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82 お留守番。別行動中にとんでもないことに……!


「も ち も ち 波ァッ! 波ッ! 波ッ!」


 俺は魔法を連射し、周囲の急勾配を削り取った。


 何度も撃って、納得いくまで平らにしてしまう。


 絶妙な力加減を要求される作業だったためか、随分と無属性魔法の射出にも慣れてきた。


 これは案外いい練習になったかも?


「こんなものかな?」


『すっきり!』


 全てを取り去り、随分と見晴らしが良くなった。


 これなら土砂崩れが再発する事もないだろう。


「これでバッチリだな」


『やったー!』


 屈み込んだ俺はミミとハイタッチ。やり遂げた感があって、気分が良い。


 俺たちが喜びをかみ締めていると、妙に気の抜けた声が横から聞こえてくる。


「ぇぇ〜……?」


 視線を向ければ、口を半分開けた状態のシモーヌさんが、土砂が無くなった場所をぼんやりと見つめる姿があった。


「シモーヌさん? 大丈夫ですか?」


 声をかけるも、反応が薄い。


「……かしい。…うなってるの……?」


 こちらの声に気付かず、ボソボソと独り言を呟く。


『大丈夫?』


 心配になったミミがシモーヌさんの服の裾を引っ張って呼びかける。


 すると、ハッと我に返る。


「どうしたんですか?」


 俺が声をかけると、シモーヌさんがガバッと掴みかかってきた。


 目を見開き、俺の肩をガクガクと揺する。


 こ、怖い。


「何なんですか、今のは!?」


「魔法です」


「見たことありません!」


「珍しい属性らしいです」


「威力がおかしいです! しかも途中から魔法名を略して連射していましたよね!?」


「何度か使って慣れてきたんですよ」


「ちゃんと答えてもらっているのに平行線な感じが否めない!」


「これ以上答えようがないです……」


 ちゃんと答えたのに、納得していない表情で爪をかむシモーヌさん。


『かっこいいでしょー?』


 ミミが自分のことのように胸を張って自慢げに振る舞う。


 く、かわいいな。


 魔法のことはさておき、土砂を撤去できたのは良かった。


 これなら誰でも安全に通行できるだろう。


 そうなってくると、さっき情報を教えてくれた人にも伝えておきたいな。


 ついでだし、ここまで運んであげるのもいいかもしれない。


「すいません、ちょっと行って来ますんで、しばらくここで待っていてもらってもいいですか?」


 思い立った俺はシモーヌさんにこの場を離れることを告げる。


 さっき話した人をここまで運ぶ可能性があるので、シモーヌさんには残ってもらう必要がある。


 二人同時に運ぶとなると両脇に抱えるしか手段がない。


 さすがにそんな体勢で長距離を走れば、運ぶ相手に負担がかかってしまう。


「え? どこに行くんですか?」


「さっき、シモーヌさんが休んでいる間に人と会ったんですよ。その人に土砂が撤去できたことを教えておこうと思って……。よし、できた。簡単に組み立てられるんだな」


 俺はシモーヌさんに説明しながら、アイテムボックスから取り出したテントをてきぱきと組み立てた。


 といっても折りたたみ状態からワンボタンで展開されるお手軽機構搭載だ。


 後は四隅にペグを打ち込むだけ。たたむ時もワンボタン。このテント、よく出来ているな。


 周囲の景色に溶け込むと言っていたので光学迷彩のようなものかと思ったら、どちらかといえば擬態のように表面の生地の色が変わる仕様だった。


 周囲の景色に合ったカラーリングの迷彩柄を表示する仕組みだ。


 ちょっとイメージと違ったが、離れて見ると案外分からない。


 なかなかいい感じである。


『マスター、入っていいの?』


 ミミが完成したテントに目を輝かせる。


「いいよ。しばらくそこでお留守番していてくれるかな」


『え、一緒に行ったらだめなの?』


「全速力で走るから、すぐ戻ってくるよ。待っていてくれる?」


『ミミ、お留守番頑張る!』


「ありがとう。その間、シモーヌさんを守ってあげてね」


『任せて!』


「任せた!」


 頷きあった俺とミミはハイタッチ。頼もしい限りだ。


 長時間離れたり、ここが危険な場所だったりするなら別の手段を考えるが、数分で終わる作業だし、大丈夫だろう。


「というわけなんで、シモーヌさんもミミと一緒にこの中で待っていて下さい。二、三分で帰ってこられると思いますんで」


「え、え?」


「お餅モチモチまるもっちー!」


 俺は説明しながら全身に魔力を巡らせ、名乗魔法を発動。


「それじゃあ、行ってきます」


 シモーヌさんの返答を待たずに駆け出した。



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