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△▽の怪異  作者: Mr.Y
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南魚と黒咲

 年端もいかないような女の子に「……苦労されているんですね」とか名刺みながらしみじみいわれてしまった。名刺からそんなに苦労が滲み出てしまっていたのだろうか。そりゃ、お金がないからフリーソフトをダウンロードして、パソコンでなけなしのセンスで作った簡単なものだ。やっぱり仕事欲しいから小さな名刺いっぱいに宣伝書き込んだのが悪かったのか。印象て大事かも……この際、いい機会だこら業者に頼んで名刺をつくってもらおうかな。

「まぁまぁ、そんなにぶつぶつ呟きながら落ち込まなくても……それよりUFOの映像は?」と田島さんがいうと「そうだ! 私をさらったUFOの映像をもっているんですよね!」と女の子が僕に詰め寄った。

「私をさらったって、もしかして……あっ、黒咲って確か……」

 僕は目を疑った。目の前にいる女の子は高校生くらいだ。それにこの子は確かに『黒咲夜子』と名乗った。確か誘拐事件があったのが五年くらい前だから二十代に成長しているはずだし、誘拐されていたにしては肌も張りがあり、声も溌剌として、健康すぎるくらいの様子だ。

 僕の考えを察したのか黒咲さんは少し経年劣化し黄ばんだ学生証を僕にみせてた。学生証の写真と同じ顔がそこにあり、学生証の年号は五年前のものが記載されていた。

 あまりの出来事に自分の目が信じられず、思わず田島さんに目をやると田島さんはにやりとわらいながら頷いた。

「ホントに? 凄い!」

 これは完全に超自然的な現象だ、と僕は思わず黒咲さんにハグしていた。いつもと違いゴツゴツしてないし、髪も身体も柔らかく、いい匂いすらして「あっ、ごめん!」と飛び退いた。

「そんなことより映像!」

 いつもの癖でハグしてしまった自分に焦りを感じたが、黒咲さんの方は気恥しや迷惑さより、映像を急かしてきた。顔を真っ赤にしているのが怒ってるようにみえ、僕は慌てスマホを取り出した。

「ええっと、確か……」

 遡って田島さんからいただいた映像を探してみる。ぐいっと黒咲さんが僕のスマホを覗き込む。髪からシャンプーのいい匂いが鼻をくすぐった。

「……やっぱり写ってない」

 落胆した黒咲さんの声に僕は動画を確認するが、フォルダ内には僕の撮った廃墟や史跡、コラム用の写真があるばかりで、それらしき動画はなかった。

「いや、以前みたときには……なるほど、なるほど。GoogleフォトにもSDカードにもないか……これは、あれですね」

「あれですな」

 さすがは田島さんはわかっていらっしゃる。

「FBIかKGB、CIA。もしくは……」

黒服男(メン・イン・ブラック)

「……それとも<組織>」

 僕はボソリと、けれどふたりに聞き取れるようにいった。

「なんの組織ですかな?」

 田島さんは怪訝そうにいった。黒咲さんも僕の言葉に不思議そうな顔をしていた。

 よし、このふたりは<組織>の構成員ではないだろう。

 一応、用心に越したことない。なにかしらがUFO映像を消し回っているのは確かだ。映像は色々な人に行き渡っているが、もう五年も経っている。当初より数は減っているだろう。それを汲まなく消すということは大きな権力でも無理だろう。しかし不特定多数の構成員をもつ<組織>ならば可能かもしれない。機種変時、誰かに少し貸した時、置きっぱなしの時……そんなときを狙って指示を出し映像を削除しまわったのだ。そしてどうしようもなかった田島さんには実力行使に出たのだろう。

