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72 とんでもない相手からスカウトされることに……!?


 その後、事態は収拾され、結界装甲陸船は無事運行再開となった。


 問題のビッグホーンライノに関しては、襲い掛かってきたが大きな音が出る魔法で驚かせて追い払ったという話に纏まった。


 周囲に残った破壊の痕跡はビッグホーンライノが暴れまわって出来たものとして片付けられた。


 懸念していたビッグホーンライノの目撃者は、俺たち以外にも結構いた。


 そして、無属性魔法で消し飛ばした時、全員倉庫に避難していたのが幸いした。


 この二つのお陰で、気が付いたら逃げていたという理屈を強引に押し通せたのだ。


 まあ……、ごん太の溝ができている状況を見て、皆薄々違うんじゃないかと思っているだろう。


 だが、関わりたくないという気持ちと、運行再開して欲しい気持ちがそれに勝った。


 皆、口をそろえて“マチガイナイ、ビッグホーンライノハニゲダシタンダ、ソウナンダ”と言っていた。


 といっても、逃げたということで話を終わらせてしまうと、後に討伐隊編成やら、航路の見直しをしなければならない。


 だからジョゼラさんとヴィヴィアンさんから事実を上に報告するとのこと。


 まあ、丸く収まるならそれでいいか。


「色々と納得できない部分はあるが、怪我人もなく損傷も最小限でビッグホーンライノをしりぞけられたのは間違いない。そのことは感謝する」


「本当よね……。こんな状況で怪我人がいないなんて、本当はありえないわ。貴方のことは伏せて通りすがりの謎の冒険者集団がやった、ということで報告しておくわ。この威力、公にすると、もう一騒ぎ起きるからね……」


 ヴィヴィアンさんが肩をすくめながらため息を吐く。


 てっきり俺の名前を出して報告するのかと思っていたら、その部分もぼやかしてくれるとのこと。これは助かるな。


「ありがとうございます。それで納得してもらえるでしょうか」


 謎の集団がビッグホーンライノを倒して、名も告げずに颯爽と立ち去った。


 聞けば、かっこいい話ではある。だが、うそ臭い……。


 窓から入ってきた猫が冷蔵庫を開けてプリンを食った、と言う口の端にプリンがついた子供の供述並にうそ臭い。


「私一人だと説得力に欠けるかもしれないけど。あと一人当てがあるから大丈夫よ」


「うむ。任された」


 ヴィヴィアンさんが視線を向ければ、ジョゼさんが力強く頷いてくれる。


「二人とも、ありがとうございます」


「まあ、これくらいは当然よね。下手したら死者が出ていたかもしれないんだから……。そんなことより――」


「なんでしょう?」


 話題を変えながら俺の肩に手を回すヴィヴィアンさん。


「うちの工房に来る決意は固まったかしら? 錬金術、学びたいんでしょ? 今、はいと言うなら、色々とオマケをつけて歓迎するわよ」


「すいません。俺には行くところがあって、ミルティユの街が目的地ではないんです」


 この結界装甲陸船が向かうのはミルティユの街。そこが終点でもある。


 そして、二人の工房があるのもミルティユの街。


 だが、俺の目的地はシプレの街だ。お肉を届けに行くところなのである。


「あら、そうなの? 残念ねぇ」


「それに……」


 スカウトを受けたのは素直に嬉しい。でも……。


「それに?」


 ヴィヴィアンさんが、続きを促す。


「もし、錬金術を学ぶのであれば、教えていただく先生は決まっていますから。ねえ、ジョゼ先生?」


「ッ!?」


 ジョゼさんは、自分の名前が呼ばれると思っていなかったのか、驚きの表情で固まっていた。


「あら、早い者勝ちってわけね。それなら仕方ないかしら」


 さして残念そうでもない表情のヴィヴィアンさん。


 むしろ、いたずらっぽい笑みを浮かべながらジョゼさんの方へ視線を送っている。


 これは初めから狙って誘ってきたんじゃないだろうか。


「そ、それは私の助手になってくれるということかい?」


「はい。むしろ、俺を助手にしてもらえませんか?」


「もちろんだとも!」


「と言っても、俺には用事があります。そちらに伺うのはずっと先になると思いますが、構いませんか?」


 錬金術は学んでみたい。だが、それは後回し。


 まずはシプレの街の状況を確認したい。


 もし、酷い状態なら復興作業を手伝いたい。


 ブラックドラゴンが通ったらしいし、全くの無傷ということはありえない。


 街道も封鎖されて、定期便が通っていないそうだし、俺でも手伝えることが何かある筈だ。


 そうなると、ミルティユの街へ訪ねるのはしばらく先になってしまう。


 そのことをジョゼさんに確認しておく。


「いつでも歓迎さ!」


「ありがとうございます。それでは用が済み次第、錬金術のご教授、よろしくお願いします」


 ジョゼさんに頭を下げる。


「任せたまえ! ビシバシ鍛えてやるとも!」


 頬を上気させ、興奮のせいか声が大きくなるジョゼさん。


 ジョゼさんからも快諾を得たし、しっかりと勉強させてもらおう。


 その時には呼び方も先生に変えるべきだろうな。いや、師匠かな?


 錬金術か、楽しみだな。



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