59 突如現れた謎の人物。その正体は!?
「部屋を出た後にはぐれてしまって、どうやっても部屋に戻れなくて困っていたんだ。そしたら迷子に会って、抜け出せなくなり……」
「あの時点で迷子だったのか!」
「そ、その通りだ」
「じゃあ一緒に捜しましょう」
「助かる!」
「とりあえず、ロビーの方に行ってみますか」
「は、はぐれたら困るので、手を繋いでも構わないかい?」
ジョゼさんがおずおずといった体で手を伸ばしてくる。
迷ったり、はぐれたりするような場所じゃないんだけどな……。
もしかして方向音痴なのだろうか。
俺はそんな事を考えながらジョゼさんの手を取った。
「どうぞ。じゃあ、行きましょう」
「…………モチモチだ」
手を握ると、ジョゼさんがクッションの柔らかさでも確認するかのように、もみもみしてくる。
ふ、普通に握ってほしいんだけど。
「出来れば揉まないでほしいんですけど……」
「ッ! すまない、つい! 揉むと落ち着くんだ……」
どうやら無意識に揉んでいたようだ。
俺の身体は魔性の柔らかさでもあるのだろうか。
「あーッ! ジョゼ!」
そんなことをしていると、背後から声が聞こえてくる。
振り向けばグラマスという言葉がぴったりくるようなボディラインの人がいた。
深めのスリットが入った服が目の毒だ。
なんかモデルみたいで、かっこいい人だな。
「ヴィヴィアン!」
と、名前を呼ばれたジョゼさんが驚く。
二人の反応からして、目の前の女性がジョゼさんが捜していた連れなのだろう。
名前はヴィヴィアンさんか。
「もう、どこに行ってたのよ。捜したんだから」
「すまない……、迷ってしまったんだ。こちらのまるもっちー君に助けてもらっていたところだ」
「何やってるのよ〜。しっかりしなさい」
「初めて来た場所なんだから大目に見ろ。私だって迷いたくて迷ったわけじゃないんだ」
「まるもっちー君? 私はヴィヴィアン。ジョゼを助けてくれて感謝するわ。この子、ちょっと抜けてるところがあって、たまにこういうことがあるのよ」
ヴィヴィアンさんが俺に視線を向けると、ふっと流し目で微笑した。
か、格好いい。様になるなあ。
「初めまして、まるもっちーと言います。俺は特に何もしてないですよ。合流出来て何よりです」
これから何かしようという段で、再会できたので特に何もしていない。
自己紹介をしていると、ジョゼさんが唇を尖らせて話に割り込んできた。
「抜けているとは聞き捨てならないな。君が私から距離を取って歩くから、はぐれたんだろ!」
「しょうがないでしょ。その姿、目立つのよ。貴方が隣に居ると、こんなに可憐な私が、可愛いぬいぐるみ好きって誤解されるでしょ?」
「何を言っている? 君の部屋は可愛いぬいぐるみだらけじゃないか。この体もヴィヴィが持っている物を参考にしたのに」
「ちょ、ちょっと! な、何を言ってるのか分からないわね!? と、ところでまるもっちー君はどこまで行く予定なの?」
「コラ、話をそらすな! 大体さっきから二人がかわいいからチラチラ見ているではないか」
二人でわちゃわちゃやっていると、ヴィヴィアンさんから質問が飛んで来た。
俺とミミがかわいいからチラチラ見ていたという部分には触れないほうがいいよね。
「ミルティユの街ですね」
ここは無難に、定期便の終点と答えておく。
目的地はシプレの街だけど、それを言うとややこしくなりそうだからね。
「あら、終点じゃない。それなら急がないし、近いうちにご飯でも食べましょ。お礼も兼ねてご馳走するわ」
「お誘いありがとうございます。本当に何もしていないので、料金は支払わせてくださいね?」
食事の誘いは嬉しいけど、お金は自分で払った方がいいよな。
本当に何もしていないので、恐縮してしまう。
「気にするな。ヴィヴィのお金だし」
「何言ってるのよ! 助けてもらった貴方が払いなさいよ!」
「それもそうか。よし、私が出そう。好きなだけ食べるといい」
「そういう切り替え早いところが、調子狂うのよね……」
「こちらが誘っているんだから、ご馳走させたまえ。じゃあ、また会おう。ヴィヴィ、行くぞ」
「ちょっと、先に行ったらまた迷うわよ! じゃあ、まるもっちー君、またね」
二人は怒涛の勢いで話すと、こちらの返事も待たずに行ってしまう。
俺は呆気にとられて手を振り返すしかなかった。
「口をはさむ隙がなかった……」
『あっという間だったね』
俺とミミは呆然と二人を見送る。
「まあ、俺たちはゆっくり行こうか」
『はーい!』
船内の探検は始まったばかり。
俺とミミは手を繋ぐと、のんびり歩きはじめた。
まずは、取ってある客室を目指そう。