 僕はショルダーバッグから使い古して角の塗装が禿げているガラケーと充電器を取り出した。

「田島さん、電気いただけますか?」

「あるなら勿体つけずに早くみせてよ!」

 黒咲さんが怒っている。

「ちょっとね。これはもしかしたら真実を知る上で重要な映像なのかもしれないんだ。用心には用心を重ねたまでさ」

「それを勿体つけてるっていわない?」

 黒咲さんは気が短いのか額の辺りに青筋が浮かび上がりそうなくらいの怒りの声を押し殺しつついった。

「勿体つけてるようでごめんね、黒咲さん。でもこのなかに動画を消し回った<組織>の構成員がいたらヤバいでしょ? でも大丈夫みたいだから」

「黒咲さんって、南魚さんの方が歳上だし、私のことは夜子でいいよ。でもさっきから<組織>って?」

「都市伝説にある秘密結社。名前が無いのか、<組織>自体が名前なのか僕にはわからない。ある日、メッセージが届く。例えば公園のベンチにある紙袋を駅のコインロッカーに入れてくれ、とか。その指示に従いコインロッカーに紙袋をもっていくと、ある日、口座に結構な額のお金が入っている。そして暇をみては次から次に指示が来る。急いでいる誰かを少しの間だけ足止めしてくれ、ジュースをもって誰かにぶつかって服を汚してくれ、などなど」

「変な仕事。なんでそれでお金がもらえるの?」

「小さな仕事をたくさんの人にやらせて、大きなことをしているらしい。運んでいる紙袋の中身は麻薬や覚醒剤、足のつかない拳銃かもしれない。急いでいる人を足止めしたら助かるはずの誰かが死んでしまうかもしれない。ジュースで服を汚したら着替えなくちゃいけない。着替えるときになにか盗みやすくなる。簡単な仕事が積もり積もって大きな仕事になる。大きな犯罪だって少しずつの偶然が重なったようにみえる。違法性、犯罪性が希釈され、犯人すらわらなくなる。それが莫大な利益を生み、構成員に還元される。そして<組織>のことをバラした構成員は同じようなやり方で消される。まるで事故に巻き込まれたように」

「ふぅん、それがUFOの動画となにか関係あるの?」

「わからない。昔、僕がまだ子供のころ、一度、<組織>の依頼で心霊現象的ななにかを調査していたおじさんに会ったことがある。そのおじさんは僕を子供だと思って本当のことをいってしまったんだ。それで僕は<組織>は霊能者集団かと思っていた。けれど最近聞いた話では犯罪組織のようでもある。そして今度はUFOの動画を消して回ってる……」

「もしかしたらUFO=心霊現象というのも当たっているのかもしれませんな」

 田島さんが興奮気味にいった。

 僕は頷く。きっと<組織>は心霊現象、怪奇現象などなど……いや、もう総称して怪異としよう。やはり<組織>は怪異について管理している<組織>なのではないか。ただ残念なことに日高くんの周囲で起こった犯罪的なことについては説明がつかないが。

 そして夜子さんが青い顔をしていった。

「ウチのUFO映像も途中までしかなかったんだけど、あの家族のなかにも<組織>の人がいるのかな?」

 あの家族、という言葉にどこか他人の家族のような雰囲気を滲ませていた。そうだ。記憶喪失だといっていた。きっと家族についての記憶もないに違いない。そこで怪しい<組織>の構成員がいるかもしれない、となると心細いだろう。

 僕は好奇心のあまり余計なことをいってしまったかもしれない。

「いや、消されてなかったんでしょ? ただ経年劣化でデータが壊れただけかもしれないよ。たぶん、大丈夫だからさ。もしなにかあったら名刺の番号に連絡してよ。力になるからさ。……よし、充電もできたし、ガラケーだから画質はわるいけど」

「それにしてもなんでガラケー?」

「壊れにくい。携帯しやすい。写真も動画も撮れる。もうネットにも繋がらない。つまりハッキングができない。でもSDカードを読み取れる」

「ロシア秘密警察のKGBが重要な書類はパソコンを使わずにタイプライターで書くのと一緒ですな。念には念を。私も見習わないと」

 さすがはUFO研究家の田島さん。

「それにこの映像、気になるところがあるんだ……じゃあ、いくよ」

 さすがに映像の画質は悪い。

 流星群を映そうとしている小さな女の子の声、スマホじゃ無理だよ、と女の子のお父さんらしき人の声。その声が慌てたものになる。『なんだ、あの光は?』『こっちにくる!』とスマホを向ける。辺りは光に包まれたのか画面が真っ白になる

