ななわのエナガ
吹雪のたえない『白の世界』で、左胸に雪の結晶のマークをした大きな雪だるまの姿の妖精は、針葉樹のみきで吹雪をよけて休んでいる一羽の愛くるしくまっ白い雄の小鳥を見つけました。
「はじめまして、ぼくは『雪の王子レイモンド』。きみは何という鳥なんだい?」
大きな雪だるまの妖精は『雪の王子レイモンド』と名乗りました。
「ぼく……、エナガの『シマ』っていうんだ……。レイモンドお兄さん……、ぼく……、みんなとはぐれちゃったんだ……。ぼく……、みんなこごえてないか……、心配なんだ……。」
エナガのシマはレイモンドに仲間たちとはぐれてしまって心配だと話しました。
「うん、きみと同じエナガを探せばいいんだね。お安いご用だよ。」
「レイモンドお兄さん、ありがとう。」
レイモンドはシマの仲間探しに付き合うことにしました。
「う~ん……、なかなか見つからないなあ……。!……あれは……!」
シマの仲間を探していくうちに、シマと同じようなまっ白い生き物をレイモンドたちは見つけましたが、正体は小さな雪だるまの姿をした妖精でした。
「何だ……、『スノボックル』じゃないか……。!……いや……、待てよ……。スノボックルにも協力してもらうのも悪くないな……。」
レイモンドはシマと同じ白いエナガかと思いきや雪の妖精『スノボックル』だったのでがっかりするも、気持ちを切り替えて、スノボックルにも協力してもらうことを思いつきました。
「実はぼく……、このエナガのシマの仲間を探してるんだよ……。きみも協力してもらえないかな……?」
レイモンドはスノボックルに協力をたのみ、スノボックルはうなずきました。
「ありがとう。……シマ……、きみの仲間も身体はまっ白いのかい?」
レイモンドはスノボックルにかんしゃするついでに、シマに自分の仲間の身体のとくちょうについてたずねました。
「いや……、みんな色がちがうんだ……。赤や橙や黄や緑や青に紫……、とそれぞれね……。」
シマは仲間の身体の色はそれぞれちがうと答えました。
「けっこう色んな色の仲間がいるんだね……。で、それぞれどんなとくちょうなんだい?」
レイモンドはシマに自分の仲間のそれぞれのとくちょうについてたずねました。
「『アカエナガ』は雪をとかして、『ダイダイエナガ』は下にもぐるのが好きで、『キイロエナガ』は夜になると光ってて、『ミドリエナガ』は風に乗るのが好きで、『アオエナガ』は水辺が好きで、『ムラサキエナガ』は陽の当たらない場所が好きなところかな。」
シマは自分の仲間たちのことをレイモンドに話しました。
「色々あるね……。だれから先に探すべきか迷ってしまうな……。!……あれは……!」
レイモンドがシマの仲間をだれから先に探すべきか迷っている中、緑色の雄の小鳥が吹雪に乗って飛んでいました。
「『ミドリ』じゃないか!風に乗るのはいいけど、吹雪に乗るのはあぶないからだめだってお兄ちゃんがいつも言ってるじゃないか!さあ、今すぐこっちに来て!」
シマは弟のミドリエナガをしかるついでに自分の元に来るように言いました。
「うん……、うわっ!」
ミドリエナガはシマたちの元に向かおうとしましたが、吹雪によって飛ばされてしまいました。
このままだと木のみきにたたきつけられてしまいます。
レイモンドは木のみきに飛ばされていくミドリエナガの方に向かうも届きそうにありません。
そこで、スノボックルをミドリエナガの方に飛ばしました。
スノボックルは吹雪に飛ばされたミドリエナガを受け止めて助けました。
弟がすくわれたのを見届けたシマは安心しました。
「……ありがとう……、みんな……。ぼく……、ミドリエナガっていうんだ……。」
ミドリエナガはレイモンドたちにお礼をのべました。
「初めまして。ぼくはレイモンドで、この小さい雪だるまがスノボックルだよ。」
