69 強襲! とんでもないモンスター現る……!?
「……あれは、サイ? 凄い大きさだな……」
巨大なサイが結界装甲陸船に体当たりをしていたのだ。
そのせいで運行は中止。大きな揺れが発生していた。
サイが体当たりすると、周囲にバリアのようなものが展開され、直接の接触はしていない。
あれが結界だろうか。
「まずいわ、ビッグホーンライノよ……」
ヴィヴィアンさんの呟きで、モンスターの名前が判明する。
「なぜこんなところに……。アレは、もっと森の奥深くに生息しているはずだぞ。街道で遭遇していいモンスターじゃない! 正面にいるから避けて進むこともできない。あれじゃあ、逃げられないぞ」
「参ったわね、後退だと速度が出ないし……。そもそも全速力を出せたとしても、追いつかれるわ」
二人の話を聞くに、かなりのピンチみたいだ。
凶悪なモンスターが現れ、逃げるに逃げられない。
「ビッグホーンライノは図体がデカい割に速いからな……。しかし、間近で見ると本当に大きいな」
「さっきの揺れは体当たりだったんですね」
俺はジョゼさんの隣に移動しながらビッグホーンライノを見る。
この陸船は甲板までの高さが小さなビルほどある。
それなのにビッグホーンライノの頭部が余裕で見える。相当なデカさだ。
そんな巨体が角を活かした体当たりを繰り返せば、船内が大きく揺れるのも当たり前。
むしろ、これだけ体当たりを食らって、揺れだけで済んでいるのが不思議なくらいだ。
船体に傷一つついていないことに陸船の凄さを思い知らされる。
「ええ、この乗り物は結界装甲陸船と言うだけあって、モンスターの攻撃に耐えられるように作られているわ。でも……、ビッグホーンライノはさすがに想定外よ……」
「おい、設計者! 想定外ってどういうことだ! このままだとまずいのか!?」
ヴィヴィアンさんの弱々しい言葉に、ジョゼさんがかみつく。
「うるさいわね、随伴者! ビッグホーンライノを想定して設計したら過剰防備になり過ぎるのよ。そんなもの、やり過ぎって設計段階で突っ返されるに決まってるでしょうが! いくらかかると思ってるのよ!」
「それはそうだ!」
「分かってくれてありがとう!」
ガッチリと握手を交わす二人。
ほんと仲がいいな。
和解する二人の背後では、船体やマストからミシミシと不穏な音が聞こえてくる。
「で、結局、この船はどうなるんでしょう?」
現状、非常にまずい事態というのは把握した。
何か打開策はあるのだろうか。
「「そのうち大破して、皆、ビッグホーンライノに食べられる」」
険しい表情の二人が、抑揚のない声をそろえて言う。
「く、こんなことなら、机に体を縛り付けてでも外に出るべきじゃなかった。私は外が嫌いなんだ! 部屋の中が一番落ち着くんだ!」
ジョゼさんは後悔の念を滲ませ、悔しそうに呟く。
危機的状況というのは分かっているが、何とも言えない発言だな、と思ってしまう。
「うるさいわね! あんたが工房にこもりっきりだったから、気分転換になるかもしれないと思って無理矢理随伴者枠に突っ込んだのに……。本当にごめんなさい……」
ヴィヴィアンさんはいつもの調子でまくし立てようとするも、途中で歯切れが悪くなり、最後は俯いて謝った。
「謝るな! 君の設計した結界装甲陸船はこんなことで壊れたりしない! 本当はヴィヴィの設計した船の出発式だから、お祝いしようと思って付いて来たんだ! 愚痴って悪かった!」
ジョゼさんがヴィヴィアンさんの両腕を掴み、檄を飛ばす。
その内容にはちょいちょい労いと賞賛の言葉が含まれていた。
それを聞き、ハッと顔を上げるヴィヴィアンさん。
「ジョゼ……」
「ヴィヴィアン……」
そして見つめ合う二人。
「そうだ……、これを」
そう言って腕時計を差し出すジョゼさん。
「これは……、貴方が作ったのね。付与魔法までほどこしてある……」
「船が完成したお祝いだ、受け取って欲しい。その……、なんだ、本当は、もっと早く渡すべきだったんだが、中々タイミングがつかめなくてな」
ジョゼさんは照れてヴィヴィアンさんの顔を見れないのか、そっぽを向いたままたどたどしく言葉を紡ぐ
「……ありがとう、大切にするわ」
ヴィヴィアンさんは両手で大事そうに腕時計を包むと、ジョゼさんへ向けて微笑んだ。
これで一件落着、仲直り。非常に良い雰囲気である。
まあ、ガンガン揺れてるけどね……。
ここは俺も一肌脱ぐか。




