70 苦戦! とんでもない状態に……!
「俺がなんとかしてきますよ」
「「はぁ!?」」
驚く二人を尻目に、俺は屈伸。準備運動をして、体をほぐしていく。
このやわらか餅ボディでほぐす必要があるかどうかは疑問が残る。
けど、やっておいた方が気分が落ち着くんだよね。
「ただ、この場で戦うと陸船に被害が出るかもしれないので、誘導します。その間に、修理と乗客の避難を」
ビッグホーンライノをどう誘導するべきか……。
餅を餌に釣るのは、相手の空腹状態に左右される。
ここは一発当てて、注意を引くのがいいかな。
「君は何を言っている!? 確かに君は強いと思うが、相手を考えろ!」
「そうよ、自殺行為だわ。ここは全員の魔力を使って結界の強化をするべきよ!」
反対意見が飛び交う中、事態は急転、結界に亀裂が生じた。
パリンとガラスが割れるような音とともに光る破片が飛び散り、結界が崩壊していく。
いよいよもって、まずくなってきた。
「結界が壊れるわ! 皆、何かに掴まって!」
ヴィヴィアンさんが叫ぶのと同時に、ビッグホーンライノがこちらへ突進して来る。
とどめの一撃と言わんばかりに体当たりした次の瞬間、結界が粉々になって飛び散った。
完全崩壊だ。
まずい……、このままでは次の一撃で船体も壊されてしまう。
「……じゃあ、行ってきますんで、後はよろしく。ミミ、小さくなって」
『了解だよ!』
俺は二人に外へ出ることを伝え、返事を待たずに駆ける。
小さくなってもらったミミを胸ポケットへ入れるのも忘れない。
そして手すりに手をかけ、夕陽が眩しい船外へと飛び出した。
「あ、コラ!」
「待ちなさい!」
二人の声を背に、俺はジャンプ。
「おりゃああああああ!」
勢いもそのままにパンチを繰り出した。
といっても格闘技など全く経験がない手探り感丸出しの攻撃。
何かを殴ったことなんて一度も無いんだからしょうがない。
いや、室内照明の紐スイッチでシャドーならやったことあるけど……。
そんな俺が繰り出すパンチは、ただ単に腕を突き出しただけのもの。
当たれば御の字のへなちょこ拳であった。それでも当てるだけなら問題ない。
ビッグホーンライノは体当たりの影響で陸船に密着していた。
そのうえ、体当たりをした後で隙だらけ。このまま行けば自動的にヒットしてくれる筈。
的がデカくて助かったな。
思惑通り、突き出した拳がモンスターの顎にめり込む。
次の瞬間、ビッグホーンライノの巨体が大きく吹っ飛んだ。
「「えっ!?」」
驚く二人の声が背後から聞こえる。
空中で拳を繰り出した俺はすとんと着地。
吹き飛ぶビッグホーンライノを追走。一気に接近し跳躍。再度横方向へと殴る。
殴られて吹っ飛んでいたビッグホーンライノに俺の拳をかわす術はなく、これも見事にヒット。
巨体が街道から森の方へと方向転換しながら空を飛ぶ。
これで陸船の進路からビッグホーンライノを排除した。
「ミミ、蔦か根っこでアイツを縛ってくれ!」
『任せて! 根っこさん、いっぱい出て!』
ミミが返事を返しつつ、両手を前に突き出す。
すると、転倒したビッグホーンライノが太い木の根に絡め取られ、行動不能になった。
よし、成功だ。
「「え!?」」
「何やってるんですか! 早く対策を!」
驚いて固まる二人に振り返って叫ぶ。こっちを見てる場合じゃないよ。
俺の言葉を聞いて二人はハッと我に返る。
「私は結界を修理してくるわ。ジョゼは乗務員と一緒に乗客を避難させた後、船を発進させて! 逃げ切るわよ!」
「任せたまえ、ちゃんとやってみせる! だからこちらは気にせず、修理に集中するんだぞ!」
ヴィヴィアンさんの言葉を受け、ジョゼさんが強く頷く。
人見知りなはずなのに、体を強張らせながらも必死に動こうとしている。
二人はバチンと手を合わせると、それを合図に行動を開始した。
ビッグホーンライノは身動きが取れないし、これでなんとかなりそうだ。
今の内にこちらも、やれることをやっておこう。




