66 看病していると、ミミに異変が……!?
「というわけで、錬金術というのはとても素晴らしいものなのだ。……だから、……だな」
「大丈夫ですか?」
ついさっきまで、錬金術について熱く語っていたジョゼさんであったが、気分が優れないのか、言葉が詰まりはじめる。
「少し疲れが出たようだ。眠ればすぐ楽になる。すまないが、今日はこれで失礼するよ」
「お疲れだったのに、属性を見てもらってすみません。ゆっくり休んでください」
「構わないさ。しばらく、ろくに寝ていていなかったうえに、コレに乗ったからだろうな。しばらく安静にしていれば治るよ」
「それならいいんですけど。歩けますか?」
手を貸そうかと声をかけるも、ジョゼさんが手で制する。
「問題ない……。っと」
その返答とは裏腹に、足もとがフラフラして危なかしい。
「部屋までお送りしますよ」
俺はそう言うと、ジョゼさんを横抱きにした。
肩を貸せればよかったが、俺とジョゼさんでは身長差がありすぎる。
恥かしいかもしれないが、部屋まで我慢してもらおう。
「あ、ありがとう。思ったより疲れていたようだな」
ジョゼさんが照れくさそうにお礼を言った。
が、話しつつ俺の肩をモミモミしている。案外余裕があるな……。
「それじゃあ、行きますか。ミミもおいで」
『ジョゼさん、大丈夫?』
「大丈夫だよ」
俺は心配そうな表情をするミミに笑顔を向け、ジョゼさんの部屋へと向かった。
「よいしょっと。水でも飲みますか?」
ジョゼさんをベッドに寝かせ、尋ねる。
「いや、問題ない。このまま眠ることにするよ」
瞬間、ぐぅっとお腹の音が鳴る。それを合図にジョゼさんの顔が真っ赤になってしまう。
生理現象でコントロールが利かないことだし、気にしなくてもいいのに。
「何か食べ物をもらってきますよ」
「いや、それは……」
「いいから、寝ていてください。すぐ戻ってきますから」
俺は、レストランで事情を話し、スープを貰って部屋へと戻った。
「お待たせしました。あっさりしたものがいいかなと思って、スープを貰ってきましたよ」
「す、すまない」
申し訳なさそうな表情をするジョゼさんの隣に座り、スープをスプーンでよそう。
「はい、あーん」
「い、いや、自分で食べるよ」
そう言って上体を起こしたジョゼさんであったが、フラフラだ。
スープを渡すと零しそうだな……。
「っと、まだ本調子じゃないみたいですね」
俺はスプーンを置いて、ジョゼさんを支える。
ついでに額に触れてみると熱い。熱もありそうな感じだ。
「慣れない環境というのもあったのかもしれない……」
「はい。あーん」
なにやら呟くジョゼさんへ向けて、俺は再度スープをよそったスプーンを近づけた。
「い、いただこう」
観念したジョゼさんがスプーンを受け入れ、スープを飲んだ。
俺は再度スープをよそってスプーンを往復させる。
お腹が鳴っただけあって、食欲は旺盛なみたいだ。
「どうですか、食べれそうですか?」
「ああ、美味しいよ」
照れくさいのか、視線をそらして俯いたままジョゼさんが言う。
服の裾が引っ張られるのを感じて下を向けば、ミミが見つめていた。
『マスター! ミミもしてほしいな』
「ん、どうしたの」
『あーん、してほしいの』
人から食べさせてもらえる光景が珍しかったのか、ミミがおねだりしてくる。
「うーん、こういうのは元気のない人にしてあげることなんだ。ミミはどう?」
『そうなんだ。ミミは元気だから大丈夫だよ!』
と、言うも、ちょっと残念そう。
分かってくれたみたいだし、ちょっとだけやってあげるか。
「うんうん。だから一回だけね?」
『やったぁ!』
相当して欲しかったのか、大喜びだ。
俺はミミ用のスプーンを出すと、スープをよそって近づけた。
「じゃあ、あーん」
『あーん』
満面の笑みでスープを頬張るミミ。
「どう?」
『んふー♪ マスターにあーんしてもらっちゃった』
ミミは満足げに鼻を鳴らし、両手を頬に当てて、その場でクルクルと回る。
スープの味より、食べさせてもらえたことが嬉しくて仕方ないみたいだな。
「満足してくれたようで何より」
こんなことで喜んでくれるなら、またしてあげてもいいかなぁ。
俺はそんなことを考えつつ、餅スキルで月見団子を三個出す。
当然、月見団子には癒やしスキルを注いでおいた。
「ついでに甘い物もどうですか?」
と、勧めてみる。
発熱や疲労くらいなら、これを食べれば回復すると思う。
まあ、無理に食べさせるのは押し付けがましいし、断られたら自分で食べるかな。
「うん、これくらいなら食べられそうだ。いただこうかな。ほう、珍しい甘味だね」
ジョゼさんは、月見団子を一つ取って食べてくれた。
味も好評でよかった。
「ミミも食べる?」
『うん!』
「じゃあ、俺も」
ミミを膝の上に乗せ、皆で月見団子を食べて、ひと息つく。
「軽く食べたせいか、随分と楽になったよ。というか、不快感がない。まるで全快したかのようだ……」
「それは良かったです。それじゃあ、しばらく横になって休んでいて下さい」
後はしっかりと睡眠を取れば、ずっと楽になるはず。
「ありがとう。そうさせてもらうよ」
「それじゃあ、一旦失礼します。後で様子を見に来ますね」
いつまでも俺たちがいると気が休まらないだろう。
だが、ただの疲れではなく病気だった場合も考えて、しばらくしてから様子を見に行くことを約束しておく。状態が改善しないなら、医者に診てもらうべきだろう。
早く元気になるといいなと考えながら、俺は部屋を後にした。