レイモンドとスノボックルはミドリエナガに自己紹介しました。
「シマ、これであと五羽だね。今度はだれを探そうかな?」
レイモンドはシマに次はだれにしようか振りました。
「う~ん……、この吹雪じゃ探そうにも探せないや……。それに周りも暗くなってるし……。今日は向こうの洞穴で一夜明かそう。」
シマは近くの洞穴で一夜明かそうとのべました。
「うん、そうしよう。」
レイモンドも賛成しました。
スノボックルもとびはねて喜びました。
一行が洞穴で休んでいると、夜空には満月が出ていました。
「あっ、まんまるお月さまだ!まあるくまんまるくておっきなお月さまだよ!」
ミドリエナガは一行に満月を知らせました。
「ああ、とってもきれいだね。」
「うん。!……。」
一行は満月に見とれている中、一つの黄色い光が洞穴に入ってきました。
光の正体は一羽の雌のエナガでした。
「あっ……!『キイロ』じゃないか……。」
シマは妹であるキイロエナガを見つけました。
「シマ兄ちゃん……、ミドリ兄ちゃん……、どうして雪だるまたちといっしょにいるの?」
キイロエナガはシマとミドリにレイモンドたちといっしょなのかたずねました。
「初めまして、ぼくはレイモンドで、この小さな雪だるまがスノボックルっていうんだよ。」
レイモンドはスノボックルといっしょに自己紹介しました。
「わたし、キイロエナガ。『キイロ』ってみんなから呼ばれてるの。」
キイロエナガも自己紹介をしました。
「シマ、これであと四羽だね。!……どうしたんだい!?おくに何かあるのかい?」
レイモンドがシマにあと四羽と言った矢先にスノボックルは洞穴のおくに入ろうとしていました。
スノボックルは身振り手振りでおくも探してみてはとレイモンドに伝えました。
「そうか、やはりおくも探してみる価値がありそうだね。でもおくは真っ暗だし……。!……あっ……、シマ、キイロの光なら洞穴のおくも探せそうだよ。」
レイモンドはキイロエナガの身体が光っているのを見て、洞穴のおくも探してみようと言いました。
「うん。キイロ、皆を探すよ。」
「うん、シマ兄ちゃん。暗い場所なら任せといて。」
「ぼく……、洞穴のおくは苦手なんだよ……。怖いし、何より全然風が吹かないし……。」
キイロエナガはよろこんで協力しました。その一方で、ミドリエナガは洞穴のおくは苦手だと言ってしり込みしました。
「そうか……、じゃあ、ミドリのこと頼むよ。」
レイモンドはスノボックルにミドリエナガのことをたくしました。
スノボックルはうなずきました。
スノボックルに留守番を任せたレイモンドはシマとキイロエナガと共に洞穴のおくに向かいました。
洞穴のおくでは段々畑のように、たくさんの水たまりができていました。
キイロエナガが辺りを見回すと、青いエナガが水たまりではねを休めているのと、こうもりのはねの生えたバクの姿をした妖精『バクット』とたわむれている紫のエナガを見つけました。
いずれも雌のエナガです。
「シマ兄ちゃん、アオ姉ちゃんとムラサキ姉ちゃんが!」
アオエナガとムラサキエナガを見つけたキイロエナガはシマに知らせました。
「『アオ』、『ムラサキ』!ぶじだったんだね!」
シマはアオエナガとムラサキエナガを見つけてよろこびの声を上げました。
「シマ兄さん、キイロ!」
アオエナガとムラサキエナガはシマたちの方に飛んでいきました。
「初めまして、ぼくはレイモンド。」
「わたしはアオエナガ。」
「わたしはムラサキエナガ。」
レイモンドと出会ったばかりの二羽のエナガはあいさつをしました。
「ところでだけど、君たちはどうしてこの『紫の世界』に迷い込んだんだい?」
レイモンドは二羽のエナガに洞穴のおくである紫の世界に入ったいきさつについてたずねました。
「わたしたち、吹雪でさむいからかくれる場所がないかと思ったら洞穴を見つけたの。」
