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6話 『魔界のリストラは甘くない』前編

◇ルヌギア歴 1685年 3月31日 アテス・カイエン銀行アテス支店◇


日本の企業は会計年度の区切り(1年間の経営結果をまとめる区切り)を3月末に置いていることが多く、その影響で3月末~4月末は繁忙期と言われている。


ルヌギアにおいても、魔族企業の多くは3月末決算を採用している。それゆえ、魔族の『株式会社オプタティオ前線』などは、3月末を無事超えられるかどうかが経営陣にとって一大事なのである。


一方でクレアツィオン連合では基本的に年末を区切りに置いているため、この時期が特別忙しいというわけではない。それに加えてオプタティオは不況であるから、カイエン銀行アテス支店も客が1人2人しかいないという寂しい状態であった。


ただし、店員の意識自体は高いようで、鷹峰とソニアが入店するとすぐに案内係の青年が用件伺いにきた。「不況時こそ綱紀粛正ということだろうか」と鷹峰は感じた。


名前を告げ、待っている間にソニアが頭を掻きながら口を開いた。


「どうもあたしは銀行ってトコが苦手ね」


「そいつはどうして?」


「調子いい時は毎日でも顔を出して、なにかにつけて融資融資って言うくせに、調子が悪くなったらすぐに手のひらを返す」


「実体験か?」


ソニアが頷く。


「カイエンじゃなくて、地元のオプタ銀だけどね。金山から敗走してきて、大怪我で死の淵を彷徨ってる防衛隊の隊長に会いに来たと思ったら、『死ぬ前に金を返せ』って。その場で殴ってやろうかと思ったわ」


「どこでも似たようなもんだな。鬼畜な人種だよ、金融屋ってのは」


「あんたもそうだったんでしょ?」


「返す言葉が無いね」


その時、横から声がかかった。


「鷹峰様、奥にどうぞ」


鷹峰とソニアは受付横のドアから中に入って廊下を進み、その廊下のど真ん中の部屋に案内された。案内係の青年がドアをノックすると、男性の「どうぞ」という声が返ってきた。


青年にドアを開けてもらい鷹峰たちが入室すると、スラリと高身長な男性が1人立って出迎えてくれた。大航海時代をモチーフにした漫画やゲームなどに出てくる『イケメン商人キャラ』が着ているような紺色のブレザー(ジュストコール)を身にまとっている。ビブラン大臣のようにふんぞり返っているワケではなく、客をもてなす所作が手慣れている様子であった。


「お初にお目にかかります。支店長のジョルジュ=クレペールと申します」


ジョルジュはそう言って名刺を取り出し、まず鷹峰に手渡した。名刺を両手で受け取りつつ、鷹峰も名乗り返した。


「これはご丁寧にどうも。あいにく名刺を作っておりませんで、口頭にて失礼します。鷹峰亨です」


ソニアも名刺を受け取って名乗った。


「ソニア=ジョアンヴィスです」


そう言いつつソニアは受け取った名刺を一瞥してから、少し驚いた様子で付け加えた。


「アヅチの副支店長だったんですね」


名刺の裏面にはジョルジュ支店長の経歴がびっしりと記載してあった。ソニアが驚いたところをみると明らかな出世コースを歩んでいる人物なのかもしれない。


「ええ。年始からこちらに赴任してきました。ささ、こちらにどうぞ」


大臣の部屋の無駄に豪華なソファに比べると、だいぶ質素な来客用ソファに鷹峰とソニアは腰をおろした。


「とあるスジからお2人のご活躍を耳にしまして、ビブラン様に頼んで紹介頂いた次第で御座います。是非、当行の不良債権処理に協力して頂きたく」


大臣もしくは召喚に居合わせた人間が、鷹峰の情報(日本人の金融業関係者ということ)をカイエン銀行に流し、その知識や手腕に興味を持ったというところだろうか。それともどこかのツケの回収が耳に入ったのかもしれない。


「伺っております。処理したい不良債権について、具体的に教えていただけますか」


「分かりました、こちらをご覧ください」


ジョルジュはそう言って、机の下から厚さ2センチ程度の書類の束を出してきた。


「これが今月15日時点でのランクD、つまり当行で不良債権扱いになっている案件のリストと簡単な状況まとめです」


「拝見します」


鷹峰はそう言って、書類をめくり出した。


書類は一番上に融資先名、融資日、金額、利子率、返済予定日、返済実績、貸出残額などを一覧にしたリストがあり、続いて個別案件の詳細情報がまとめられた物だった。


まだ文字はほとんど読めない鷹峰だったが、一覧を見て、返済期日に満足の行く返済がなされていない案件ばかりであることは理解できた。不良債権なのだから、当然と言えば当然なのだろうが。

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