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△▽の怪異  作者: Mr.Y
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拝屋雫によると

 なかなか心霊現象とか怪異ていうものは信じて貰えないわけ。だけど私はみたんだよね。黒咲夜子を名乗る女性にさ。でもいつどこでっていわれるとハッキリしないんだよ。夢っていったけど、もしかしたら現実にあったかもしれない。いるわけないんだけどさ。ちゃんと目を合わせて話して、お願いするねって手を掴まれながらいわれたんだ。その手の柔らかくてしっとりとした感触まで覚えているんだよ。はっきりと。

 だから、いつかっていわれると覚えてないからさ。やっぱ夢のなかだったのかも。それはいつか? うーん、たぶん、夜子が復学するまえなのは確か。電車で向かいに座っている夜子をみてこの子だ! 黒咲夜子にそっくりだし、『UFOに拐われた記憶喪失の女の子』というのもその通りだったし。

 でもなにから守るのか、わかんないんだよね。宇宙人からまた守れっていうなら私より自衛隊とか警察にお願いした方がいいよね。そこで私は考えたんよ。ほら、私、霊能者だし。なにか霊的なものから夜子を守って欲しいんだろうな、てなるじゃん。

 けどいきなり夢で黒咲夜子に会ったからなんていっても信じてもらえないし、これ以上、引かれるのも嫌だしね。夢や怪異、心霊現象を信じてもらうには十分な証拠があればいいな、と思ってさ。

 どうしようか悩んでいたとき学校から帰ってくると、家の雰囲気がもうヤバいんだよ。楳図かずおか、伊藤潤二か、てくらいヤバいの。お母さんも「お父さんが行方不明なのに、凄いものを預かってしまったかもしれない」って心配してるくらいのものって。ピーンときたね。霊感ゼロのお母さんすらわかるくらいのヤバい呪物があるならこれを夜子にみせれば、この世には目にはみえない怪異が存在するて気づいてもらえるじゃん。んで、幸い鍵はウチ預かりだったからちょっと拝借して……いや、絶対返すはずだったんです! まさかあれほどの呪物、目の前にしてなんの躊躇いもなく開ける人っているの? てくらい躊躇いなかったから、夜子さぁ。霊感ゼロ通り越して、感覚ないんじゃない? いや、霊感は感覚というか、魂で感じるものなんだよ。人と話してなんとなく相手の気持ちを察しることがあるよね。それと同じで怪異と会ったときもそれがこの世のものじゃないってわかるていうか。なんというか……感覚は感覚かなぁ。ない人にわかってもらうのって難しいわ。

 そうそう、南魚さん、瓶に封印されていたものなんですけど、私が私じゃなくなるっていうか、ますます私が私になるという感覚というか……言葉では説明できません。ただこの世のものじゃないヤバいものです。

 そこを説明してくれって? うーん。

 ぼんやり夢を見つつある状態になって、でもいまは現実と区別された夢という認識がある状態の中にいる、という感覚になるんです。霊感強いからそうなのかも知れません。その次にいつの間にか私は夢と現実との区別のない一元的世界に足を踏み入れてしまっている。それを抵抗しなくちゃヤバいものに掴まれたままになるから、なんとか覚醒しようとするんです。すると覚醒している現実世界との対比で夢としてヤバいものに掴まれたままの私を私がみているんです。

 お父さんにいわれたんですが、「人間は正確な認識を出来る能力を持っていない。なぜなら根拠がないことを証明も実証もできないからだ」と根拠がないことは仮定や仮説に過ぎないでしょ。仮定や仮説は真実じゃないから、どうやったら『正確な認識』ができるのかといえば、これはもう自分自身の『想像』でしかないんですよね。魂とか精神て言葉で置き換える人もいるけど、私は『想像』の方がしっくりくるかな?

 そのふわふわとしたとらえどころのない想像の真実が私の自我なんですよ。その自我を頼りに自己認識や自己意識が形成されている。だから掴まれ、どこかに連れさらわれようとも自身の『想像』を頼りにしなくちゃならない。実体としてまだ身体があるからなんとかなっていたんです。ええ、御祓や、(まじな)いもありますから。より強い自我ができますが、あのときはヤバいものに掴まれ続けている夢の私まではそうはいきませんでした。

 ここからは抵抗しつつも夢の私がヤバいものに掴まれ続けたのが悪かったのか、結局、自我も身体も掴まれたようです。ヤバいものがなにをしたかったのかはわかりません。ただ夢のなかで夜子に引きづられるように歩いていました。そして気づいたら駅前のマックでホットミルクティーを飲んでましたよ。

 この説明すら無理矢理言葉であらわそうとしたものですから、現実におこったこととは違います。ああいう怪異は言葉では説明できません。過程はおぼろげで、ただ『そうなってしまった』という結果しか残らない場合がほとんどです。それこそ狐に化かされたようにね。

 夜子がいうには私は屋上から投身自殺しようとしたらしいです。そして、それを止めた、と。

 南魚さん、あなた、霊感あるでしょ? だったらわかりますよね。どんな怪異を体験しても言葉で説明しようとすればするほど本当にあったこととは食い違う。ただ『そうなってしまった』結果からなにがおこってしまったか、理性が強引に導いているだけに過ぎないんです。

 現に夜子だって私がどういうわけか投身自殺をしようとした危ないヤツだと思ってるようですし、本当におこった怪異は……陳腐な言い回しですが、人智を超えるんです。言葉通りにね。

 それが悪い場合もあるし、良い場合もある。そして、人生の転換にもなる場合もある。

 ヤバいものとの遭遇もあれば、夢で頼まれごとをされるときもある。私は黒咲夜子に黒咲夜子を守って欲しい、と頼まれ、それを了承した、という結果はあるんです。紙にも書かれてませんし、印鑑もサインもしていない。ただ見て話した。夢かもしれないけど、現実に夜子がいた。

 なんというか、怪異を介して結ばれた約束だから守りたいんです。それでわかってもらうために少し強引なことをしてしまいました。瓶についてはすみません! もうあのヤバいものはどこかにいってしまいましたし、消えてしまった可能性すらあります。もう手に入れることはできないかもしれない。

 え? いいんですか? 助かった……お父さん行方不明だし、今度、問題起こったらお母さん、倒れちゃうよ。

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