84 跳躍した結果、とんでもない事態に……!
上流に行けばさっき見た吊り橋があるけど、そこまで移動する必要もないだろう。
「今何とおっしゃいましたか!?」
シモーヌさんが聞き捨てならないといった表情で大声を出す。
俺はそんなシモーヌさんをスルーして横抱きにすると、ミミに声をかける。
「ミミ、しっかり掴まっていてね」
『掴まりました!』
ポケットの中のミミに指示を出せば、ワクワクしているのを隠しきれていない元気な返事が返ってきた。
ミミが身構えたのを確認した俺は助走をつけるため後退。
五十メートルほど移動したところで立ち止まり、目標を見据える。
「まるもっちーさん! 話を聞いてください!」
シモーヌさんが俺の胸を叩いてくるが、話は崖を飛び越えたあとにでも聞けばいいだろう。
「よし、行くぞ〜!」
俺は皆に合図を送ると、一気に駆け出す。
速度を目一杯上げ、崖のそばに辿り着くと同時にジャンプ。
『キャー♪』
「キャァアアアアアアアアアアアッ!?」
二人の奇声を聞きながら向こう側まで跳躍し、滑るようにして着地する。
大成功だ。
「余裕だったな……」
うん、楽勝だった。
着地点を見れば、崖から五倍以上離れた所だ。
これならもう少し力を弱めて、衝撃を少なくするようにした方が良かったかもしれない。
『すごーい! 飛び越えちゃった!』
目をキラキラと輝かせ、大興奮のミミ。
「死ぬかと思った……。死ぬかと思いましたよ!!」
目の光を失い、涙目で俺の胸をたたき続けるシモーヌさん。
なんとも両極端な光景である。
「す、すいません。でも、どれだけ説明しても飛ぶことに反対したでしょ?」
そんな気がする。そうなると結局押し切って飛ぶことになるんだよな。
「しますよ! 普通はします! して悪いですか!?」
目を見開いたシモーヌさんが三段階に声を荒らげてくる。う、ちょっと怒らせちゃったか。
「お、落ち着いて下さい。絶対跳べる確証がないとやらないですって」
「もうっもうっ! 本当に怖かったんですからね!」
切れたシモーヌさんが両手で俺の頬を摘まんで引っ張ってくる。ご、ごめんなさい。
『大丈夫? もう怖くないよ?』
心配したミミがシモーヌさんの体を優しく擦っていた。
「うう」
取り乱したシモーヌさんだったが、ミミに体を擦ってもらい、少し落ち着きを取り戻しつつあった。
「しかし、このままだと他の人が立ち往生しちゃうな。一応遠くに吊り橋があったけど……」
折角土砂を撤去しても、これでは渡れない。
さっき見つけた吊り橋まで移動して渡り、またここまで戻って街道を進むのはかなり手間だ。
「ここに一番大きな橋があったわけですからね。別の橋のある場所が、ここから離れているのは仕方ないですよ」
シモーヌさんの言葉に、それもそうかと納得する。
巨大な橋があったのに、その隣に小さな吊り橋を建てる意味が無い。
『マスターみたいにジャンプしないの?』
「普通の人には難しい幅なんだ」
『ミミでも無理?』
「どうだろう。今のミミなら案外飛べそうだけどな……。届かなくても蔓を伸ばして掴まればいけるんじゃない?」
ミミなら、意外といけそうな気がするんだよな。
『そっかぁ! それならミミでもできそうだよ!』
ミミがパッと顔を輝かせて笑う。うん、やっぱり渡れそう。
「ミミちゃんが何を言っているか分からないですが、雰囲気から察すると、ミミちゃんもここを渡れちゃうんですね……」
「ええ、多分。でも俺たち以外が通れないのは不便だよなぁ。石で塞いだら、水をせき止めちゃうしなぁ……」
崖のずっと下は川になっていた。糸のように小さく見えるが、かなりの水量だ。
アイテムボックスにある岩を放り込めば、橋っぽいものができるかもしれない。
しかしそれだと、水をせき止めてしまう。
それでは駄目だ。
「ん、そうだ。ミミの力を使って、蔓や木で橋を作れない?」
思い付きを口に出し、ミミに聞いてみる。