「それでわたしたち、アオと奥に進んだらバクットたちと出会ったの。」
「暗いけどバクットもかわいいし水もきれいで居心地がよくてつい……。ねえ、お姉さん。」
「ええ。」
二羽のエナガは紫の世界も居心地が良いと話しました。
「たしかに居心地は悪くないとぼくも思うよ。さあ、みんなで戻ろう。」
「うん。」
そして一行はレイモンドの合図で洞穴の入口の戻りました。
一行が洞穴の入口に戻ると、留守番だったミドリエナガはスノボックルを背にして寝ていました。
「シマ、残りは二羽だね。夜は長いしゆっくり休もう。」
「うん。さあ、みんなもゆっくり休もう。」
「ええ。」
レイモンドとスノボックルが番をする中、五羽のエナガは眠りにつきました。
一夜明け、洞穴の外では吹雪がおさまっていました。
「どうやら吹雪は通り過ぎたようだね。シマ、あと二羽が見つかるといいね。」
「うん。」
一行は再び残りのエナガを探しに出かけました。
しばらくすると、雪の中に小さな空洞が出来ているのを見つけました。
「ん!?雪がとけているってことは……?」
レイモンドは雪の中に出来た小さな空洞に何かがあるのを感じました。
「きっとこの中にアカエナガがいるはずだよ。」
「うん。」
シマはアカエナガがいるかもしれないと感じ、レイモンドはうなずきました。
一行が空洞をかきわけると、赤い雄のエナガが出て来ました。
「あ~、ゆうべはさむかったぜ~!おや、シマ兄ちゃんじゃん!キイロ姉ちゃんにミドリ兄ちゃんにアオ姉ちゃんにムラサキ姉ちゃんも……。それから……」
「ぼくはレイモンド。この小さな雪だるまはスノボックルって言うんだ。」
「レイモンド兄ちゃんにスノボックルかい……、おいらはアカエナガ。『アカ』って呼んでいいぜ。」
レイモンドとアカエナガは互いにあいさつをしました。
「シマ、これで残りは……」
「あとはダイダイエナガ一羽だね。」
「うん。」
一行はダイダイエナガを探し始めました。
しかし、最後のダイダイエナガは皆で手分けして探してもなかなか見つかりません。
空が赤く染まり始めても見つからず、みんながとほうにくれる中、レイモンドは自分の左胸の雪の結晶を取り出し、何かを語りかけました。
「女王様……、ぼくは今、シマたちの家族であるダイダイエナガを探しておりますが、なかなか見つからずじまいです……。どうすれば良いでしょうか……?」
『見えない物を見つけるのは難しいでしょう……。ならば紋章を使いなさい。』
女王はレイモンドに紋章を使うよう伝えました。
「紋章……?」
レイモンドは紋章という言葉に少しとまどいました。どう使うのかもわかりませんでした。
『あなたのマスターが生前に集めたあらゆる紋章を引きついでいるはずです……。それらのうちのいずれかがきっとお役に立つことでしょう……。』
女王はレイモンドに自分のマスターが生前に集めた紋章が役に立つと語りました。
「女王様、ありがとうございます。さっそくやってみます。」
レイモンドは女王にお礼を述べ、自分の左胸の中から紋章を取り出しました。
取り出した紋章は橙色の歯車の形をしており、レイモンドはそれをかざしました。
「『歯車の紋章』よ、ダイダイエナガの行方を示したまえ!」
レイモンドが歯車の紋章に語りかけるも、紋章は何も反応しませんでした。
(同じ色だからと思ったんだが……、今度は……、『月の紋章』でも……。いや、あれは暗い場所でないと使えない……。なら『星の紋章』は……、これも違う……。あれは暗い場所を見やすくする効果ぐらい……。なら『四つ葉の紋章』は……、いや、そもそも探すのに向かないな……。となれば『雫の紋章』は……、たしか生命を司る紋章だから使えるかも……。待てよ……、ぼくの身体は雪で出来ているから……、『炎の紋章』の熱をおさえるのに水属性である雫の紋章は必要……。!……よし……!これなら出来そうだ!)
