表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。
この作品には 〔残酷描写〕が含まれています。
苦手な方はご注意ください。

【短編】『みんな、シあわせになぁれ』

作者: ぴー

「詩織!ずっと前から好きだった!付き合ってほしい。」



--嘘っ!?

孝明もそう思ってくれてたなんて、すっごく嬉しい。



私もずっと好きだった。

でも、この関係が崩れるのが嫌だ…


私も好き…




ダメだ…

言えない…


『--大丈夫。自分の気持ちを信じて。』


内なる声が、私の背中を押す。



「私も…孝明のことが-」



    ※ ※



私、右代詩織は今年の春、高校生になった。


私の通う明誠高校は制服がすっごく可愛くて、ずっと着てみたいと思っていた。


将来の夢が特にない私は、憧れの制服を着て高校に通うんだ!という想いが高校受験のモチベーションだった。

念願叶って袖を通す。


(やっぱり、めちゃくちゃ可愛い)


るん♪と玄関にある姿見の前で一回転してみる。


いざ!ドアを開けて春風を吸い込む。

今日から高校生--その気持ちを胸に一歩踏み出した。


新しい制服で歩く初めての通学路、どきどき鼓動が高鳴る。

私はほんのちょっと足を止めた、その時

「おう、おはよう詩織!その制服似合ってんじゃん!馬子にも衣装だな!」

腐れ縁の前田孝明が声をかけてきた。


「はいはい、ありがとう。」


『孝明は照れてるのか、素直に誉められないみたいだね。』


私には、頭の中に語りかけてくるモノがいる。


『ほら、なんかアイツ顔が赤いぞ。』


(男子の気持ちはよくわからない…)




私は2歳の時、車に轢かれた。

命には問題なかったが、意識を失って右足の太股には一生残る傷が出来、しばらく入院した。


その時から、私は内なる自分の声(?)のようなものが聞こえるようになった。


『ボーッとしてどうしたの?』


(なんか、昔の事を思い出しててね…)


右足の太股をさする。

昔のことを思い出すと少し傷が疼く。



私はこの傷が嫌いで、幼稚園の頃から長ズボンしか履かなかった。

本当はスカートを履きたかったけれど、周りの人に傷が見られている様な気がしていたから…


けれどいつもズボンしか履かない私は小学3年生の頃、男子に男女(オトコオンナ)と言われイジメられた。


「コラー!」とか強がって見せたけど、本当に嫌だった。


小学5年生、こいつが現れた。

前田 孝明。

この頃はまだ苗字で呼ばれていたっけ。

「お前らなぁ!右代さんはスタイルがいいから、パンツが似合うんだよ!お子様にはファッションセンスがわからないんだなぁ!」


その孝明の発言以降、男女(オトコオンナ)とは呼ばれなくなった。

些細な出来事かもしれないけれど、本当に私は救われた気がした。



私はいつもそっけない態度を取ってしまうけれど、こいつの事が気になってしょうがない。


「まさか、一緒の高校とはな!もしかして、そのスラックスで学校選んだとか?」


「悪い?制服で学校を選んじゃいけないなんて決まりはないと思うけど。」


「相変わらず可愛くないこと言うなぁ!そうだ、今日はオリエンテーションだけだから終わったら一緒に帰ろうぜ!」


「私は…」


『ほら、一緒に帰るチャンスだよ。』

言い淀む私に頭の中で後押しする声が響いて…

「わかった。孝明A組でしょ?私B組だから終わったら連絡する。」


「あれ?何で俺がA組って知ってるの」

「うるさいッ!!!また後でねッ!!!!」


私はスタスタと教室へ向かう。


『素直じゃないんだから。』


(お前もうるさい…)



    ※ ※



時は流れてその秋。


「はぁー、秋だねぇ…詩織は彼氏欲しくないの?」


「?!なに?!藪から棒に!!」


「さては…気になる奴がいるなぁ!!前田くんか?!」


「?!アイツはただの腐れ縁で!たまに話すだけで!!」


「素直じゃないなぁ。」

『素直じゃないなぁ。』


「うるさいッ!!」


唐突に恋愛トークを始めたのは、高校で仲良くなったクラスメイトの本田さん。


「だったらお願いなんだけど、前田くんってスポーツも出来るし、頭も良いしイケメンじゃん?うちの部でも紹介してって言ってる娘もいて、今度3対3で遊びに行こうよ!」


「えぇ…」


「ね!お願いッ!」


「しょうがないなぁ。」


「やった!ありがとう!!そしたら今度の日曜日ファンシーランドに行くってのはでどう?!」


「わかった、聞いてみる…」


『相変わらず、押しに弱いなぁ。』


うぅ…




ファンシーランド当日、何を着て行くか悩みに悩んだ。


(今日は勇気を出して…!スカートを履いてみる!)


