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△▽の怪異  作者: Mr.Y
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南魚と日高

 南魚は長々とおしゃべりした挙句に胡散臭い話を話し始めた。市営住宅団地の三号棟を壊した理由とその跡地に公園を造った業者を教えて欲しい、ということだ。しかも理由を訊くと「古くから伝わる陰陽道の封印があるから」らしい。正直、頭が痛い。しかもオカルト雑誌『MU』の記事にしてもいいか、とまでいってきた。ああいう雑誌が本当に取材しているとは思ってなかった。小説みたいに記者の思い描いたデタラメを面白おかしく書いているだけだろう?

「いやいや、面白おかしく書くのはそうだけど、デタラメではないよ。やっぱこの世の真実の一端ていうかさぁ。そりゃ企業秘密だけど話を大きくしてデタラメっぽい記事も書くことあるよ。いや、ぽいだけで、デタラメじゃないんだけどさ。今後の繋ぎっていうか」

「繋ぎ?」

「そ、いつかこの世の真実が暴かれるの。心霊現象もUFOも解明され、世の中がひっくり返るような話題が世界を駆け巡り、一般常識が覆るからさ、一般的なジャーナリズムじゃ対応できないでしょ? 僕らみたいな特殊なジャーナリズムが日々、動いて力をつけてないと。そのために売れ筋を記事にするというか……」

「そりゃ、大変だな」

 俺の嫌味に南魚は、はははと笑いながら頬を人差し指で掻きながら照れているようだった。南魚はこういうところがある。お人好しというか、ポジティブすぎるというか、どういう育ちなのかと家庭環境も気になるところだが、単純に人柄なのかもしれない。よく人にいいように利用されずに生きてこれていると関心する。まだなにか熱く話しているが、ようは三号棟の撤去理由と公園の業者が知りたいのだ。「それにしても日高くんが役人なんてね。ほら、昔、半グレな団体にいたじゃん。あの遠山さんだっけ? 大きくて腕なんて僕の太ももぐらいあった強そうな人のとこで……」

「おいおい、今は役人だぜ、ここでいうなよ。ていうか、半グレなんかじゃなくて、バイクが大好きで集まってる深夜のバイク愛好会だよ。遠山さんは……亡くなったけど」

「あっ……ごめん。遠山さん、尊敬してたよね、日高くん」

「ああ」

 本当はバイクで轢かれた。おそらく喧嘩の末の出来事だろう。あの人は素人相手なら喧嘩では負けたことがない。だから……けれど南魚には事故といった。こいつには関係ない世界だ。

「残念だね」

 確かに残念だ。けれどあの人が社会に出て仕事をして家庭をもっているところが想像できない。あの人はあの人のまま、十代後半のままの姿で俺の記憶にある。それでいいと思うしかない。ただあの人がもし生きていて、今の俺をみたら結構イジられるだろうな。

「まぁ、過去のことさ。じゃあ調べておくから連絡先をここに書いて」

 南魚は電話番号を書きながらさっきとは違い、小声で話し始めた。下を向いてゆっくり丁寧に電話番号と名前を書きながら。

「あとさ。<組織>って知ってる? ほら昔深夜のバイク愛好会にいたならそういうアングラなことも知ってるかなぁと」

 俺は南魚の口から聞いたことのある懐かしい言葉が出てきたことに驚いた。そして小声が次第にボソボソと独り言のように話し出す。

「僕は今まで勘違いして探していたんだ。フリーメイソン、イルミナティ、薔薇十字、義和団……色々な集団のどれかかと思っていた。けれどあのおじさんがいっていた<組織>というのはそもそも名前がないんじゃないかって」

 おじさんとは誰かわからないが、これは人が多くいるところで話す話しではない。

「ああ、では三号棟の撤去の件と公園を造った会社の方は後日、ご連絡します」

 俺は南魚に目配せした。

「はい。では連絡、お待ちしております」

 南魚もショルダーバッグを担ぎながら目で了承した。

 俺は南魚が去って行く背中を見送ると役所の仕事に戻る。周囲を見渡せば皆、忙しげにデスクで仕事をしたり、資料を探したりしていた。財政的に厳しかったうちの△市だが市長が代わり、これがなかなかの敏腕で国や県から予算を引っ張ってこれるようになった。これを機に老朽化の激しい市営の建物を徐々に立て替えていこうということで土木建築課は忙しいのだ。

 そんな忙殺されているなか、誰も聞き耳を立てたりはしないだろう。だが、まさか南魚が<組織>について話すとは思ってもみなかった。ただ俺自身もグループにいたときに小耳に挟んだ程度なのだが……南魚の方がこの手の都市伝説には詳しいだろうが、なにも知らないようだった。まさか噂が本当ではないとは思うが、一応、警戒しておいた方がいいだろう。もしかしたらと思う。遠山さんは<組織>に属していたのではないだろうか。中卒で整備士としての仕事しかしてない人のわりに生活は派手でバイクもハーレーをカスタムしたものだった。それは盗品でも仕事で稼いで買ったわけでもないらしかたった。そのカネはどこから出てきたのか。そして半グレみたいにヤクザのシノギのパシリをやっていたわけでもない。そもそも半グレたちを下にみていた(フシ)もある。グループにいたとき、そのことを訊いたことがある。あのとき遠山さんは俺に「派遣の仕事だよ。とある組織の片手間仕事」といっていた。思ってみれば遠山さんに因縁をつけられる前あたり……いや、考えすぎか。

