96 激走! とんでもない時間で現地到着……!
「ミミ、ちょっと速く走るから、ここで待ってる?」
そこそこのスピードで走るつもりだし、怖がるようならシモーヌさんに見てもらうのも手だ。
『や。マスターと一緒にいるの』
手を繋いでいたミミが俺の脚にぎゅっとしがみついてくる。
「でも、速いの怖いんだろ?」
『ミミ、強くなったから。大丈夫!』
勇気を振り絞ったかのような表情でミミが強く頷く。
ミミは俺が止める前に、素早く小さくなって俺の胸ポケットへと飛び込んだ。
ポケットにぎゅっと掴まり、一歩も動かない姿勢を示す。
うーん……、一度試して様子を見てみるか。
「ちょっと……、なんで貴方の従魔がそんなに怯えてるのよ……。今から何するつもりなのよ……」
「普通に走って行くだけですよ?」
「何一つ理解できないし、納得できない。聞いた私がバカだったわ……」
「じゃあ、ちょっと待って下さいね。お餅モチモチまるもっちー!」
俺は決めポーズとともに名乗魔法を発動。
全身を包み込むようにオーラが発せられ、全身から力が漲ってくる。
「なるほど、名乗魔法ね。それなら多少は速くなるわ」
「それじゃあ、失礼しますね」
俺は、ロザリーさんを横抱きにし、準備を整える。
「あ、うん。まるもっちー君って柔らかいのね……」
俺の肩につかまったロザリーさんが揉むような手つきで体を撫で回してきた。
ちょっとくすぐったいな。
「よく言われます。ミミ、準備はいい?」
『うん!』
「よし。それじゃあロザリーさん、行きますからね。しっかり掴まっていて下さいよ」
全員の準備が整ったことを確認し、走り出す。
初めは軽く、そして少しずつ速度を上げていく。
「何をそんな、大げさな。ちょっと走るだけで……しょぉおおおおおおおおおおおおお!?」
「話していると舌をかむかもしれないので気をつけて下さいね」
「ん……!」
身の危険を感じたのか、素直に口を閉じるロザリーさん。
ミミは大丈夫かなと視線を落とせば、ニコリと笑顔が返ってきた。
速度を調整しているせいか、今回は余裕のようだ。
こうやって走るのも随分やったし、慣れてきたのかな。
とりあえず日が暮れるまで走り続け、適当な場所で一泊。
ロザリーさんからは色々と言われたが、全無視で翌日早朝から問答無用で出発。
そうこうしている内に、ミミが作った橋を渡り、一気に街道を駆け抜ける。
気がつけば、俺が無属性魔法で土砂を消し飛ばしたエリアに到着していた。
「おっと、行き過ぎた」
慌てて足を止め、急停止する。
勢いが留まらずしばらく前進し、盛大に土煙が巻き起こる。
完全に停止したところで、ロザリーさんに声をかける。
「はい、着きましたよ。お疲れ様でした」
俺は抱えていたロザリーさんをそっと地面へ降ろした。
「う……そ……」
呆然とした表情で呟く。
「本当ですよ。あの辺りが土砂が崩れていたところです。無くなっちゃってるので信じられないかもしれないですけど」
また崩落しないように周囲の地形も変えたし、分かり辛いのかもしれない。
「そうじゃない!」
「ああ、ミミが作った橋の方ですか? 結構な幅があるので横並びで馬車が十台くらい同時に渡れそうですけど、耐荷重量がどのくらいあるか分からないんですよね……」
ぶっちゃけ滅茶苦茶頑丈そうであるが、過信は禁物。
馬車は五台くらいにとどめておいた方がいいかもしれない。
「そうでもない!」
「え?」
「なんでこんなに早く着くのよ! あり得ないわ! これじゃあ仕事を丸投げできないじゃない!」
台詞の最後のほうに黒い私情が挟まっていたのは聞かなかったことにしよう。