 。『に、逃げろ!』誰かが叫んでいる。なにかが落ちる音。複数の悲鳴。辺りは謎の光が去ったのか、カメラはただ星空を映している。そして『いない! 夜子がいない!』『まずは警察、いや……』おそらく、スマホを拾い警察に連絡したのだろう。映像は終わっていた。

「うーん」

 夜子さんが腕組みをして目を瞑った。

「やっぱり、なんにも記憶にないわ」

「うむ、興味深い映像ではありますが、これをどうして<組織>とやらは奪っていったのか、わかりませんな」

 ふたりが思い思いに感想をいっている。

「ふたりにはみえませんでした?」

 僕の言葉にふたりは驚いたのか僕の顔をまじまじとみた。

「光があたりを覆ったとき魚鱗か鱗模様のなにかが横切っているんですよ」

 僕は光があたりを覆ったところ、鱗模様が一番よくみえるところで映像を停止した。

「ほら、ここ!」

 小さな画面を指さし、僕はふたりの顔をみたが、その顔は怪訝そうな顔があるばかりだった。

「やっぱり、誰にもみえないのかぁ」

「みえます?」「いえ」「真っ白なだけですよね?」「私も真っ白な画面としか」ふたりが意見交換をしているがなんの手応えもないらしい。

 この映像を田島さんから頂いたときも同じ反応をされた。いや、僕にしかみえないから、なにか重要な映像と思い常に持ち歩いていたんだけど、僕にしかみえないんじゃ仕方ないか。いや、<組織>はこの映像を奪い、削除しまわっている。これがなにかの手がかりに間違いはないのだ。

「あの……」

 悩んでいる僕に夜子さんがいった。

「もしかして、南魚さんて……霊感強い方ですか?」

「ええ」強い方だと思う。だからこそ、学生時代からオカルト的なブログを書き続けてきた。なにか匂う場所にはいわくつきのなにかがそこにあったからだ。

「私も記憶を失うまえは霊感が強かったらしいんですよ」

「つまり?」

「<組織>は南魚さんのいう光のなかの鱗模様を知られたくないかもしれない……記憶を失うまえの私はその正体を知ってる。なくなった記憶、または霊感を取り戻せば……鱗模様、魚鱗? いや、爬虫類……光、縄……」

 夜子さんは少し動揺しているというか、混乱しているようにみえた。そして思いつめているように青い顔で押し黙ってしまった。

 僕は「焦らないようにね」と声をかけると、夜子さんはハッとなって、胸に手を置き、それから深呼吸をした。

「はい。あっ、家族にお昼には帰るといっていたので帰ります。本日はありがとうございました」

「またいつでも来てください」と田島さん。

「一応、UFOの映像はなかった、ということにしてね。本当に一応だけど。またUFOの映像がみたかったら、いつでも名刺の番号に連絡してよ」

「あ、はい。ありがとうございます」

 一礼すると黒咲夜子さんは帰っていった。

「それにしても、なかなか本格的になってきましたね!」

 田島さんは二十代まで若返ったように溌剌とした声でいった。無理もない。なにか途方もないものを研究していて、その途方もないものへの足掛かりがみえたのだ。僕だってこの△市の魔法陣やら<組織>やら、今回のUFO事件やらでなにかふわふわとした気分だ。

「そうそう! 霊感ですが、確か詳しい人がいたなぁ。いやね、UFOは妖怪的ななにかじゃないか? という話をMUで取り上げてくれたときにライターさんが△市にも凄い霊媒師がいるって……確か名前は」

「いましたね。呪いもらったとかで体調不良だった先輩が一回、お祓いしてもらっただけで治ったって……ええっと、確か」

拝屋礼(オガミヤ レイ)!」

 ふたり同時にその名を思い出した。

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