 今の仕事がちょうど、市営住宅団地付近の道路整備に関する仕事だ。市営住宅団地を調べるのにそんなに時間はかからないだろう。仕事が終わったら南魚に連絡をしようとパソコンを開いて業者に渡す周辺地図に地域住民から訊いた要望を書き添え、打ち合わせの資料と予算の見積もり見ながらそれをまとめた資料を作り始めた。


 俺は事務仕事が終わると課長に資料を提出し、簡単な打ち合わせをした。後日、業者と会い、詳しいことを話す予定を組んだ旨を課長に伝えてから終業した。それから南魚と連絡をとり、撤去された三号棟跡地の東屋で落ち合うことになった。

 まだ春先だからか当たりは暗くなってきていた。そもそも二号棟、四号棟に挟まれているので、影になりやすく暗くなるのも早いのかもしれない。

「よっ!」南魚は一足早く来ており、東屋から手を振っている。俺は辺りを見回したが、暗くなり始めたせいか公園にも人気はない。団地の窓には灯りがつき始めていた。

 南魚は東屋で熱っぽく足元の「陰陽道の印」について語り始めたが、俺には星のデザインにしかみえない。それより子供の頃にみた市営住宅の風景と今の風景の違いに感慨に耽ける方がいささか楽しかった。

「まず、なにから話そう」

 南魚のオカルト話に割り込んでいった。

「そうだね。じゃあ、まず順番通りに三号棟撤去について」と南魚はいいながらメモ帳を出してボールペンを構えた。

「三号棟は違法建築がみつかった。耐震度設計が甘く、使われるべき鉄筋が使われてなかったらしい。詳しくは書かれていなかったな」

「じゃあなぜ他の四棟は大丈夫だったの?」

「外からの補強工事が間に合う場所だったらしい。でもなぜか撤去されたのは三号棟だけ、補強工事も間に合わない階段付近の手抜きがみつかったからだ。本来、詳しく記載するはずの案件なんだが、その手抜き工事の一点張りで通っている」

「凄い! なんかビンゴだよ。久しぶりに。まぁ、市町村は伏字にしとくよ。写真は撮れたし、まぁ僕の記事はコラム的な小さな記事だしね」

「俺自身、正直、驚いている。あとこの公園を造ったのは凹凸建設だ。ここの県じゃなくてわざわざ東京から呼ばれてきた業者」

「こんな地方にわざわざ東京から業者呼ぶって……それって、ガチなジャーナリストが飛びつきそうだね」

 南魚は興奮気味に笑いながらいった。

「そして」俺はスマホを取り出し、市全体の都市計画PDFを開いた。

「図書館、体育館、すべて凹凸建設が受け持っている。市長の肝いり業者っぽいな。市長と組んでいるかも……まぁ一介の役人としては安く上がればそれでいいんだけどな。なんか市の仕事ならせめて県内の業者に仕事回して欲しいわ」

 俺のスマホをみていた南魚が「ちょっと貸して」とスマホを手に取り「あと凹凸建設の仕事ってもしかして」と税務署、駅、公園、保育園を指さし「ここじゃない?」といった。

「ああ……市長も偏り過ぎなんだよ。一業者にこれだけ仕事任せるなんて……ていうか、なんでわかったんだよ」

「北斗七星」

「はぁ?」

「この△市全体になにかしらのものを建て、そのついでにドウマンセイマンなんかの魔除の印を置く、それを上からみれば北斗七星に見立て……なにかしらの封印? まるで大怨霊・平将門レベルのなにかから守ろうと。いや、始皇帝の都市計画のように星座を地上に模して繁栄を願う……けれどドウマンセイマンは封印を意味する籠目」

 南魚の言葉にバカバカしいとスマホを受け取ると凹凸建設に依頼した仕事はここを含めると七つ、市の地図でみると確かに北斗七星の形に点在していた。

「マジかよ」

「ホント、凄い。特集組んでもらえそうなレベルだ。凹凸建設について調べないと……」

「はははっ、そうやってパズルみたいに色々組み合わせて記事書くなんて大変だな」と少し嘲ったようにいってはみたものの、俺自身、嫌な鳥肌がたっていた。その鳥肌を振り払うように俺はいった。

「ああ、興奮ついでにもうひとつ、<組織>について俺が知ってる限り話そう」

 周囲を見渡すと日は落ち、夜へ向かって暗くなってきている。人気はなく団地の窓と公園の街灯が白く光っているばかりだった。

「もう、最高。しばらく取材しなくても書きまくれそう」

 南魚の顔は街灯の白い光に照らされていたが、興奮からか顔が赤く上気しているのがわかった。

挿絵(By みてみん)

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