お前、チーズ豚丼作ってるwww
チーズ牛丼食べてそう。=陰キャ扱い。そんなネットスラングが出回っている。
せっかく、美味しいチーズ牛丼なのに
「チーズ牛丼、小盛、Aセットでお願いします」
「はーい」
頼み辛くても、別に平然と注文して食べる。乳製品とお肉は合うから仕方ない。
チーズ牛丼を食いながらモグモグと、小学生並の身長の成人陰キャ男性にだっている、職場のイケメンな同僚に言う。
「チーズ牛丼食べてる奴、陰キャって言われたくないよ。弓長」
「瀬戸くん。エロい女の子を描く絵師が言っていたら、その偏見は正しいと思います」
親しい奴としか喋れない奴。……それだけでもマシだが、なにか。陰キャを背負いし者だ。
こんなことを言われてても、瀬戸の場合は平然とチーズ牛丼を食べるだろうけど、少しはイメージ払拭させたい気持ちはあるようだ。
とはいえ、それを改善させる頭はない。
そんなに陰キャ扱いをして何が悪いのか。そこはどうでも良くて、弓長個人の考え方としては
「良い気分はしませんけどね。人はともかく、食べ物に罪はありません」
「だよねだよね!なんかなーい?」
「私達だけでどうしろと?別にどーでもいいんですけど……、そうですね。あえて言うなら、食べてるという扱いより、作ってるという感じに持っていくのはどうでしょう?私達、クリエイターですし」
「おお!なるほど!つまり、”お前、チーズ牛丼、作ってるwww”って感じだね!なんか家事ができそうじゃん!作り方教えて!」
「そこで私に頼むんですか?」
◇ ◇
男2人でスーパーに買い物に行くとか、困ったもんだ。
料理なんかまったくした事がない瀬戸にとっては、こんなお買い物ですらそうあまりない。一方で買い物も料理だって卒なくこなせる万能な人間、弓長にとってはポイポイっと、材料を入れて
「お菓子買わない?」
「それは自分のお金で買いなさい」
「ちぇー」
買い物を終えて、職場に戻る。
買い物前にご飯を1合炊いておき、その間の30分ほどで買い物と調理を済ませようという魂胆だ。
エプロンなどもつけないテキトーぶりだが、包丁とボウル、計量カップ、小さいフライパンを用意。弓長と瀬戸が職場の調理場をちょっと占拠する。
「じゃあ、チーズ豚丼を作りますよ」
「牛丼じゃないんかい!?」
「牛肉は高いです。どっちでやってもあまり変わらない、雑ぶりでいきます。1人前です」
「お、おぅ……」
よくよく思うと、牛丼食ってそうって、ご馳走を毎日食べてるようなもんだな。カップラーメンとかより明らかに豪華な食事だもんな。
豚丼ぐらいが丁度いいかもしれない。そして、チェーン店が出すような美味しい料理を出すわけじゃない。むしろ、経費削減するかのように節制されている。
「まず、お肉です。一口ほどの量をボウルに入れます。それでも食べやすいように切りましょう」
「うん」
「次にもやしです。これも一口ほどの量をボウルに入れます」
「ええぇっ!?玉ねぎとかネギとかじゃなく?」
「安いことと切るのが面倒なんです」
なんか貧乏飯な予感。いや、そんな貧乏飯を美味しくするというのは、すごい事だろう。
そんな不安と期待をドキドキと見ながら、見守る瀬戸に弓長は
「これだけで炒めてもいいんですけど……」
「少ないよ!!なんかもう1つ!」
「……そうですね、そこで生姜を勧めます。ちょっと高いですが、こちらの量はお肉より少なくて大丈夫ですし、日持ちもする食材なので、なんだかんだで良いですよ。炒めモノに困ったら、生姜です」
生姜をちょっと切り、皮を剥き、同じくボウルの中へ。
喋っているが、この間、5分。
小さなフライパンに油をひいて、火をかける。フライパンが温まるまでの間に、
「軽量カップに10mlのしょうゆ、10mlのみりん、10mlのめんつゆ、70mlの水を入れてください」
「な、なんか細かいね」
「じゃあ、テキトーな量の液体をぶちこんだ後、100mlになるように水を入れてください」
「一気に雑になった!!?」
小さなフライパンが熱したら、その上にお肉、もやし、生姜を投入。
「肉の色が変わるまで炒めます」
「ふんふん」
ジュ~~~~
「色が変わったよ」
「じゃあ、計量カップに入れたモノを流しこんでください」
ジュウウゥゥッ
「あとは水っ気が程よく無くなるまで煮ます(小さなフライパンだとやりやすい)。5分くらいで良い感じになりますよ」
「おおおっ!それでそれで!」
「……その間に食べられるよう、食器や飲み物を用意しておきましょう」
「おお!手際が良い感じだ!これは陽キャの立ち回りだよ!」
ご飯もさきほど炊き終わり、皿に白米が乗る。あとはその上に、今煮込み終わったお肉達が流れ込んでくる。ちょっとした5分でなんかそれっぽく成り、その上から
「細切れチーズを少々、かけましょう」
ふりかけ感覚でチーズを乗せれば、チーズ豚丼の完成である(なんちゃって)。ご飯を炊くとかはともかく、調理時間は10分掛かるか掛からないくらい。
「お手軽でしょ?」
「おおーー!僕でも出来そうだ!豚丼簡単!!(なんちゃってだけど)」
「お肉をちゃんと炒めたじゃないですか。それで十分です」
味付けに塩コショウを振るも良しですが、そこは作る本人に任せること。煮るだけのアッサリ味もいい。煮る以外に焼き肉のタレでお肉ともやしを和えて、炒めるのも美味しい。
そんなお夜食の匂いに誘われ、今日も徹夜女性の3人が調理場に顔を覗かせる。
「夜食作ってくれたんですか~」
「食べるぞー!なんだなんだー」
先にやってきた二人、安西と林崎は嬉しそうな顔で、出来上がったらしい夜食を尋ねた。
それに笑顔でイケメンの弓長は応えてあげる。
「チーズ豚丼。超小盛です」
「「いやっほー!お肉ー!」」
喜ぶ、安西と林崎。レシピなどを教えたが、あまり調理には関わらなかった弓長。
その後すぐに、嬉しそうな声が聞こえて美味しいモノだと思い、工藤友ちゃんが訊いて来た。
「夜食ってなに?」
その質問に今度は瀬戸が、自分の子供並の身長と比例するような喜んでいる顔で
「チーズ豚丼!超小盛!!僕が作ったよー、友ちゃん」
「……えー、あんたが飯作ったの?ご飯、作れたの~?」
友ちゃん、調理した人で差別するかのような発言。
ウッカリなのか、素なのか。でも、実際出来上がった料理より、誰が作ったかどうかは大事なモノである。イケメンってだけで人生の勝ち組だ。
「酷いよ、友ちゃん……」
「えっ、弓長さんじゃないんですか?」
「安西さん達。瀬戸くんが作ったからって、退かないでください。美味しいと思います」
「あははは、なんか。……美味しければいいよ」
確かにチーズ豚丼は美味しかったけど、気持ち悪いって感覚が3人の女性にはあった。