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△▽の怪異  作者: Mr.Y
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ボイスレコーダー

「ボイスレコーダーどこに置こうかな? ここでいいかな?」

 カザガサという物音、なにか紙をめくる音、机の上になにか置く音、ドアをノックする音に引き続き「いいですよ」という声。ガチャとドアノブが開けられる音。立ち上がる音がすると誰かと挨拶をする声が遠くで聞こえている。おそらくボイスレコーダーは隠されて置いてあるのかもしれない。部屋の音が拾いにくい。ただ机の上の音はクリアに聞こえる。ボイスレコーダーを隠し置いた男はふたりの男と挨拶を交わし椅子に座るように勧めている。そして座った男たちは「本日は貴重な時間を頂きありがとうございます。それでは取材を始めようと思います。ああ、失礼。あとで文章に起こすときのためにボイスレコーダーで言葉を拾わせていただきます。では先生」とやや緊張しているのか感情を押し殺した声でいった。

 先生とよばれた男は咳をひとつすると少し興奮したように話し始めた。

「私はね。『UFO』これは地球外知的生命の乗物だといわれてきた定説をそろそろ覆さないといけない時期に来たと思うわけですよ。一回、宇宙人の乗物たという定説を覆してまっさらな状態から研究しなければUFO研究はこの先進まない一方なんです。なぜかと申しますとね。話がそれるかもしれませんが……だってね。UFOは乗物として使われていた話はありますよ。中から地球外知的生命が出てきたというね。とある米軍基地に墜落したUFOと宇宙人を収容してあると。しかもセンセーショナルなことにその宇宙人の人体解剖までおこなったと。その衝撃のせいでUFO=宇宙人が定義づけられたような気もします」

「ですが、本当に乗物なのでしょうか? もう一度再考する機会がきたのではないか、と。世紀末、彼らは地球を訪れ人類に警告しているというニュースが全世界を駆け巡りました。いくつかはフェイクニュースだったでしょう。この手の話はいつだってフェイクがつきものです。なぜなら本当のことを知られてはならないからです。多くの人類には知らせず、一部の指導者のみが知っていた方が都合のいい場合だってある。多くの人の意見がバラバラだとまとまりに欠け、強権的な指導は反発をうむ。知らず知らずに対応した方がいい場合だってある」

「うん? 話がズレてきたって? まぁ、そこは文章に起こしたときに修正してよ」

「えっと。幸か不幸か、世紀末はなんとか乗り切った。もしかしたら我々の知らないところで指導者と宇宙人が手を組んで乗り切ったのかもしれません。核戦争もパンデミックも地球を揺るがすような天変地異もアンゴルモアの大王も現れなかった。ええっと……そうそう、UFOは宇宙人の乗物ではない、という仮説の話ですね」

「旅客機や戦闘機が度々会うというUFO。なにをするわけでもなく。光り輝き飛行する。けれど、もし知的生命体が乗っていたらなにかしらの知的な行為をすると思うのです。話したり、観察したり、もしかしたら攻撃することだってあるかもしれない……ですが、やることは並行して飛ぶか、目の前を飛行するか、そこに知的な動きはみれないものが数多くあります。いや、宇宙人の乗物としては考えられないくらいです。そして、こちらの事例の方がはるかに多い」

「UFOは光る飛行物体。大きさも形すら変わる正体不明の光る物です。なんのために飛んでいるのかすら我々の知性では掴めないような。かつて妖怪研究家にして漫画家の水木しげる先生はUFOを新種の妖怪として分類しました」

「いや、この話をするとみなさん笑ったり、そんなことはないだろう、という顔されますが、貴方がたはもしかして私と同意見ですかな? うん? 大変興味がある、と。それは心強いです。UFO研究家のなかには宇宙人の乗物という定説をなかなか覆せない人もいますから。我々は科学的視野によってUFOの全貌を捉えなくてはいけない。だから、水木しげる先生のように畑違いからまるっきり違う説が出たとしてもそれを受け入れ、再考するという作業を忘れてはならないと思います。それが多角的視野となり正体不明のものを理論的に炙り出すことができる。そして、水木しげる先生は真理をついている気がします。妖怪的な存在ならば、ただ空にいる光る存在というのも頷けます。だからあちらからコミュニケーションをしてこない。こちらの意思とも無関係に非科学的にただ飛行する。そして一部のUFOは本当に宇宙人の乗物として地球に来訪し人類の指導者たちとコンタクトをとっている。つまりUFOには二種類存在する、となるとおおよその説明はつくような気がします。」

「では宇宙人の乗物でないUFOとはなんなのか? 現時点ではまるっきりわかりません。アメリカの戦闘機がUFOを攻撃した映像を入手し、観ましたが、そこにはミサイル撃ったはずなのに飛び続けるUFOがありました。宇宙人の乗っているUFOは墜落したのです。回収もできた。ですが、光るだけのUFOは撃っても当たらないのです。いやもしかしたら当たったが、効かないのかもしれません。それはわかる日がいつか来るでしょう。まだまだ数々の謎は残ります。最初にUFOが発見され話題となったのが十九世紀初頭、飛行機、飛行船の登場以降。つまり人が空を飛んでからであり、それ以前はUFOは存在し得なかったのか? それとも人の知らないところで飛行していたのか?」

「そして、私は光るだけのUFOの正体の手がかりになるかもしれない映像を入手しました。あの△市UFO事件の映像です」

 ガサゴソと物音。ふたりの男がなにかコソコソと話す声。

「この映像をご覧下さい」

 三人とも映像をみているのだろう。部屋は静かになる。そして映像の音声だろうか。声が聞こえる『なんだ、あの光は?』『こっちにくる!』『に、逃げろ!』なにかが落ちる音。複数の悲鳴。『いない! 夜子(ヤコ)がいない!』『まずは警察、いや……』そこで音声は終わる。

「流星群を観察していた親子が空から来たなんらかの光に包み込まれ、このとき、黒咲(クロサキ)家の娘のひとりが行方不明になりました。私はもしかしたらUFOはなにかしらの……え? 映像ですか? 知り合いから譲り渡されて、ええ、このノートパソコンにあるだけで他に記録は……ちょっと! なにを!」

 ガタガタと机の上でなにかがぶつかる音。先生とよばれた男の呻き声。荒々し足音。ドアを閉める音。

 しばらくして荒い息遣いの先生とよばれた男の声。

「い、今、△市UFO事件の映像を奪われた。おそらく相手はFBIかCIAかメン・イン・ブラック? ともかくUFOの存在を隠して起きたい連中だ。雑誌MUの取材と称しやってきた。ひとりは赤のチェックのシャツにベージュのスラックス、黒のウィンドブレイカー、もうひとりは灰色のパーカーにジョガーパンツ……中肉中背で顔は……顔は……」

 忘れないためだろうか、ふたりの男の特徴を詳細に話そうとする。

「……顔は若くもなく、老けてもなく……目は……ええっと、鼻は、いや、これといった特徴が……」

 悔しそうにいうとボイスレコーダーのスイッチが切られる。

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