どの紋章を使うべきか考えたレイモンドは自分の左胸の中から炎の紋章と雫の紋章をいっしょに取り出しました。
「雫の紋章よ、ダイダイエナガの生命を調べたまえ!」
レイモンドが炎と雫の紋章をかざすと、雫の紋章は青い光を放ち、光は雪の積もった地面にさしこみました。
「ダイダイエナガはどうやら雪の降っている地中にいるようだね。」
レイモンドはシマにダイダイエナガが地中にいるのではと伝えました。
「うん。……アカ……、ここの雪の下にダイダイエナガがいるはずだよ。」
「任せときな、シマ兄ちゃん!」
アカエナガはダイダイエナガがいるであろう場所の雪をとかしました。
しかし、地面にはダイダイエナガはいませんでした。
「あれ……、おかしいな……。レイモンドお兄さん……、たしかここにダイダイエナガがいるはずなのに……。」
シマはダイダイエナガがいるはずなのに見つからなかったことが気になりました。
その時、レイモンドの持っている歯車の紋章が橙色に光りだしました。
歯車の紋章は回転しながら地面をほっていきました。
しばらくして、地中でねむっている橙色の雄の小鳥を見つけました。
「『ダイダイ』!……大丈夫かい?」
「ほら、ダイダイ!わたしよ、アオ姉さんよ!」
ようやくダイダイエナガを見つけたシマは、ねむっているダイダイエナガに呼びかけ、アオエナガは彼を抱っこしました。
「……う……ん……。あっ……、シマ兄ちゃん……、アオ姉さん……。それからみんな……。」
ダイダイエナガは目を覚ましました。
「……良かった……。みんなでダイダイのこと探したんだよ。こちらの雪だるまのお兄さんたちも交えてね。」
「初めまして、ぼくはレイモンド。この小さな雪だるまがスノボックルなんだ。」
「ぼく……、ダイダイエナガ……。レイモンドお兄さん……、『ダイダイ』って呼んで……。」
レイモンドたちとダイダイエナガはあいさつをかわしました。
「これで全羽そろったね。」
「うん。」
「ああ。」
「うん……。」
「うんっ!」
「うん!」
「ええ。」
「ふふっ……。」
こうして七羽のエナガがそろい、レイモンドは七羽のエナガを森の中の巣にもどし、一晩明かしました。
そして一夜明け、いよいよお別れの時がきました。
「レイモンドお兄さん……、スノボックル……、本当にありがとう……。」
「レイモンド兄ちゃんたちにも火の加護をってな!」
「レイモンドお兄さんたちにも……、土の加護を……。」
「レイモンドお兄ちゃんたちにも光の加護がありますように!」
「レイモンド兄ちゃんたちにも風の加護がありますように。」
「レイモンドお兄さん方にも水の加護がありますように。」
「レイモンドお兄さん方にも闇の加護がありますように。」
「シマ……、そして皆にも氷の加護を……。」
レイモンドとスノボックルは七羽のエナガに見送られて森を後にしました。
『THE TIME』に続いてそしてNHKで10/23、19:30より放送の『ダーウィンが来た!』に本作のモチーフであるシマエナガが登場する予定にて期間限定で代表作に設定しました。
PS:先日祖母がご逝去された事を受け、『桜おばあさんと桜の樹』を投稿しました。こちらもご愛顧頂けたら嬉しい限りです。