87 不審人物がとんでもない行動に……!?
結局ずっと付いてきていたのか……。なんなんだ、この人……。
「えへへ……」
女性は後頭部をかきながらニコニコしている。
「一体なんなんですか!?」
「あのね……、実は道に迷っちゃってさ。高いところから見下ろせば、位置が分かるかなぁと考えてたの」
「ああ、それで進行方向が同じだったんですね」
説明を聞き、なるほどと納得する。
「そうそう! そうなのよ! いやぁ、こういうことって滅多にないんだけどさあ、どっちに進んだらいいか分からなくなっちゃって、本当に困ってたんだよね」
「あんな森の奥で?」
女性の話を聞き、いぶかしむシモーヌさん。
「そうそう! 三日位森から出られなくて、食料も心細くなっていたところだったんだよ」
「遭難してるじゃないですか!」
迷うってレベルじゃないよね。
人はそれを遭難と言う。
「だね〜。君たちに会えて命拾いしたよ〜」
「ほんとだよ! なんか軽い調子で言ってるけど、命に関わることだから!」
「えへへ、失敗失敗〜」
「軽っ!」
結構ヤバイ状況だったと思うんだけど、危機感を感じないなぁ……。
「まあまあ、目的地も一緒だし、私が街まで案内してあげるよ。私はニコル、よろしくね」
「まるもっちーです。よろしくお願いします。で、横抱きにしているのはシモーヌさんです」
「どうぞよろしく」
「よろしくね。変な道行きの仕方だね?」
「こ、これは仕方ないんです!」
「そうなんだ?」
「そうなんです!」
痛いところを突かれたような表情で言葉を詰まらせるシモーヌさん。
シモーヌさんは冒険者じゃないんだし、別に気にしなくてもいいのに。
続いて、俺はミミをニコルさんに紹介する。
「胸ポケットにいるのはミミ。俺の従魔です」
俺の言葉に応えるように、ミミは胸ポケットから飛び出し、着地。
ポンと元の大きさへと戻る。
『よろしくね!』
ブンブンと目一杯手を振る笑顔のミミ。
「よろしくね〜。へぇ、かわいい従魔だね。よろしく、ミミちゃん」
『ん』
ミミはニコルさんへ向けて片手をずいと突き出した。
「? どうしたのかな」
ニコルさんは意図を測りかねて首を傾げる。
「ああ、握手をしてもらえませんか。最近ハマッてるんです」
「ふふ、お安い御用だよ」
握手をせがむミミに応えてくれるニコルさん。
二人は固い握手を交わした。
『うふふ、握手してもらっちゃった♪』
満足したミミは俺に報告すると、小さくなって胸ポケットへと戻った。
「よかったね。ニコルさん、ありがとうございます」
「いえいえ。それじゃあ、行こうか。離れないように付いてきてね」
「遭難した人に付いていくのか……。ちょっと不安だな」
案内してくれると言うが、安心感より不安感が勝る。
一応、シプレの街で活動している冒険者らしいが、方向感覚への信頼感はゼロに近い。
などと考えていると、ニコルさんが急に駆け出す。
「あ、チョウチョだ! 待って〜」
いきなり蝶を追い始めて茂みへ飛び込むニコルさん。
「え、ええ……?」
『チョウチョ、綺麗だね!』
シモーヌさんとミミは違うことで驚きのリアクションを重ねる。
俺は慌ててニコルさんを呼び止めようと声をかける。
「ちょっと! ニコルさん!」
ニコルさんは俺の声にハッと我に返り、「失敗失敗」と自分の額をこつきながら、こちらへと戻ってくる。
「おっと、危ない危ない……。あっ! あの赤い鳥、すっごい綺麗〜」
俺たちの前へ戻った次の瞬間、ニコルさんは急に空を見上げて走り出す。
「お、落ち着きがない!?」
『赤い鳥……行っちゃったぁ』
ニコルさんの奇行を見て、シモーヌさんとミミがまた同じタイミングでリアクションする。
「うおい!? 上を向いたまま走ったら危ないし、道に迷いますよ!」
「ッ!? まるもっちーって……頭いいね……」
俺の声を聞いて制止したニコルさんが、驚愕の表情でこちらへ振り向く。
「しっかりしてください。このままじゃ、また遭難しますよ」
「大丈夫、次は油断しないから……。森は危険が一杯だよ……」
注意深く辺りを警戒し始めるニコルさん。
この人、どうやってここまで来たんだ……?
「今のところ危険な要素が一切無いのが不安だ」
「まるもっちーさん、悪いことは言いません。ニコルさんに案内してもらうのは止めて、私たちに付いてきてもらいましょう」
俺の呟きを聞いた、シモーヌさんが深刻な表情で助言してくれる。
「そ、そうですよね。その方がいいですよね」
ほんの数秒での方針転換。それだけの不安材料を見せ付けられてしまったのだから、仕方ない。




