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86 不審人物と遭遇。とんでもない事態に!


 橋の一件から数日。


 崖を飛び越えたことでシモーヌさんに苦手意識が芽生え、走る速度を落とし頻繁に休憩を挟んだ結果、それなりに日数が経過してしまった。


 次があればもう少し手加減しないと……。反省だ。


 俺は速度に注意して走りながら、周囲を見渡す。


 辺りの雰囲気が随分と変わってきた。


 今まではどこを見ても森だらけだったが、草原のような場所がちらほらと混じるようになってきたのだ。


 きっとああいう地帯にアックスブルがいたんだろう。


「そろそろのはずなんだけどな……」


「距離的には近づいていますね。というか、徒歩の冒険者が、こんな身軽な装備で、こんな短期間で、到着できる場所じゃないんですけど……」


 ブツブツ言うシモーヌさんに苦笑を返していると、胸ポケットから顔を出したミミが尋ねてくる。


『また、高いところから探す?』


「ん〜、このまま進んでも大丈夫な気がするけど、一応ゴールを確認しておくか」


『マスター、あっちに丘があるよ』


「じゃあ、そこに行ってみようか」


 このまま街道を道なりに進めばその内着くのは確実だ。


 だが、あとどの位で着くのか。それが分かって進むのと、はっきりしないままに進むのとでは、気持ちの上で随分と違う。


 ゴールまでの距離が気になった俺は、見晴らしの良い場所からシプレの街を探してみることにする。


 近そうなら、ちょっと無理をしてでも走りきってしまうのも手だしね。


 まだ遠そうなら丘の上で夜空を見ながら野営するのも悪くない。


 俺は近場の森へと入り、高台を目指して歩きはじめた。


「おや、こんな所で迷子かな?」


 しばらく進んでいると、正面から遭遇した人に声をかけられる。


 マントをした冒険者風の女性だった。


 褐色の肌に濃い藍色の髪はショートヘア。


 頭部からは猫の耳らしきものがひょっこり顔を出していた。


 元気な笑顔と褐色の肌が、日焼けした運動部の学生を連想させる。


 なんとも快活な雰囲気のある人だ。


「いえ、ちょっと高いところから周りを確認しようと思って」


「そっかそっか〜。そういうのって大事だよね〜、分かる〜」


 マントの女性はうんうんと頷く。


「はい、それじゃあ失礼します」


「は〜い、気をつけてね」


 俺は女性に見送られる形で、丘を目指した。


 …………が、しばらく進んだあと、どうしたものかと振り返る。


「あの……?」


 後ろには件の女性が付いてきていた。なぜ?


「うん? 何かな」


 俺の視線を受け、マントの女性が不思議そうに猫耳をピコピコさせながら首を傾げる。


「なんで付いてきてるんですか?」


「偶然だよ。たまたま進む方向が同じだっただけだから。気にしないで」


「……わ、分かりました」


 偶然と言われると、どうしようもない。


 あきらめた俺は気にしないことにして、丘を登った。



 …………



「着いた〜! 凄い眺めだなぁ」


『風が気持ちいいね!』


 丘のてっぺんに着き、ひと息。


 見晴らしが良く、吹きつける風が心地良い。

 天気もいいし、最高だ。


「お二人と行動していると、感覚がおかしくなってきます……。なんで、あっさり登山して登頂しちゃうんですか……」


 うん、丘と思ったら山だった。


 一気に登りきったら、シモーヌさんから呆れられてしまう。


『マスター、あれかな?』


「おお、きっとそうだ。あれがシプレの街かな」


 ミミが指差す方を見れば、高くて厚い壁に囲まれた街を確認できた。


 壁は大半が崩壊し、木の足場が代わりに設置されているのが分かる。


 きっとブラックドラゴンにやられたんだろう。


 街の様子はここからでは小さすぎてわからないが、壁があれだけ壊れているなら、家屋にも被害が出ていそうだ。


「そうだよ。君はシプレの街を目指しているの?」


「まだいた!?」


 聞き覚えのない声で返事が返ってくると思ったら、森中で遭遇した人が隣にいた。



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