クロウリー・シルバ
剣を鞘に納めて。構えを取る。
「【先血】」
クロウリーが先に動くこちらに詰めて来る。
俺は動かずただ一瞬刀を抜く。
向かってくる剣を弾き。胸元を深く切り裂く。
「【師走】」
後ろに回ったクロウリーそして胸から血を噴き出し倒れる。
「俺の勝ちだ」
★
生まれは平民、今は貴族それにはそれ相応の理由がある。
私が十八のころこのバルト王国で戦争が起きた。
父は戦争で亡くなり母もその後を追うように病気で亡くなった。
一人で二十になり父と同じように戦争に駆り出された。
そこで初めて気づいた事は自分が強いという事だった。
高速で移動し一度刃を相手に当てるだけで戦闘不能にしていく。
そして私は戦争を生き残り、その活躍から英雄と呼ばれ。
それからの私の人生は変わった。
まず戦争での活躍を称えられ、貴族の称号を与えられた。
土地を与えられて、そこを統治する。
今までとは変わった事ばかりで最初こそ戸惑ったけど、すぐに慣れた。
でも問題はそこでは無かった、それは周りの貴族があまり私の事を良く思っていない事だ。
平民から貴族になったのだ、当然と言えば当然だろう。
だけど親も友も無くし、恋仲すらいない私は人が恋しかった。
貴族は貴族としか付き合えず、婚姻もできない。
でも、周りの貴族たちは私の事を良くは思っていない。
何度か会ってみたりもしたが、全員に断られてしまった。
そんな寂しい日々を過ごしていた私に君は突然現れた。
朝、何も予定などない今日に来客が来た。使用人から来客だと伝えられ。
誰だろうと疑問に思いながら応接間に行くと。
「あれ?どちら様?」
開口一番にこれだった。いきなり失礼な女性だと思った。
「申し訳ございません、本日はどのような用件でしょうか?」
「もしかして、ここはヘーゼル邸では、無い、ですよね」
「ええ、はいヘーゼル邸では無いですねヘーゼル邸は一つ隣の…と言うか門に表札を張っていると思うんですが」
その事を告げると彼女は顔を真っ赤にして
「す、すいませんでしたあ」
と何度も頭を下げる。彼女一人なら間違えるのはまあ可能性くらいある。使用人は何をしているんだ?
「すぐに出て行きます。本当にすいませんでした」
と何度も謝る彼女に、
「待ってくれ、君が何を勘違いしたのかは知らないけど。別に怒ったりはしていないよ」
「え?怒ってないんですか?あんなに迷惑そうな顔してたのに……」
「いや、それは……まあ気にしないでくれ」
「そ、そうですか、ありがとうございます」
彼女は出て行った。それをベランダから眺めていると彼女の後ろで使用人が必死に笑いこらえていた。使用人からの虐め、滅多にない事だが無いわけじゃない。きっと家でも…いやこれ以上詮索するのは意味も無いか。
★
「では、このお見合いは破談という事で」
「そ、そこをなんとかお願いします」
「そちらから申し立てておいて遅れるような人とは結婚できませんよ」
「では今回の話はこれで終了です。お引き取り下さい」
「…はい」
「よくやってくれたよ。君たち」
「いえ、この程度なら」
「報酬は後で渡しておくからな。それにしてもあんな女と僕がお見合いなんて親父も何考えてるんだよ」
「仕方ありませんよ、公爵家の御子息なのですから」
「そうだな、じゃもう行っていいよ」
「はい、それでは」
★
次の日も予定など入っていなかったのだが。またも使用人から来客があったと告げられた。
見てみると彼女だった。「昨日の、今日でどうされましたか?」
「い、いえその昨日は迷惑をかけたので謝罪をと」
「そんな事の為にわざわざ来たのか?」
「来た方が迷惑でしたかね」
「いや、そんな事は無いよ。何せ人が恋しい物でね」
「それは良かったです。でも私といてもつまらないと思いますけど」
「そんな事無いさ、そうだ時間があれば話し相手になってくれないか」
「私なんかで良ければいくらでも」
それから彼女と話を始めた。お互いの生い立ち、趣味、悩み、現状、そして過去。
彼女と話す時間はとても楽しかった。
「今日はありがとう。とても楽しかった」
「私も楽しかったですよ」
「それじゃ」
「はい、気を付けて」
それから彼女と私はよく話すようになっていった。
それからはとんとん拍子で付き合う事になり、私は彼女にプロポーズをした。
色々苦難もあったけど私たちは結婚した。
それからは幸せな日々が続いた。子供にも恵まれて。
でもそれも長くは続かなかった。
★
「なんで、何が?」
目に見える物、目を背けたいものそれは君の死体だった。
私と娘が出かけている間に何が?
