6 迫る危機! まるもっちー追いつめられる……!
二人の予測を聞き、自分がまるもっちーとして、この世界に存在が固定化されつつあることに戦慄する。……餅か。いや、……まじか。
「まるもっちー殿! この際、名前のことは諦めて受け入れてください! それより大変なんです! 早く城から逃げないと!」
「そ、そうだった。このままだと、まるもっちーが囮にされるかもしれないんだ!」
「ごめんなさい、まるもっちー! 私たちは反対したんだけど、どうしようもなくて……」
「名前のショックから抜け出せないうちに、更に追い打ちが……」
三人の話を聞くと、どうやら俺はブラックドラゴンを引き付ける囮として利用されるらしい。
といっても意見は半々に割れ、最後まで結論が出ない状態で一旦会議は終了となったそうだ。
会議がそこまで荒れた理由。それは勇者召喚に莫大な費用がかかっていたためだ。
税金が大量にぶっこまれ、希少価値の高い資材も湯水のように使われた。
結果、召喚は無事成功。
しかし、これでブラックドラゴンが確実に討伐できると決まったわけではない。
勇者という強力な戦力の入手には成功したが、実際戦ってみないとどうなるかは分からない。
しかも、竜と勇者の戦闘が簡単に済むわけがなく、周囲に被害が及ぶのは確定。
そうなってきた時、オマケで召喚されてしまった俺の存在が問題となってくる。
当の本人からしてみれば、事故の被害者。
だが、召喚した側からすれば、莫大な費用を払って召喚した者たちの一人。
それをブラックドラゴン戦に投入しないのはおかしいのではないか、という意見が出て来てしまうのも、仕方が無いのかもしれない。
俺を戦闘に参加させずに討伐失敗、もしくは討伐に成功したものの王都に多大な被害が出た場合、確実に問題になってしまう。
それだけの金額が動いてしまっているのだ。
俺が弱い存在だからと言って、周囲を納得させることは難しい。
しかも税金ぶっ込んでるから、街の修復作業が滞るのは確定。
そんな中、何もしなかった俺の存在が明るみに出れば、市民の不満は俺と俺をかくまった人たちに集中してしまう。
というわけで会議は荒れに荒れたそうだ。
最後は王様の一声で、結果を出さずに一旦持ち越しとなった。
だが、囮に使われるのは回避できそうにないらしい。
それは、すでに地方がブラックドラゴンの被害にあっていること。
勇者召喚に大量の税金が投入されたこと。
討伐戦で更に大量の費用と被害が想定されること。
そういったことを考えると、俺が安全な場所でぬくぬくとしているのが許容できないのも頷けてしまう。
聞けば聞くほどに俺一人の命では、天秤が吊り合いそうにない話だ。
「だから逃げろって!」
「囮なんて本当に役立つかどうかも分からないし、確実に死んじゃいます!」
「いや、でも二人はブラックドラゴンと戦うんでしょ? 危ないよ。俺も出来ることがあるなら手伝いたいし……」
俺に逃げてくれと必死に言ってくる鷹村君と富士原さん。
だけど、二人は残る気満々。
ブラックドラゴンがどんなものか知らないが、どう考えても危ない。
そんなの相手に年下の二人を戦わせて、自分だけ逃げるのはどうかと思う。
「いや、俺らなら楽勝っしょ? 能力値めちゃ高かったし」
「うん。私たち二人なら、何とかできると思う。むしろ、まるもっちーは能力値が低すぎて邪魔になるかも」
多分、俺が逃げ出し易いように、気をつかってくれているのだろう。
しかし、二人の言うことも確かだ。俺は弱い。戦闘では何の役にも立たない。
身体を鍛えたり、武器を扱う練習をしたりする時間は残されていない。
今の俺にできることと言ったら、餅を出すくらいだ。
その餅で街の食糧事情に貢献できるかと言えば、疑わしい。
さすがにそこまで大量に出せる自信はない。
しっかりと検証できる時間があれば、俺に出来ることが見つけられたかもしれない。
が、逃げ出すには今しかないという……。
「分かった。今は逃げさせてもらうよ」