71 魔法発動! とんでもない結末に……!
「行ったか……」
『マスター、石を投げるの?』
「それで倒せそうだけど、その後がなぁ……」
ミミの問いかけに、腕組みして考え込む。
ビッグホーンライノをミミと二人で倒したとなると、大騒ぎ間違いなしだ。
投石で攻撃すると、どうしても死骸が残ってしまう。
アイテムボックスに回収しようとすれば、タイムラグが発生する分、目撃者が増えそうだ。
「やってみるか……」
俺はそう呟くと、右手を前に突き出し魔力を集束させる。
限界まで魔力を集めると手が震え出したので、左手で強引に押さえ込む。
やってみて分かったが、うまく出来ていない。
何かしらコツのようなものがあるのか、やり方が間違っているのか。魔力を集めても、かなりの量が散っていく。俺はそれを気合で押し留める。
「無属性の魔法っていうのは、溜めてぶっ放せばいいんだろ……」
俺が試そうとしていたのは、無属性魔法の使用。
うまくいかなければ投石に切り替えるが、一発は試してみる。
これで消し飛ばすことが出来れば証拠隠滅できる……。
浅はか考えだが、咄嗟に思いついたのはそんなことだった。
「い、行くぞっ!」
右手に集束した魔力が唸りを上げる。
これ以上留めるのは不可能だ。撃ち出すしかない!
「も ち も ち 波ァアアアアア――――!」
気合の一声と共に、ために溜めた魔力を右手から解き放つ。
すると、手のひらから特大の光線が発生。ビッグホーンライノ目がけて飛んでいく。
もちもち波(仮名)は拘束されたビッグホーンライノに直撃。跡形も無く消し飛ばした。
「やった……! これで証拠隠滅………………。いや、これはこれでマズイか……」
『マスターすごぉい! もちもち波、カッコイイ! ミミも撃ってみたいの』
ミミが歓声を上げるも、俺は自分がやってしまったことに冷や汗が止まらない。
ビッグホーンライノの存在を消すことには成功した。ばっちりだ。
体毛の一本も残っていない。
しかし、それと同時にモチモチ波の大きな爪跡を残してしまった。
地面は大きくえぐれ、木々は消し飛び、遠方にある山肌が削れている。
夕陽による照明効果でドラマチックに演出され、余計に目立っている始末。
――これはヤバイ。
残された特大の痕跡が、誰が犯人かを如実に示す状況証拠となってしまっている。
これは隠滅不可能。やってしまった……。
「魔力の集束に失敗していたし、相当威力が落ちていた筈なんだけどな……」
眼前の惨状を見ると、フルパワーで発動しなくて良かったと別の意味で安堵してしまう。
完全な状態で発動していたら山が消し飛ぶどころの話ではなかった。
「よし、説明したまえ。私たちに納得がいくようにな!」
「凄い音がして外に戻ってみればこれよ。意味不明にもほどがあるわ!」
そんな声が聞こえて振り向くと、腰に手を当てて眉間に青筋を立てたジョゼさんとヴィヴィアンさんがいた。
二人とも、困惑を通り越して呆れ怒り顔とでもいうような状態になっている。
二人に包囲され、説明しろと詰め寄られる。ジワジワと間合いを狭められ、逃げ場が無くなっていく……。
「相手が相手だったので、ぶっつけ本番で無属性魔法を試してみました。で、なんやかんやあってこんな感じになりました」
「大事な部分があやふや!」
「新手の黙秘か!?」
俺の釈明を聞き、憤慨する二人。
「「全く納得がいかない!!!」」
と、声をそろえた後、
「何かしらの魔法が発動したのは間違いないのだろう……。こんな威力の魔法を単独かつ、短時間で発動させられる人なんて初めて見たがな! 一体君は何をやったんだ!?」
俺を揺さ振りながら問うてくるジョゼさん。
「魔法で消滅させました……、多分?」
無属性魔法だと思うけど、どうなんだろう。
初めて使ったから確証がない。
「どう説明するのよ! 皆避難させていたからビッグホーンライノを目撃している人自体ほとんどいないのよ!? 結界装甲陸船に欠陥があるって難癖つけられたらどうしてくれるのよ!」
目を見開いたヴィヴィアンさんが俺の両肩を掴んでジッと見てくる。
あ、圧が凄い……。
「まるもっちー君に目がいってしまうが、ミミ君もおかしい……。なんでビッグホーンライノを拘束できるんだ……。そんなことができるのなら、ビッグホーンライノ以下のモンスターなら絞め殺せるんじゃないのか……?」
と、ミミを見つめるジョゼさん。
『やったね!』
今一つ状況を理解していないミミは大喜び。
「「……色々おかしい!!!」」
「…………この際、逃げてしまうか?」
『かけっこ?』
ビッグホーンライノは消し飛んで、結界装甲陸船は無事。しばらくすれば、運行も再開するだろう。
危機は去ったわけだし、無理にここに留まる必要はない。ひとまず身を隠すか?
「「聞こえてるから!」」
残念ながら逃亡は難しそうだ。




