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9話 『美味しい投資にゃ罠が有る』前編

◇ルヌギア歴 1685年 4月5日 アテス 酒場『パルテノ』◇


「何やってんの?」


夕刻、カジノの監視を終えて酒場に帰ってきたソニアが鷹峰に声をかけた。


鷹峰は裁縫道具を女将さんから借りて、自分のスーツの左肩を修理しようとしていた。


「見りゃわかるだろ」


修理しようと針に糸を通したまではよかったのだが、アームホールの縫い方が理解できず、生地を裏返したり、正しく繋がっている右肩と比較したりしているが、まさに糸口が掴めない。


「あんた裁縫できるの?」


「ご覧の有様だよ。修理屋に頼めって、諦めの神様がさっきから耳元で囁いてるよ」


「やったげるよ。貸してごらん」


ソニアの意外な一言に鷹峰は動きを止めた。


「なによ、そんなにアタシが裁縫出来るのが不思議?」


「いや失礼、お願いします」


「よろしい」


ソニアは鷹峰からスーツを受けとり、破れた箇所から縫い方を確認し、正常な右肩の生地をを軽くひっぱって縫目の強さを確認すると、迷いなく針を生地に入れた。


「なんでまたこんな服を直す気になったの? こっちの正装のコートとかマントを買った方がいいんじゃない? ワイシャツはそのままでも使えそうだしさ」


ソニアの質問に鷹峰が答える。


「この服は親父が仕事用にって、珍しく奮発してくれた一張羅でね。やっぱ仕事の勝負時には着たいなぁと思って」


「勝負時ってことは、カジノの件、見通しは立ったの?」


「ああ。あとは誰がバックか分かれば言う事無しだ」


針を進めながらソニアが答えた。


「バックは予想できたわ。意外や意外、おそらく大臣のビブランね」


鷹峰はぎょっとしつつソニアに聞いた。


「そいつはどうして分かったんだ?」


「今日の明け方頃、連中に差し入れを持って来た奴がいたの。こいつが見た事のある顔でね」


「ビブランの部下とか?」


「そう。屋敷の使用人か秘書か知らないけれど、ビブランの小間使いになっている中年の男。金山防衛隊の時に、使者として何度か来たことが有って、それで顔を覚えてるのよ」


鷹峰は頷きつつ、質問を続けた。


「ちなみにビブラン大臣って金は持ってるのかい? 屋敷って言うからには資産家のようだが」


「何代も前から国の要職を担っている名家のご当主様だから資産はあるでしょうね」


「なにか、サイドビジネスをやっていたりするのか?」


ソニアは裁縫の手を止め、首を傾けて考えたが思い当たらない様子であった。


「うーん、とくに聞いたことは無いわね。口利き料で私腹を肥やす典型的な政治屋さんってイメージね」


鷹峰の頭の中で、予想がおおむね一本線につながってきた。


ニヤッと悪人顔で笑みを浮かべる鷹峰を見てソニアが言った。


「なに一人で薄ら笑いしてるのよ? ちゃんと説明して」


「ああスマン」


一息入れて鷹峰が説明を始める。


「まずマグナ会とやらがカジノを占拠している理由だが、これはたぶんビブラン大臣の依頼によるものだろう」


ソニアは裁縫の縫目と鷹峰の顔を交互に見つつ、耳を傾ける。


「では、なぜビブラン大臣があそこを占拠しておきたいのか。ってのについては、モルゲン遊興のハイディに聞いた情報から推測できる。カジノの顧客リストと顧客別売上帳簿なんかが、まだカジノの中に残っているからだ」


「その顧客帳簿に、ビブランに不都合な内容が有るってこと?」


「たぶんな」


「でも、それなら帳簿を燃やしちゃえば済む話じゃないの?」


「金庫自体を隠しているそうで、まだ見つかっていないのかもしれない。ついでに、特殊な魔法で施錠していて、簡単には開けられない金庫だそうだ。無理に開けようとすると衝撃波が出て吹っ飛ばされるとか」


「なるほど。そこまで厳重なら、建物ごと火事になっても残りそうね。で、ちなみにビブランに不都合な事ってなんなの?」


鷹峰はソニアの問いを受け、指を2本立ててから説明を続ける。


「そこは予想でしかないんだが、可能性は2つある。まず本命は横領の証拠って線だな。明らかに大臣自身の収入・資産を超える金額がギャンブルに使われていて、何らかの公金、国の予算なんかを私的流用していることがバレてしまうってパターンだ」


「ふむふむ、もう1つは?」


「脱税だ。弁護士事務所のロゼから聞いたんだが、カジノで勝って一定額以上の利益が出た場合、税金がかかるらしい。その税金の申告のために、カジノ側は誰がいくら儲けたかを帳簿に記録しているそうだ。ってことで、帳簿を見れば、明らかに払っていない税金の証拠が残っているんじゃないかって線だな。勿論、両方の可能性もある」

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