56 怪奇! とんでもないものが動く……!?
しかし、口が動いて喋っている。
そういう種族なのか、と一瞬思ったがどう見てもぬいぐるみだ。
生き物の気配がしない。
どうなってるんだ?
そんな中、迷子の女の子の方は完全に泣き止み、ミミを凝視していた。
俺がぬいぐるみに気をとられていると、女の子がミミの方へと近づいていく。
「ねぇねぇ、お兄ちゃんの隣にいるの、何?」
「この子はね、ミミっていうんだよ」
『こんにちは〜。ミミだよ!』
「わぁ!」
笑顔で手を振るミミを見た女の子は興味津々。
迷子になったことも忘れて、笑顔で手を振り返していた。
手を振るだけでメロメロにしてしまうとは……。ミミ、恐ろしい子。
しかし、これはチャンスだ。
女の子を落ち着かせて、情報収集していこう。
「そこに座って少し休憩しようか。お菓子もあるよ」
女の子の名前なり、母親の名前を聞ききたかった俺はそう言って、休憩所のソファを指差した。
「うん!」
『行こ〜』
女の子は楽しそうに頷いた。
すかさず、ミミが女の子の手を取ってソファへエスコートする。
皆でソファに腰掛け、ほっとひと息。当然、クマのぬいぐるみもソファへ着席していた。
俺は、アイテムボックスから木皿を取り出すと、餅スキルで作り出した月見団子を盛った。
木製のコップも人数分出し、生活魔法で水を注いでいく。
月見団子と水には、おまけで癒やし効果スキルを加えておく。
「さあ、どうぞ」
『美味しいんだよ?』
「いただきます!」
俺たちの勧めに女の子が月見団子を取る。
「えっと……、貴方もよかったらどうぞ」
クマのぬいぐるみにもどうぞと促す。
果たして食べることができるのだろうか。
「すまない、この体で飲食は不可能なんだ。気持ちだけありがたく頂いておくよ」
やっぱりか、と思うも、口には出さない。
俺がぬいぐるみと会話していると、女の子が月見団子を口に入れる。
「ッ! 美味しい!」
どうやら気に入ってくれたようだ。
「これ甘くて美味しいね」
「遠慮しないで、食べてね」
『んふー♪ マスターのお団子はね、凄いんだよ!』
ミミも月見団子を食べながら、得意気な顔で鼻を鳴らす。
さて、俺も頂こうかな。