スパッツを合わせたらきっと問題ないはず。

ドキドキして鏡を何度も確認した。



『孝明に可愛いって言われたら良いね。』


うるさい…


でも、孝明にも初めてスカート姿を見せるのか…


『頑張れ、詩織。』




待ち合わせ時間は午前10時ファンシーランド駅前、私は15分前に着いた。

待ち合わせ場所には本田さん、同じ部活の日下部さん、孝明のクラスメイトの阿久津君と宇梶君、の4人がいた。


9時55分、孝明が最後に現れた。


「あれ、俺が1番最後か?--うお!詩織その服…」


「何よ…」


「--気合い入ってるな!」


「うるさいッ!!」


あぁ、やっぱり着てくるんじゃなかった。

もう帰りたい…


『詩織、落ち着いて。』


本田さんが小声で話しかけてきた。

「いい?なるべく日下部と前田くんを一緒に行動させるんだよ!」


「了解。」


キャラクターがプリントされているチケットを切られる。

ファンシーランド、そこここから楽しそうな声が響く。


早速本田さんが指揮を取った。

「じゃあまず、スプラッシュサンダーに乗ろうと思うんだけど、せっかくだから、男女で隣り合わせね!したら、前田くんは日下部と…」

「詩織乗ろうぜ!」

言い切る前に孝明は私の手を引いて席についた。


「あ!ちょっと!」

「間隔を空けずに進んで前からお座りくださ〜い!」

結局、スタッフに誘導されて順番に席についた。

女子からは渋々といった感じが見えて少しバツが悪い。



スプラッシュサンダーは水飛沫上がる、水上ジェットコースターだ。

カタカタと、急斜面をゆっくり登って行く。

「詩織。俺、実はあんま絶叫得意じゃないんだよね…」


「え、マジ?」


「うん、マジ。」


「………」

「………」



沈黙の間に頂点に着いたジェットコースターは急降下。

すごいスピードで右へ左へ。


「いーーーやーーーー!!!!」

「きゃーーー!!!」





・・・





「ふふふっ。あー、楽しかった!しかも孝明イーヤーだって!!」


「もう、詩織いじめないでくれよー。」


何だろう、孝明といると心から笑える気がする。





・・・





空が茜色になっている。

ファンシーランドは夕暮れの綺麗さも人気の一つだ。

非日常で見る夕焼け空は格別で…。


ふと隣を見る。


気づけば、殆ど孝明と一緒に過ごしてしまった。

本田さんと約束したのに、周りの事が見えなくなっていた。


今日がもう終わってしまう。


(イヤだなぁ…何だろう…胸が苦しい…)


『詩織、わかっているはずだよ。詩織は孝明の事。』



そう。きっと私は孝明の事が…

好きなのだ。


いや、きっとではなく…


「--好きなんだ。」


「ん?」


孝明に聞こえそうになってハッとする。


そこに本田さんが、私に近づき小声で言った。

「日下部がさぁ、あんた達のこと見てもう諦めるって。あーぁ詩織、なんだかんだガッツリ前田くんの事好きなんじゃん。」


「私…」


『自分の気持ちに素直になって。』

頭の中の声に何かが込み上げそうになる。

「私…孝明の事が…好きだった。」


「そう、お似合いだよ。頑張んな、応援してるよ。」


そう言って、本田さんはヒラヒラ手を振っていた。


「なぁ、詩織。」


孝明に声をかけられ、周りを見ると皆の姿が無かった。


「ちょっとこっちに来てもらえるか?」


何かいつもと違う雰囲気に、鼓動が早くなる。


「うん。」


(もしかして、告白…いやそんな事ない!私なんかに孝明が…)


でも、告白だったらどうしよう。


(付き合ったら何するの?キスとか?)


まだ付き合ってもないのに何考えているんだろう。


周りの音がまるで聞こえない…


(何でこんなにドキドキするの?!)


好きな人の相談かもしれない。先走っちゃダメだ。


(どうしよう…)



『落ち着いて、深呼吸して詩織。』



人気の無い、橋の下。

孝明と2人きり…


無言の数秒が、永遠のように感じる…


色々な考えが巡って耐えられない…深呼吸…




すぅー



はぁ




「孝明…どうしたの。」


ついに言ってしまった!


「詩織って好きな人いる?」


「うーん、どうなのかなぁ。」


(なんてこと言ってるの私!)




「詩織。」


「はいッ!」

緊張で声が裏返る。




「詩織!ずっと前から好きだった!付き合ってほしい。」



--嘘っ!?

孝明もそう思ってくれてたなんて、すっごく嬉しい。



私もずっと好きだった。

でも、この関係が崩れるのが嫌だ…


私も好き…




ダメだ…言えない…


『--大丈夫。自分の気持ちを信じて。』


内なる声が、私の背中を押す。



「私も…孝明のことが--」


続く言葉がなかなか出てこない。

チラッと孝明の顔を見ると、真剣な表情で私を見つめている。

きっと孝明だって伝える事をたくさん躊躇った。

私はその誠意に精一杯の気持ちで応えたい。

だから--


「好き。」


やっとその言葉が溢れた。やっと、言えた。



「嘘…マジで?!」


そう言う孝明の目が潤んでる気がする。

あれ、視界が歪む…

目が潤んでいるのは私の方か…



「嘘。マジで。」



目を閉じる…

孝明が、視界から消える…




あぁ、甘酸っぱい…



これが、キスか…

口の中いっぱいに甘酸っぱさが広がる…




あれ?口の中?何か鉄の味が…






『やはり、セロトニン、ドーパミン、エンドルフィン、オキシトシンが分泌された脳は美味い。』



「孝明…?」



震えながら、前を見る。

首から上がなくなった、孝明だったものは力無く倒れる。



『人が幸せの絶頂に達した時が、最高のご馳走だ。ありがとう。』




口を拭うと手は真っ赤に染まっていた。



私は…私が…?何?何これ?


『ありがとう』


どういう事?

孝明…孝明?!


『実に美味しかった。』


少しずつ状況が理解に変わり、頭の中が真っ白になる…


『ここまで待った甲斐があった。』


なんで?なんで??なに?なに??



「イヤーーーーーーーーっ!!」


嘘だ、嘘、うそ、ウソうそ、うそ。嘘だ…

イヤだ、いや、いやいやいや嫌イヤ…



・・・



『さて。わたしは、また新たな宿主を探すとでもするよ。』





『次なるご馳走を求め、





…みんな、シあわせになぁれ…』




end

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] わぁ……。 現実恋愛からまさかの結末! 引き込まれました。
2022/11/26 23:31 退会済み
管理
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