91 ギルドマスターの決断がとんでもなかった……!
「……今の話、冗談じゃなかったんですか? 私を驚かせるための芝居か何かかと……」
ロザリーさんが小走りでギルドマスターの後を追いながら、自信なさげな声で尋ねた。
「お前をそんな事で驚かせて、何か意味があるのか?」
「…………ないですよね。あの、今の話が仮に本当だとして、諸々の手配をしろって、洒落になってないんですけど? 今日、帰れないんですけど? かん口令敷くって言ってたし、人員手配できないんですけど!?」
「……ロザリー、街のためだと思って諦めてくれ」
ギルドマスターは両手をロザリーさんの肩に置き、優しげな表情でそう言った。
「……ちょっとお手洗いに行ってきます」
「後にしろ」
ロザリーさんの両肩をガッチリ掴み、静かな声音で拒否するギルドマスター。
「ぐっ……、急に胸が苦しくなって……! これは治療院へ行かないと」
「お前にそんな持病はない」
「弟が熱を出して寝込んでいるので、看病のために今日は早退します!」
「お前に弟はいない」
「別件が片付いていないので失礼します!」
「他の奴にやらせろ」
「……えっと、えっと」
ロザリーさんはネタが尽きたのか、視線をさまよわせ、言葉を詰まらせる。
「ロザリー、あきらめろ」
「いやだぁああああああ! 絶対忙しくなるぅぅう! 定時に帰れないぃいい!」
ロザリーさんが恥も外聞もなく泣き叫ぶ。
どんだけ残業が嫌なんだ……。もしかしてサービス残業なのかな……。
「ロザリー、あきらめるんだ。この案件の担当はお前だ」
「他の人にやらせてくださいよ!」
「お前は少しサボり癖があるが、能力が高い。お前が適任だ。期待しているぞ」
「ぐぬぬ……。人が要ります! 大量に! 寄越せ、ギルドマスター!」
ロザリーさんはギルドマスターの手を振り払うと、両肩を掴み返して揺すりまくった。
退勤時間を少しでも早めたいのか、必死の形相である。
「おい、揺するな! 分かった、詳細を伏せて集めろ。口は臨時報酬で塞げ。口が軽そうな奴はちゃんと弾いておけよ」
「さすがギルドマスター、分かってらっしゃる!」
ギルドマスターの指示を聞き、上機嫌となるロザリーさん。
「……やはり俺の目に狂いは無かった。ロザリー、シプレの街の命運はお前にかかっている。任せたぞ!」
「倉庫から帰ってきたら、ギルドマスターも手伝うに決まってるでしょうが! 何、丸投げしようとしてるんですか! 絶対に逃がしませんからね!」
ロザリーさんって、ギルドマスターの扱いに慣れてるな。
きっと普段から無茶振りされてきたに違いない。
「くそっ……。おい、まるもっちー、待たせたな。倉庫だ、倉庫に行くぞ! ロザリー、お前も来い。検分に付き合え」
「はぁ!? 今言われた作業にかかりたいんですけど!」
「買取所とも連携する必要がある。向こうで打ち合わせだ」
「分かりましたよ! 行きますとも!」
ギルドマスターとロザリーさんが大声でやり合いながら動き出す。
そこでギルドマスターが思い出したようにシモーヌさんの方へ振り向いた。
「っと、シモーヌ。あんたはもう少しここで待っていてくれ。すまんな」
「いえ、大丈夫です」
「よし、まるもっちー。付いて来い」
「あ、はい」
ギルドマスターの勢いに巻き込まれた俺は、駆け足で部屋を出た。




