95 ロザリーさん、切れる……!
「土砂は通るのに邪魔だったので片付けました。ついでに崩れそうなところは全部取り除いておきました。ミミが作ってくれた橋は強度をちゃんと確認していないので、慎重に渡ってくださいね」
俺は自分達がやったことを思い出しつつ、簡潔に報告した。
うん、これで合っているはず。
「ミルティユ方面からこここまで馬車を利用できるようにするのは、やりたくても手が回らなかったことだから……。よくやった、と言うべきか……。助かる、と言うべきか……」
「他に優先順位の高い作業がありますからね」
ギルドマスターの言葉にシモーヌさんが訳知り顔で頷く。
「そうだ。現状そこまで手が回っていない。だが、片方の街道が不通だと物資の搬入量が減ってしまう。かといって全ての作業を同時進行ですれば全ての作業が終わらなくなる……」
「これで、物資の届く量が増え、作業が一つ減ったことになりますから、大助かりですね」
「……夢を見ている気分だ。いや、本当に夢なんじゃないのか?」
「頬をつねりましょうか?」
などと二人が話していると、バンッと扉が開かれた。
音に驚いて振り向くと、不機嫌そうな顔をしたロザリーさんが腕組みして立っていた。
「で、なんで私がギルドマスターの部屋に呼び戻されているんでしょうか!? 忙しいんですけど! 誰かの指示のせいで!」
「俺は謝らない! そして新たな仕事を言い渡す! 今すぐ、まるもっちーと街道の橋が崩落した現場と土砂崩れが発生した場所へ急行し、現状を確認して来い。話は以上だ」
「はぁあああ!? ここから現場までどれだけあると思ってるんですか! 早馬か早蜥蜴でも貸してくれるんですか!?」
「そんなものはない。徒歩だ。行って来い」
「行ってたまるかあぁああ!」
「ロザリー、お前もよく分かっていると思うが、現在このギルドは復興作業の影響で人手が不足している。その上、皆疲弊している。限界が近いんだ」
「それ、私もなんですけど!」
「臨時報酬を出す。この街のため、このギルドのため、灰になってくれ」
「ぁぁぁ……」
ロザリーさんが口から魂が抜け出るかのような音を出して放心してしまう。
これは再起不能だ。
「あの……」
「何!?」
俺が声をかけると、ロザリーさんが切れ気味に鋭い視線を向けてくる。
こ、怖い。
「多分、往復三日くらいで行けますよ」
MAX中のMAX。フルパワーを出せばもっと時間を縮めることも可能だ。
だが、ロザリーさんを運ぶことを考えると手加減すべきかな。
「「行けるわけないだろ!」」
ギルドマスターとロザリーさんが声を揃えて叫ぶ。
「残念ながら、行けてしまうんです……。私は怖かったので、無理を言ってゆっくりにしてもらいましたが」
シモーヌさんがなぜか悲しげな声で言う。
「ロザリーさんが我慢できるなら、もっと時間を短くする事もできますよ」
「我慢って何!? 一体どんな方法で行くの!? 怖いんですけど!」
「ロザリー、良かったじゃないか、それならすぐ戻ってこられる。臨時報酬も貰い得だぞ。やったな! HAHAHA!」
ギルドマスターはどうやって現地に向かうかの方法には一切触れず、ロザリーさんの肩をバシバシ叩きながら陽気に笑っていた。目は笑ってないけど。
「無理に決まってるでしょ! ちょっと、まるもっちー君、もし三日以内に帰ってこれなかったら、私の仕事手伝いなさいよね! ……いや、私の仕事全部代わってやりなさいよね!」
三日で着くのが不可能と判断したのか、妙な条件を提示してくるロザリーさん。
勝負に勝った気でいるのか、平静な顔を保とうとしているのに、目元と口元がぷるぷると震え、ニヤけを堪えているのが窺える。
この人、俺に仕事を全部押し付ける気満々じゃないか……。
「分かりました。それじゃあ、時間も惜しいですし、早速行きましょう」
手伝うくらいなら構わないけど、全部押し付けられるのは嫌だな。
ここはちょっと頑張って早めに帰ってくるか。
「なんで即答するのよ! 自信がありすぎて逆に怖いんだけど!」
嫌な予感を感じ取ったのか、両手で自分を抱いて震えるロザリーさん。
俺はそんな怯えるロザリーさんと一緒に街の外まで移動した。




