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△▽の怪異  作者: Mr.Y
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<組織>

 僕は興奮が抑えられなかった。

 いままでみてきたことや聞いたこととは格段に違うレベルの話になっていたからだ。しかも僕自身のルーツともいうべきこの市営住宅三号棟で、散らばっていたパズルのピースが次々とひとつになっていっているという事実に足がフワフワするような感覚になる。

 そしてPDFによる都市計画の地図上からはっきりとみえる北斗七星に震えるほどの興奮を覚えた。それは以前みたことがあったからだ。MUで特集が組まれた『東京魔法陣』だ。東京の鎧神社、水稲荷神社、筑土八幡神社、神田明神、将門塚、兜神社、鳥越神社を結ぶと北斗七星の形になる。偶然ではなく、この形で計画されたのだろう。単純に封印というわけではなく、その大怨霊・平将門の力を東京……いや江戸の繁栄のために使おうとしていたのだ。だから平将門の怨霊的な負の力を封じるべく、鬼を斬ったとされる名刀鬼切丸を奉納してある神社や将門が新皇を名乗ったことを誣告により朝廷に伝えた狐に(あやか)り稲荷神社などを配置している。七つの神所を北斗七星を模して大怨霊・平将門の怨念を祓い、同時に七つの神所をもって平将門を神として奉り、一柱の大神将・平将門とする。これほど正負相まった堅牢な魔法陣は例をみないだろう。

 僕の想像力は頭に詰め込んだ様々な知識から色々な推察を描き始める。

 北斗七星といえば秦の始皇帝が都市計画時に北斗七星を模して王宮を建て、星座を模して都を造ろうとした。その姿は始皇帝死後、戦のため記録にしか残ってないが……僕の頭のなかでありとあらゆるピースが今のヒントから一気に繋がろうとしていた。星座を模して、つまり『天体を模した配置』? そもそも謎の多いナスカの地上絵はなんのためだ? あれもまた天体を模したか、天になにかをアピールしたのか? 天体を模すのは天にその姿を誇示するためか? いや、万年の法則をもって周回する光を地上に再現するためか? もしかしたらピラミッドの配置にもなにか天体と関連性があるかもしれない。

『我々人類が何万年もかけて編み出された秘術はまだ活きている』

 様々な想像の末、子供だった僕に作業服のおじさんが漏らした秘密を思い出していた。その秘術(オカルト)のひとつが現在進行形でこの△市で形成されつつある。

「ホント、凄い。特集組んでもらえそうなレベルだ。凹凸建設について調べないと……」

 凹凸建設はなにかしらの意図をもって建物を建て直している。それは一業者がする範囲のことではない。誰の指示なのだろうか。市長か? ありえる話だ。いや、お金を出している国かもしれない。ああ、その前に凹凸建設が改修する建物にこの東屋にある格子の星印がなければ辻褄が合わない。記事にするにはまずは確認を……。

「はははっ、そうやってパズルみたいに色々組み合わせて記事書くなんて大変だな」

 笑いながらも僕の興奮にあてられたのか、日高くんも興奮気味の口調になっていた。

 日高くんのいうとおり、まさにパズルのピースだ。どれがどれに組合うのかわからないが、ぴたりと組み上がるときがある。そして今とは違った風景が僕の目の前に広がるのだ。

「ああ、興奮ついでにもうひとつ、<組織>について俺が知っ限り話そう」

 そしてまたパズルのピースが増える。

「もう、最高。しばらく取材しなくても書きまくれそう」

「まぁ、あくまで噂というか推測だ」

 日高くんは役所でもそうだったが今も辺りを気にしている。

 それだけヤバい話なのだろうか。

 辺りは暗くなりいつの間にか街灯が白く辺りを照らしていた。気温も下がり、日高くんは上着のジップを上まで上げ、ポケットに手を突っ込みながら話し始めた。

「遠山さんに一度訊いたことがある。あの人は生活感がないというかカネに困った様子がなかったからだ。いいバイクを惜しげもなくカスタムしていたしな。しかも半グレみたくヤーさんのパシリをしていたわけでもない。そしたら『派遣の仕事だよ。とある組織の片手間仕事』てさ。俺も紹介して下さいよって頼んだんだ。そしたら『来る時が来たらあっちから来るよ』って、俺ははぐらかされたかと思ったんだ。カネのいい仕事ならする奴はたくさんいる。もう椅子は埋まってるんだなって」

「俺さ。バイク愛好会のなかでサブリーダーやってたことあるんだわ。そんときにさ。抗争があってさ他の町のリーダー、へこましたんだ。それから人気出て、遠山さんと溝ができちゃってさ。それくらいのときだ……」

 日高くんは昔を懐かしむように話した。顔面腫らしたり、怪我したりしても道場に来たこともある。よほど喧嘩好きなのだろう。僕は痛いのは嫌だし、相手を痛めつけるのも気が引ける。日高くんとは住む世界が違うのかと。熱くていい人だけになんだか残念な気持ちだった。