「お、お母さん、何で、動かないの?」
「リル、見るな見ちゃ駄目だ」
「お父さん?」
私は急いで医者と警備隊を呼んでもらった。
そして、分かった事は。心臓を刃物で一突きされていた。
「誰が、やったんだ?」
「今のところは分かりません」
「そう、か」
★
何か月たっただろうか。ずっとこの時を待ち望んでいた。
目の前にいる男の心臓を目掛けて剣を振り下ろす。
「死ね、愚図どもが」
「待て、待ってくれ罪を償う償うから!」
その言葉にイラつき剣を止める。
「罪を償うだと…それならお前が殺した彼女を生き返らせろ!今まで時間を返せ!」
「失ったものを全て返して、初めて罪は償えるんだ。それが出来なければ、罰を受け入れ死にさらせ!」
「……それを、お前が言うのか」
………………剣を突き刺した。深く深く。
「お前がそれを言っていいはずがないだろぉー」
最後に見たものは男の泣き顔だった。
終わった。最後の男の言葉、もう気にしない事にしよう。
こいつ達の目的は私への復讐だった。
何故か、戦争のころの因縁だろうか。
………………………………満たされない。
こんな事をしても君は帰ってこない。
分かっていた、そんなこと最初から。
★
さらに月日がたってリルも育っていった。
段々と君に似てくるリルが居て、君への願望が強くなる。
私はまだ君を乗り越えられてないようだ。
リルはもう乗り越えて今を生きているというのに。
あの時の事をたまに思い出してしまう。
その時は決まって君と過ごした楽しい時間を思い出す。
ああ、君は本当に優しい人だった。
君の笑顔、怒った時の顔、困った顔、泣いた顔、驚いた顔、照れたような顔、幸せそうな顔、嬉しそうな顔、真剣な顔、無表情な顔、寝顔、声、仕草、匂い、感触、温もり、全部、全部、大好きだった。
私の初恋で最愛の人。
今でも愛している。だから、もう一度だけ会いたい。
(…生き返らせる?)
蘇生術は禁忌とされている。
それでも、それでも、私は君に会いたい。
★
国王は私の事を好いている。
だからか、蘇生術を認めてくれた。
罪には問わないが協力もしないと。十分だ。
着々と準備が進む。蘇生魔術を宿したロザリオ。
人目につかなず教会の聖なる魔力を使える場所。そして君の一部。
全て揃った。後は私がやるだけだ。
ある日の事だ。
私が家に帰り部屋に戻るとリルが居た。
私の計画書を見ていた。
「お父様、何、これ」
「……」
見られた。だが、これでいいさ。
「リル、また三人で暮らせるんだ」
「何を言っているの?」
「千人、死んでも?」
「千人、死んでもだ」
リルは私の横を過ぎ去り家を出て行った。
リルも分かってくれる。次会うときに説くとしよう。
まあだが人でも雇い連れてこよう。
★
結局雇った奴らはリルを連れてこれなかった。
使えない奴らだ。もういいか。
夜、ようやくこの日が来た。
さあ行こう。