68 巻き込まれて、とんでもない事態に……!?
「あら、私が優秀なのは確かだけど、ジョゼがそうだとは到底思えないわね。その部分は知らない人が聞くと誤解してしまうから、しっかりと訂正しておくわ」
「ふざけるなぁああッ! 私の方が君より優れている!」
「あら〜、聞き間違いかしらぁ? 誰かさんが私より優秀って言っているのが聞こえた気がしたけどぉ」
「聞き間違いではない! 本当のことだ!」
「片や助手が十人いる売れっ子錬金術師。片や助手が一人もいない上に成果の出ないことに勤しんで工房に引きこもっているオチビさん。どちらが優れているかなんて一目瞭然よねぇぇえええ!」
「う、うるさい! 結果ならもうすぐ出る、予定だ……! あと、チビは関係ないだろ!」
「去年もそんなこと言ってなかったかしらぁ? それに助手の数でも大差がついているし、お話にならないと思うんですけどぉ?」
「うちは量より質なんだ!」
「それはそれはぁ……。それでお宅の質の良い助手さんは何人いらっしゃるのかしらぁ?」
「一人だ!」
「あらぁ、初耳ねぇ。ずっとゼロだと思っていたのに、いつの間に助手なんて出来たのかしら。それにしても、わざわざ貴方のところに行くなんて、その子も酔狂ねぇ」
「こ、この子だ! まるもっちー君だ!」
「ええ!?」
驚く俺。突然言われて、声とリアクションが若干オーバーになってしまった。
『マスター、助手さんだったの?』
「違うから!」
こてんと首を傾けるミミに否定する。
錬金術を学んでみないかと言われたが、助手の話は聞いていない。
ジョゼさんも売り言葉に買い言葉で、つい言ってしまっただけなんだろう。
「そこをなんとか!」
「頼まれた!?」
ジョゼさんが必死の形相でしがみ付いてきた。
涙目での懇願を受け、身動きが取れない。これは断りづらいぞ……。
「うふふ、やっぱり違うんじゃない。おかしいと思ったのよね」
「ぐぬぅ……、もう少しで勧誘できていたんだ。それをヴィヴィが邪魔したんだからな!」
「へぇ、ジョゼから勧誘したの? 珍しいこともあるものね。ふぅん……」
「な、なんでしょう」
尚もジョゼさんとヴィヴィアンさんの舌戦は続く。と、思っていたら視線がこちらへ……。
ヴィヴィアンさんがツカツカとこちらへ近づいてくる。そしてくいっと俺の顎を持ち上げて、顔を覗き込んできた。
「あら……、この子凄いじゃない。錬金術に興味があるなら、うちにいらっしゃい。そんなおチビの引きこもりのところに行ってもしょうがないわよ?」
「ぬわんだとぉおおおおお!」
「何かしらぁあああああ!」
言葉の応酬では飽きたらず、とうとう手四つで組み合い、力比べを始める。
二人の身長差はかなりのものだったが、腕力に差はないようだった。
相手を押し返そうと力を込めているのか、お互いプルプル震えている。
「二人とも落ち着いてください」
どう仲裁したものか。口論が収まりそうにない。
――もう、しっちゃかめっちゃかだ。
「とりあえず、ご飯にしませんか? ちょうど今、夕食を食べに行こうとしてたところですし。ね?」
俺は組み合う二人に向けて、一次休戦を提案。
ジョゼさんとヴィヴィアンさん。お互いに相手のことを相当意識してるんだなぁ……。
なんとか二人をなだめようとしていると、ゴウンッという音と共に大きな揺れが発生する。
今度は一体なんだ!?
「うお、地震か?」
『おもしろーい!』
慌てる俺の目の前で、揺れを楽しむミミ。
なんて大物なんだ。これは将来が楽しみだ。
それにしても揺れるな……。地震にしては長い。
「ジョゼ、勝負は一時お預けよ」
「うむ。外が見える所に移動するぞ、ヴィヴィアン」
揺れが始まると同時に、あっさり意気投合し、外へと向かう二人。
似た者同士のライバルって感じがする一幕だった。
「俺も行きます」
俺はミミを抱え、ジョゼさんとヴィヴィアンさんの後に続く。
しばらく走り、外へ出る。連絡通路を抜けて甲板の方へ移動すると、それは見えた。