「名前は忘れたが……たしかみんなイタチっていってたな。ペラペラとにかくよく喋るヤツで、あることないこと話して、プライドだけは高くて、あっちでいってることと、こっちでいってることがまるで違う。他人を(けな)して、自分を挙げる……いるだろ? そういうヤツ。あいつがグループ内で人気が出てきた俺に近づいてきた。『いい話があるんです。<組織>て知ってますか?』ってな。グループ内で俺が一目置かれ始めて気に入られたくて自分しか知らない話をしたくなったんだろう。でもそいつは<組織>のことを俺にいった日に死んだ。夜の海にドボンだ。見晴らしのよすぎる埠頭で、だ。ブレーキ痕すらなかったらしい。警察がいうには対岸の街の灯りが海に写り道路にみえることがある。おそらくそれだろう、ということで事故死になった」

「イタチはいってた『<組織>という組織があるんです。名前のない組織なのか、<組織>という名前なのかわかりませんがね。入ればスマホのメールかメッセージアプリで指示がきます。それをすればいいカネが入るんです』と、なんでも小さな指示らしい。目的地にいってテーブルの上にある紙袋を駅のロッカーにいれろ、というような。そうすることによって口座にカネが振り込まれる。俺は訊いた。じゃあ紙袋の中身は何なんだ? と。『それは訊いちゃいけません。ただ<組織>の歯車のように指示を守るのがコツです』なんてな。もしかしたら紙袋の中身は麻薬かもしれないし、拳銃かもしれない。殺人犯の証拠を隠滅するなにかなのかもしれない。なにも知らないのに動けるかって。『多くの人を少しづつ利用して、なにか大きなことをしているのが<組織>なんです。郵送されてきた鍵をアパートの郵便受けに入れる。道路の真ん中で転ぶ。坂道で上がるのが辛そうなおばあちゃんを助ける。それら小さなことをやらされる。そうすることによって、偶然が連鎖反応のようになってなにかが起こる。誰も罪を被らず殺人だってできてしまう。だって事件を追っても誰も殺意をもって動いてはない。偶然が重なった事故になる。これを利用すればなんだってできる。戦争の引金、パンデミックの始まり、恐慌の起因だって』……そんなのごめんだよと俺はいってイタチと別れた。全然、信じていなかったからな。イタチのいうことだし」

「それが夜の海に向かって真っ逆さまだ。もしかしたら<組織>のことを俺に話したイタチは粛清されたんじゃないかって思う。影で色々手を引き、対岸の街の灯りが海に映るところにイタチを誘導する。イタチの判断能力を低下させるために少量の酒でも飲ませる。イタチの好きなブランドのフルフェイスヘルメットを渡しておいて遮光を強くしておく。整備と称してスピードを上げるようにカスタムしておく、ついでにブレーキを緩くしておく。……イタチの話によればそうすることで『誰も罪を被らず殺人だってできてしまう』仕上げは……もし警察官が<組織>の一員なら? 以前から対岸の街の灯りで事故が起こる場所で初の死亡事故が起こった。上へは対策を、という話で終わりだ。殺人事件に発展しない。もしかしたら、そんな見通しの悪い場所にわざとなんの対策しなかった。いつか<組織>が都合の悪い人間を始末するためにそのままにしていたのかも。あるじゃんそういう場所。死人が出てから対策されるようなとこがたくさんさ。そして遠山さんは<組織>の一員だ。最後に別れたときイタチは誰と一緒にバイクを走らせてた? 遠山さんだ。イタチの戯言を俺と一緒に聞いていたのも遠山さんだ」

 そのまま日高くんは黙ってしまった。

 いいたくないことを無理やりにでもいわなければならないと決意している感じがした。けれどそうすることによってしか一歩踏み出せないような……そんな雰囲気を滲ませつつ、また話し始めた。

「だから遠山さんは俺に因縁をつけ、俺をボコってグループから外した。最初は面子とかプライドだと思っていた。けれどもし<組織>の忠実な一員だったら見方が変わってくる。<組織>を知り始めた俺に完全に<組織>を忘れさせるためか、<組織>のことを自分の目の前で話させないため……いや、よくわからないや。ああ、もしかしたら遠山さんが亡くなったのも<組織>が関わっているかもな。なんだか自分でいってて嫌になるぜ。こうやって色々考えても憶測の域をでないからな」

「でもそれが<組織>のやり方」

「そして、<組織>の構成員は誰がなっていてもおかしくない。滅多やたらに話したら消されかねない。だからこの話は終わり。<組織>に関してはもう話さないし、話したくない。最初のふたつは楽しかったろうけど、最後のは楽しくなかっただろ? 記事にもできなそうだし」

「うん、まぁ」

「相変わらず、正直モンだな! 今日はこれから一杯飲もうや!」

「いいね! 再会を祝して!」

「ジャーナリストならいい場所知ってんだろ?」

「任せて!」

 僕はなんだか運がいい。

 かつての友人と再会し、知りたかった三号棟の謎へも近づけた。しかもあのおじさんがいっていた<組織>のこともわかりつつある。まだ結びつかないがおじさんは<組織>からの依頼といっていた。もしかしたら<組織>とは霊能集団からなる秘密結社かなにかではないだろうかと思っていたが、日高くんの話だと犯罪者集団にも思える。

 点と点が繋がり線となる。今は点をみれば無理やり線で引きたい。早計だろうか。だが可能性はある。あのおじさんはあのとき僕に本当のことをいってしまったのだから。もしかしたらこの△市にできる巨大な魔法陣は<組織>が描こうとしているのではないか。

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