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△▽の怪異  作者: Mr.Y
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ラジオ

 怖い話か……あることはあるけど、そんな怖い話ではないかもね。どちらかといえば不思議な話かなぁ。もうずいぶん昔のことで、もしかしたら夢かもしれないし、なにか勘違いしてそんな体験をしたような気分になっただけかもしれないし。まぁ、とりあえず話してみるよ。


 受験勉強しているときにさ。どうにも勉強が捗らないワケ。みんなもそうだっただろう? やっぱさぁ、やる前って憂鬱で「なんで俺、こんなことやらなきゃいけないワケ?」てなるじゃん? まぁ、そうなってスマホとか弄り始めちゃうとそれだけで夜が明けるからさ、スマホを居間で充電させて部屋に篭ったワケだけど。やっぱ、やる前ていうのはダメだね。普段しない掃除やら本棚の本の整理やらしてしまうんだよ。でね、それすら終わると今度は深夜の静けさが気にいらない。普段は気にならない虫の鳴く音が耳に入ったり、たまに遠くで走る車やバイクの音が気になる。そこでさ。ラジオをつけたんだ。今どきラジオなんてって思うだろう? あるんだよ、俺の部屋にはさ。だって俺の部屋、いつも使っていたワケじゃないから(ああ、勉強なんてテストのとき以外やりたくないからね)親が部屋の片隅を物置代わりにしてたんだよ。使わなくなったテーブルとかアウトドア用の折り畳み椅子とかね。そこにラジオがあったんだ。

 雑音にならない程度に人の話や音楽を聴きながら勉強をやれば捗るかなぁってね。けど電源を入れたはいいけどチューニングていうの? あれがなかなか合わない。普段使うものじゃないから慣れてないし、型式古くて自動でチャンネルを合わせてくれる機能なんてついてないから、ゆっくり耳をそばだてながらダイヤル回さなきゃだったしね。だからノイズ……砂嵐っていうの? あれのなかから音楽か人の声を探しながらダイヤルを回していたんだ。

 ラジオって面白いもんだよね。日本にいるのに外国の電波まで拾うんだよ。たぶん韓国語かな? あとロシア語っぽいものもあったんだ。まぁ、勉強に邪魔にならない程度の雑音が欲しかったワケだから、なんでもよかったんだよ。だからリンリンリン……と歌の前奏みたいな、えっとインストゥルメンタルていうの? あれが聴こえてきたから、これでいいやって、参考書を開き、シャーペン持って聴きながら勉強を始めたんだ。

 勉強を始めると始めたで集中できるもんじゃん? (えっ、俺だけ?)そうすると勉強に集中しているうちにラジオの方も気にならなくなってきたんだよ。

 夜も深けて、家の中で聴こえるのは俺がページをめくる音とシャーペンを紙に走らせる音、隣近所の生活音も聴こえない。道路もなにも通っていないからか、静まり返っている。ただ虫の音だけが聴こえて、ふと気づいた。ラジオからのインストゥルメンタルだと思った鈴の音がまだ続いていたんだ。リンリンリン……て。

 鈴の音だけ二時間続けるラジオ番組なんてないでしょ? あったらどういうスポンサーがついてるのか気になって、そこの商品買っちゃうかもしれないけどさ(笑い)さすがにおかしいと思ったんだ。けど不思議とそのチャンネルに聴き入ってしまったんだよ。勉強しながら、まぁ、そんなチャンネルもあるかって、納得しちゃったんだよね。

 なんというか、夢のなかにいるみたいで、いや現実感がなかったというか、そういう夢ってあるじゃん。夢でしかありえないけど。なんというか、納得しちゃってるっていうか。夢と現実との区別がない一元的な世界にいるような……なんの疑問も持たずに鈴の音を聴きながら勉強をしていた。そして鈴の音の奥から誰かの嗄れた声が聴こえてくるのに気づいたんだよ。言葉の意味はわからないけど、なんだか抑揚が効いていて不思議と聴き心地が良いというか、なんというか……お経だなって思った。誰かがラジオの向こうで鈴を鳴らしながらお経を詠んでいるんだって。勉強をしながら頭の片隅ではお経を唱えてる人のことを考えていたんだ。

 鈴の音を鳴らしながら嗄れ声で読経。

 それは俺に地中深く掘られた穴のなかから読経している人を思わせたんだ。即身仏だっけ? 人々を飢饉や争いとか、この世を救おうと木乃伊(ミイラ)になるヤツ。五穀を絶って木食ていうの? 栄養のなさそうなものを食べて、水すらあんまり飲まずに身体を腐りにくくさせて、さらに漆飲んだり、水銀飲んだり……で、最後に土の中に石の部屋のなかに入ってさ。地上に竹の管で空気穴つくって、あとは鈴を鳴らしながらお経をあげてさ。その音が聴こえなくなったら、晴れて即身仏さまのできあがりってヤツ。

 ラジオから聴こえた鈴の音と読経はその即身仏になろうとしている上人ていうの? 偉いお坊さんのものに聴こえたんだ。それだけ嗄れた声だったけど聴き心地が良かったというか、抑揚のなかに必死さと信念、情熱を感じたからというか……。

 この地域って河川の氾濫が多くて隣の市とよく争いがあったらしいじゃん。飢饉もあったらしいし。だからなんとか争いを無くそうと即身仏になろうとした人なのかなぁって思った。もう大昔のことなのにまだ木乃伊にもならず、救おう、この世を必ず救おうってお経を詠んでくれているんだなって。

 ラジオから聴こえてくる謎の読経なのにね(笑い)

 でも結局、夢なんだ。

 だって、朝起きたらノートに突っ伏して寝てたから!

 え? 朝、あのチャンネルからは砂嵐しか聴こえてなかったし、別の日にそのラジオをつけたけどそのチャンネルからはなにも聴こえなかったからなぁ。

 参考書? ああ、かなり進んでたよ。

 あの夜は寝落ちしちゃったけど五時間くらい……ほんと、明け方まで勉強していたのかも。


 そういうことで俺の話は終わり。

 じゃあ、次はおまえね!

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