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△▽の怪異  作者: Mr.Y
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南魚と穴

 △駅に自転車で行き、午前八時には着いてた。

 だが駐車場を確認するとすでに凹凸建設のトラックが二台、止まっており、駅構内の新幹線の乗り入口の紅い鳥居のモニュメントの脇の区画にある白い防音壁からはすでに作業する音が聴こえていた。

 僕は凹凸建設の作業服を隠すようにウィンドブレーカーを羽織り、手にはヘルメットを持っている。通勤時間なら人混みに紛れることができたが、田舎の無駄に広い駅ではいささか目立ってしまう。あくまで目的地へ行くような足取りで駅をぐるりと歩いたが、あっという間に回ってしまった。そして凹凸建設の資材搬入はまだ来てはいない。仕方ないから防音壁の近くの待合席で待つことにした。通勤時間を過ぎると人が疎らにいるだけの閑散とした駅だ。しかも皆、忙しいのか足早に駅から出るか電車に乗るかでゆっくり立ち止まっている人すらいない。駅の中央にある派手な紅色の鳥居のモニュメントを眺めるのは僕ばかりだ。このモニュメントにいくらの税金が投入されているのかわからないが、僕以外誰も足を止めて見る人もいない。税金の無駄遣いにしかみえなかった。

 このまま資材搬入がくるのをただここに座って待っても怪しまれずにすむかもしれない。僕はスマホを取り出し、コラム記事の最終チェックを行いながら時間を潰した。そしてたっぷりと時間を使い、編集部へ記事を送信して、入稿確認がとれても作業音は続いていた。それでも資材搬入の車はおろか作業員すらあらわれない。ただ閑散とした駅に作業音だけが響いていた。

 その作業音に違和感を覚えた。最初に聞いた音とまた同じ音が聞こえている気がするのだ。

 気の所為といえば気の所為なのかもしれない。作業なのだから同じ動作を繰り返すことも頻繁にあるのかもしれない。だから完全に同じ音に聞こえることもあるだろう。だが、もしかしたらと、思わざるを得ない。

 この白い防音壁の向こうは無人なのではないだろうか。

 ただ、ラジカセかなにかが置かれており、繰り返し作業音を流しているだけなのではないか。そんな不思議な想像力が働いた。そして、その想像力がまんざら空想でない証に、もう駅の時計で十時を回るが白い防音壁からはトイレへ行く人はおろか話し声すら聴こえてこない。

 僕は決心した。

 頭のなかで、もし作業員がいたらどういう言い訳をしようかと悩みながら、そしてもう一方で僕の想像が本当なら凹凸建設はなにを考えて無人の工事を行っているのだろうかと想像を巡らせる。

 どちらかといえば後者の比重が高く、その想像からくる好奇心に僕は耐えられなくなり、手に持っていたヘルメットを頭に被ると、白い防音壁についた銀色のドアノブに手をかけた。ドアには鍵もかかっておらず簡単にガチャリと周り、ドアが開いた。

 僕の想像通りだった。

 そこにはいるはずの作業員の姿はなく無人で、工具や機械の類すらない。ただ白い床には黒々と大きな穴が空いていた。その穴は崩れないように鉄筋で補強すらされている。そして、僕と穴の真ん中にパイプ椅子があり、その椅子の上に古びたラジカセが作業音を大音量で鳴り響かせていた。

 もしかしたら、と思う。

 僕は<組織>に嵌められたのではないだろうか。

 様々な罠を張り巡らせて自然にここに導くように誘導させられていたのではないか。

 いままで怪異の話を探して歩き回っていた。それがここ最近は△市内を出ずに蒐集できるようになってきていた。いつからだ? UFOに連れさらわれ戻ってきた黒咲夜子さんからか、それとも集合住宅について調べようと市役所にいったときに偶然、再会した日高健くんからか、それともそれより少し前か……考えたくもないが、もしかしたらふたりとも<組織>の構成員だということも有り得るのではないだろうか。すべては偶然を装い反社会的な行動をする<組織>ならばその可能性だってあるはずだ。そして、巡り巡って、ここで僕をこれからこの穴のなかへと誘い入る。それで<組織>の目的は(どういう目的かは知らないが)完成するのではないか。

 僕がここで引き返せば、おそらくはなにも起こることなく全ては普段の日常が戻ってくるのだろう。そして僕の代わりに誰かがこの穴に入ることになるのではないか。そういう選択肢もある。だが怪異や<組織>について金輪際なにもわからないままになるのではないか。

 穴には頑丈そうな梯子が掛かっていた。まるで早く入ることを催促するように。いったいこの穴になにがあるというのか。

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