娘を頼む、お前の親父が息を吹き返してまで言った言葉だ。…付いてくるか、俺と」
「……はい」「でも、付いて行くって何をするんですか?」
「そうだな、まあ色々、楽しいことをする」
「楽しいなら、行きます」
こうして、俺に新しい仲間ができた。
その後ドノバンがリル用に装備を整えてくれた。
タダでやってくれたことも驚いたけど。
リルが装備に目を輝かせていた方が驚いた。
「じゃあなドノバン。世話になった」
「おう、また何かあったら言ってくれ」
俺たちは店を出た。
★
さて何するかな。
今したい事…戦いてえなあ。この刀試してえなあ。
「なあ、リルの親父より強い奴ってこの国に居んの?」
「さあ、どうでしょう。騎士団団長ならお父様よりは強いと思いますが」
「じゃあどうやったらそいつと戦えんの」
「そ、それは大犯罪でもすれば来るんじゃないでしょうか」
「よし、人ぶっ殺そうか」
「何言ってるんですか!そんなのダメですよ」
「冗談だ、じょーだん」
「全く……」
「でもなあ刀を試したいんだよ。あ、この剣の事な」
「そんなに戦いたいのなら。コロシアムにでも行きますか?」
「あ、いいなそれ。行こうぜ」
「じゃあ、目的地はアガタ―帝国ですね」
「別の国か?それ」
「はい、でも隣の国ですしそれほど時間もかかりませんよ」
「へぇ~、じゃあ行くか!」
★
移動は馬車ですることになった。
休みを入れながら三日間。やることがねえから本当に暇で仕方ない。
道は整備されてるから魔物なんかも出ないらしいし。ただ待つだけなんだよな。
だけど、隣でリルは楽しそうにしている。
「あ、見えてきましたよ」
「おお、あれが」
「はい、アガタ―帝国です」
目の前には大きな門が。
その奥には活気ある町並みが広がっている。
「すげえな」
「世界でもかなりの大国ですからね」
★
入国手続きを終えた。
そしていよいよ街に入る。
「で、コロシアムは?どこにあるんだ?」
「案内図を見てみましょう」
地図を見る。
ここが王都でそこから南に下っていくとコロシアムがある。
「とりあえず行くか」
「でも、まず宿を取りませんか」
「…よし!コロシアム行くぞ!」
「ちょ、ちょっと待ってください」
★
リルの提案を無視してコロシアムに直行したけど、やってなかった。
まあでもエントリーはしたけど。
「コロシアムはいつもやっている訳じゃないんです」
「エントリーはいつでもできるんですから、先に宿を取ろうと言ったのに」
「ああ悪かった悪かった。じゃ宿取るか」
「はい」
「そういや、貴族のお嬢様だったな。高い所じゃないと受け付けないとかやめろよ」
「貴族と言っても何年か前から良い暮らしなんてしてませんし。そんなに気を使わなくて大丈夫ですよ」「あ、そう」
「それに安い所にしましょう。私も節約しないといけませんし」
「……お前、金あんの?」
「……ありますよ、一応」
「……まあ、任せるわ」
結局、安めの宿屋にした。
そして色々コロシアムの事を教えてもらっていた。
「コロシアムは力と力をぶつける所ですが。観客はお金を賭けるんですよ」
「賭博場か。どこの世界でも賭け事と酒の人気は落ちないもんだな」
「今までにエントリーしたことが無い人は実力が分からないのでオッズが低くなるんです」
「なるほどな。ちなみに初エントリーの平均は」
「二倍です。私は全部白金さんに賭けますから。負けないでくださいね」
「え、賭けんの。と、言うか子供が賭けれんの?」
「子、子供って。私これでもちゃんと成人してるんですよ」
「は!え!今いくつだよ」
「十六です。ちゃんと成人してるんですよ」
「ああ、十六。十六で成人なのね」
一瞬、俺より年上かと思ったわ、まあそんなことないか。
「まあ、賭けるなら賭けろ。負けるつもりなんかねえよ」
「え、初戦は負けて下さいね、それもこっぴどく」
「なんでだよ」
「だってそうすれば次のオッズが跳ね上がりますよ。ガッポガッポですよ」
「それって有りなのかよ」
するとあからさまに目をそらして口笛を吹き始める。
「駄目じゃねえか!」
★
「はい、確認しました。それではこちらの控室へどうぞ」
ついにこの日がやってきた。コロシアムの大会開催日
と言ってもこのコロシアム一か月から二か月のかなりの高頻度で開催されてるので。
ついにこの日とか言ったけど三日しかたってない。
リルは観客席に馬券みたいなものを握りしめて向かった。
あの子ほんとに貴族のお嬢さんなんだろうか。
俺は俺で控室に向かう。そこには百人より少し多い程度の人が居て。
各々が準備運動をしている。俺は空いている椅子に座って時間まで待つことにした。
「おい、君」
声をかけられ振り向いてみる。
そこにいたのは背の高い筋肉質の男。
顔は…むかつく顔をしてる。
「君、この大会初めてかい?」
「まあな」
「そうだと思ったよ。そうじゃなきゃそこには座らない。そこはこの僕の席だ、どいてくれ」
「…はいはい」
「ふんっ、分かってるじゃないか」
「嫌に決まってんだろ」
「なに、今何を言ったんだい。この僕にこの優勝候補であるアクレ様にどんな口を聞いてるんだい」「知らねえよ、座りたいんだったら力ずくで奪ってみろ」
「……いいだろう。後悔するんじゃないよ」
アクレは拳を振りかぶり、無駄の多いパンチを俺に放ってくる。
それをしゃがんで避ける、伸びきった腕を掴んでそのまま筋力だけでアクレをその椅子に叩きつける。
「良かったな。座れたぞ、頭とケツが逆だけどな」
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