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6話 『魔界のリストラは甘くない』後編

不良債権に関する資料は目の前に出てきたが、こちらの世界の情勢に疎い鷹峰にとっては雲を掴むような話であり、このままでは債権回収の余地があるかどうか判断が難しい。


鷹峰がどこから聞くべきかと悩んでいると、ソニアが口を開いた。


「フルフォリにメリ食品にモルゲン遊興まで借金抱えてるのね」


ソニアが指摘した3ギルドは一覧の中でも金額が大きめの案件で、焦げ付いている融資額は順に7億、6億、4億と書かれていた。ソニアが驚くということは、少なくとも過去は羽振りがよかったのだろう。そういう所はなにか金になるものが残っているかもしれない。


「その3社……、いや3ギルドはどんな事業を?」


鷹峰の質問にジョルジュが答える。


「フルフォリは高級家具、とくに置き時計の製造をしています。メリ食品は国外の高級酒類輸入が主な事業ですな。モルゲン遊興はカジノ経営をしております」


ソニアが付け加える。


「モルゲンのカジノは一度だけ行ったことがあるわね。その時は、羽振りの良さそうなお客さんで大繁盛だったのに」


「3ギルドとも富裕層向けのビジネスで儲けていたが、景気が悪くなるにつれて客足が落ちて経営悪化ってところですかね?」


鷹峰の質問にジョルジュは大きく頷いて肯定した。


「その通りです。不況による市民の贅沢カットが直撃した形です」


商売の内容から察するに、3ギルドとも実物資産(在庫商品や店舗不動産)をいくらかは持っているはずなので、調べてみれば回収の糸口がみつかるかもしれない。


それに、ここで書類と睨めっこをしていても何も始まらないのは確実で、どこでもいいので現場を見た方が早いとも感じた。


「手始めにその3つを調べてみましょう。各ギルド担当者の方をご紹介いただけますか」


ジョルジュがニッコリ笑って返答する。


「ありがとうございます。先方には今日中に連絡しておきます」


そう言いながらジョルジュは書類の束から3つのギルドに関わる部分だけ取り出し、担当者名を書いたメモを付け加えて鷹峰に手渡した。


「なにぶん、秘密情報ですのでくれぐれも……」


各ギルドの経営状態が載っているのだから、当然秘密情報であろう。それは日本の金融機関でも同じことだ。


「承知しています。紛失した際はビブラン大臣に賠償請求してください」


鷹峰の言葉にジョルジュは軽く笑った。


「本格的に回収のお手伝いに乗り出す場合は、また別途手数料等のご相談に上がります」


「分かりました。色良いお返事をお待ちしております」


鷹峰とソニアはお辞儀をしてソファから立ち上がり、部屋から出ようとした。ソニアがドアに手をかけたその時、鷹峰は思い出したように意地悪な質問をジョルジュに投げかけた。


「ちなみにこの債権回収ですが、ビブラン大臣にはどれくらいマージンが行くんですか?」


ジョルジュは一瞬キョトンとしたが、大きく笑って答えた。


「あははは、答えにくい質問ですな。ノーコメントとさせて下さい」


◇ルヌギア歴 1685年 4月2日 独立商都アヅチ◇


独立商都アヅチは、300年前に転移してきた第六天魔王こと織田信長が作った商業都市である。ルヌギアにおける商取引・金融取引の中心地であり、多くのギルド、多くの魔族企業が本社や支社を構えている。現在、魔族内においてデモニック族(人型の魔人族)の族長を務めるエフィアルテスも本拠をアヅチに置いている1人である。


エフィアルテスはこの日、アヅチ高台にある邸宅の窓辺に立ちながら、部下から報告を受けていた。


「あのぼんくら狼め、また借金ばかり増やすとは」


ぼんくら狼とは株式会社オプタティオ前線CEOのデガドの事である。エフィアルテスはオプタティオ前線の筆頭株主であり、全株式の約20%を保有しているため、デガドに意見できる立場にある。


「3月末の配給は乗り切ったが、5月頭に出る今期決算はかなり悪く、資金繰りが難しい状況になりそうだ。とのことです」


オプタティオ前線内部に送り込んでいる情報提供者からの手紙を、グレムリンの部下が読み上げた。


「だろうな。また株主配当を減らしてくれとでも言いだすのであろう」


「はっ。そう来ると思われます」


「金山奪取の際の犠牲者遺族に慰労金などと勝手に決めるからそうなる。あんな無駄金を払っていては、いつまでたっても黒字化はしない」


鋭い眼光で窓の外を眺めながら、エフィアルテスは小さく鼻息をついてからそう言った。


昨年、ソニア達が防衛していたラマヒラール金山を奪取するよう株主提案をしたのはエフィアルテスだった。この株主提案にはいくつかの狙いがあったが、その中の1つは『リストラ』である。戦死者を出すことによって、株式会社オプタティオ前線の魔族削減を期待していたのだが、慰労金など出してしまっては費用がかかり過ぎて、株主に何一つメリットがない。


「よし、引き続き監視をして、動きが有れば逐一報告するように返事をしておいてくれ」


「はっ」


グレムリンが部屋から出ていったのを確認し、横に居たデモニック族の秘書に語りかける。


「タダ飯喰らいの魔族にはさっさと死んでもらい、組織をスリム化をしたいものだ」


「その通りでございますな」


エフィアルテスは窓から書斎内に向き直り、緑色のひび割れた顎をさすりながら言った。


「アーバドとの面会をセッティングしてくれ」


アーバドは魔族の資産家で、オプタティオ前線の第2位株主である。エフィアルテスとの保有株数を合計すると、オプタティオ前線の株式総数の約4割に達する。加えて、エフィアルテスにはデモニック族長としての権限や、魔族内に持つ政治人脈がある。そのため、エフィアルテスとアーバドが結託して株主提案を実行した場合、雇われ社長であるデガドがそれに反抗するのは至難の業なのである。


「昨年と同じく株主提案ですか?」


「うむ。配当を減らすつもりなら、また一騒動起こして貰ることになる。いい加減、会社が誰の持ち物なのか理解して欲しいものだ」

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